時計塔の化け物
ロワ編なのでロワ視点です。
世界で一番、オレは醜い。
オレは生まれた時、そんな風には思わなかったけれど、どうやら醜いのだ。
この髪が憎い、この目が憎い、小さな背丈が不安だ、――なんて考えた時もあった。
人のいる場所へ出れば、人々はオレを避けてひそひそと噂をする。
「あいつは不吉だ、白いから」
そんな声がいつも歩いて人と出会うと聞こえた。
オレの髪や目は、島の人とは違っていた。
オレの髪色は銀髪なのだけど、人目からは白くて、目は赤い。生まれ持った色素がどうのこうのって本では書いてあったけれど、島の人にとってみれば本に書いてあるなんてどうでもいい。自分がどう思ったかが島の人には大事なんだ。
「あいつまだ時計台にいるぜ! すっかり化け物の巣窟だ、時計台には貴重な本もあるのに」
「白い化け物、島から出ていけ!」
時計台にやってきた人と出会うと、何かを頭にくらい鈍痛で倒れそうになった。
何かをオレにぶつけた人達は嗤いながら、去って行く。
オレにぶつかった物は石だった、僅かにオレにぶつかった石に血が滲んでいる。
ぶつかった箇所を触ると、ひりひりして痛かったし、鈍痛がとても嫌だった。
くるな、近寄るな、触るな――どの意味を選んでも他人の目の色は同じ。
お前は「化け物だ」って嗤っていた。特殊な物を苛む、好奇心の塊だった。
オレを見つけると島の人々は、石を投げるんだ、今みたいに。
オレは最初はなぜそんな扱いをされるのか判らなくて、怖いよって泣いていたけれど、次第に涙はでなくなった。
オレは島では絶対にもう泣かないって決めた。表情もいつしか殺していた。自分を殺していたんだ、心とプライドを守るために。
無反応でいれば何も思われなくなる、嫌いや好きという感情は反応があってこそだ。
島の人々に、あいつは弱いざまぁみろって思われたくなかった。泣けば、皆は喜ぶから。
オレが嫌がる行為をして島中が喜ぶなんて悔しいじゃないか、だから少しでも島の人が喜ぶ行為を避けたかった。
憎んでるわけじゃない、人を痛めて喜ぶ人へは蔑んではいるけれど。
「痛い……時計台に絆創膏あったかな……」
オレは時計台の緊急救急箱を思い出して、呟いた。
オレにとって何が正解かは判らない、間違っていたかもしれない、自分を殺すなんて。
――ただ、手のひらに広がる血の痕が、やるせなくて。
オレは誰にも必要とされてないのか、と思案する寂しさを殺す。
気づけばオレは笑えなくなっていた。笑顔の作り方が思い出せない。
感情は全て殺して正解だ、とこんな時思い出す。笑顔を浮かべられない寂しさを思い出す必要性は消えた。
オレは時計台の前で日が落ちるのを待っていた、日が落ちれば島の人達は家に閉じこもるから。暗いから危ないって、みんな暖かい家で美味しい物を食べてから暖かくして眠る。
暖かい家と美味しい食べ物はどんなものだろうと想像しようとしたけれど、オレには遠すぎるので想像できなくてよく判らなかった。
どんな物を食べても、あまり美味しいなとは思った覚えはない。ただ知るために食べる、そんな動作だった。
日が落ちていくと暗闇が増えていき、オレの目は暗がりに慣れていく。
暗がりはとても気楽で、気安い。間違えて人とぶつかっても侮蔑の目は見えないし、オレの髪色に気づく人はいない。気づいても夜への不安さに気を取られて何も言わない。
明るい場所よりも暗い場所が好きだった、根暗だと人々は笑うかもしれない。いや、笑うような知り合いがまずいないか。
時計台から島の港へと歩いていく、その距離はおよそ四キロメートル。
他に比較する場所がないから、遠いのか近いのかオレには判らない。
オレは実際無知だと思う。だからこそ色んなものが知りたくて、人里を見学してみようとするが、石を投げられては逃げるしかないので最近はしていない。
この島は外周がマラソンと同じ距離か少しそれより上くらいある。コップを逆さまにした、綺麗な台形がこの島の形だ。




