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永遠のヨダカ

 ――ロワへ全て伝え終われば、私は元の世界に戻る。


 元の世界へ戻る途中、丁度この時空へきていた私と出会う。

 私と出くわすと、同じく星になっている「私」は蒼い王子様の服を着ていて、服の裾が同じく燃え上がっていた。


『やっぱりその選択を選んだんだね、そう、そうなんだ。私が自分を見失ってないでほっとしたよ』

「――皆を救いたいから」


 私は別時空の「私」に出会えた事実に何より驚いて、言葉を失いかけるが、根底にある願いを唱える。

 「私」はこくんと頷いて、真っ直ぐ私を見据える。


 ――予想をするのなら、私と同じ選択を選んで、別時空から私のいる時空のロワへ伝えにきた「私」ではないだろうか。

 私はドレス姿だというのに、「私」はちゃんと王子様の姿をしているのに、首をかしげた。

 「私」は胸元に手を置いて、苦しみを訴えてくる。


『それなら覚えておいて。本当の敵は琥珀じゃないし、屋敷でもない。ロワと勝負し続けている〝時間〟だ。頼も私も探し続けているが、〝時間〟は私とは一回きりの勝負しかしてくれないんだ……』

「頼も〝時間〟を……探している? 君は、私なのか?」


 いったいどういうことだ?

 王子様姿の「私」は、ほんの少し目をそらして黙り込んでから、意を決したのか、きっと眼差しを強める。


『君を〝現在の世界〟のリカオンというならば、私は〝未来の世界〟のリカオンだよ。童話でも民話でも、お伽噺でもなくなったことに君は気づいてないだろう。世界最古の物語は神話だよ。私達は、神話を象っている――』


「私」の眼差しは、心痛めた旅人と同じ哀愁がしている。


『頼は〝時間〟と契約し、私達が救える時空がくるまで、何度もやり直せる権利を〝時間〟から貰った。代わりに、あの時間軸で起きた全てのパラレルワールドの出来事を繰り越しで、体感する……のだと、「現在の世界」はそういう仕組みだ。〝時間〟がロワに関わろうとするのは――あの屋敷にとって、ロワという存在は希望だからなんだ』

「いったいどうなってるんだ?」

『未来は過去を変えてはいけない。だが、過去は未来を変えて良い。未来は無数に生まれるからね。頼はその未来を無限に生み出したんだ、〝時間〟と契約することで……。だから、救われる過去が生まれる確率を作った、まだ何も未来というものが訪れていない次元を数え切れないほど作ったんだ。頼の作った未来に、ロワが生まれてロワを守った。ロワが物語を変えるために、……さて、本が好きな「私」なら答えられると思うが、何かを思い出さないか? 勝利を司る運命の守護霊がいる物語……』


 北欧神話に、ディースという守護霊のような存在がいる。

 運命を決めるのがノルンで、運命の三姉妹と呼ばれる女神が有名だ。


(ディースを消したくない)


 ロワの声が脳裏に蘇る――。

 人間ならば人間の形を、猫ならば猫の形を取った、勝利を送る存在、それがディース。

 通常の人は、ディースといってそれが即座に思いつかない。

 ディースといえば、北欧神話の――。


『ただの物語にしては強力すぎる存在だ――本当に、呪いが解けたのなら、それはきっと……ディースの種類を知っているかい? その中に、ノルンがいる……頼もロワも物語じゃなく、神話になってしまう……』


 ノルンとは、ウルド、ヴェルダンディ、スクルド――運命の三姉妹。

 北欧神話で、過去・未来・現在を司る乙女たちだ……。

 ロワや頼がこのままだと、ノルンという神話を持ってしまうという……物語のままならば、ただの登場人物で人間と同じ姿だ。

 だが神となれば……神格化されて、……そうか、だからか。

 頼は過去を司り、ロワは未来を司り、私は現在を司る――だから時空を超えたり、星になれたりできるんだ。

 本来ならばただの人間が、こんな姿になれるのはおかしいと思ったんだ。

 物語にしてはあまりにも壮大で――ただの人間ならできない。神様になったのならば別だ。

 神話と言ったら、星座に纏わる神話でも判るが、何でもありなのが多い。


『私達に、神格化される呪いがかかっていて、呪いをかけることで救ったのは頼だ。だから、この戦いは頼の戦いだ――君はおとなしく別のロワに伝えたら、待つしかない』

「……頼が勝つ条件は何だ?」

『この物語を生み出している〝時間〟が、いったい誰なのか突き止めること、――ウルド・ヴェルダンディ・スクルド……私達と同じ存在以外、こんな仕掛けできるわけがない。三人のどれなのか、心から理解し、的確に名前を呼ぶ行為が相手を〝時間〟という概念にさせずに一つの存在として世界に認識されるようになる。名前っていうのは大事だよ、世界にとって自分は何なのか、示す。私達は、〝ヨダカ〟という名前を頼が譲ったから、星になったんだ。あの屋敷では、自分という存在がなんなのか、問いかけていただろう? あの屋敷で物語が大事だったのはそういうわけだ』

「そこまで知っていて、なぜ〝時間〟に勝てないんだ?」


 咄嗟に過ぎった疑問を聞くと、「私」は微苦笑を浮かべているのに、泣きそうな印象に見えた。


『〝未来の私〟では関われない世界だ、私は未来に生きる者。今は私の可愛い子が旅をしているから旅に付き合っているんだ――現在を司る以上、未来を変えることはできても、現在を変えるのはできない。それができるのは、過去を司る頼なんだよ……でも、頼自身が過去を変えるとしたら……皆との縁が途切れる時なんだろうね。いや、何でもないよ。兎に角未来に生きる私がいるのだから、救われるんだと信じてくれよ。君のこの次元を、私の可愛い子がいつか救ってくれる筈だ』


 王子様姿の「私」は「それじゃ」と言うと、元の世界へ戻ってしまった。


 ……私が思っている以上に、この事件は複雑らしい。





 風も、音も、臭いも、何もかもが止まった世界へ戻る。

 あれだけ怖かった鴉の鳴き声や、吹雪の轟音が懐かしいし愛しい。

 灰色のまま、若葉達は動かない――嗚呼、やらなきゃならないものがなくなっちゃった。


「しりとりでもしようかな」


 独り、膝を抱えて、私だけの持つ時間が過ぎていくのを待つ。

 いつか、別の私が事件を解決してくれたらいいなと、願いながら――。

 独りで、しりとりをする――言葉はすぐに途絶える。

 誰かが反応してくれるから楽しいゲームだったんだね、っと実感して一人きりで笑う。


 ……笑い終わると静寂がやってくる。

 私が全ての音であり、臭いであり、動く物である。

 徐々に弱気になっていく、ロワが心配していたのはこの気持ちだろう――それでも、独りである嘆きをしてはいけない。私は一人で永く生きるんだと決めたんだ。


 ただ、祈らせてくれよ。


「別の未来で、きっときっと救われる……私が、救うんだ。次の私が……」


 誰かの視線を感じる――……何処かにいる誰かの哀哭を感じ取った。それもでも、きっと気のせい。

 だってこの世界は、私の独り占め。私だけが何百年も生きていく世界なのだから。



第四章の終わり。リカオン主人公編は終わりです。

次は幕間に頼、それからロワへと移ります。


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