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ロワとリカオンの縁

 胃が痛い。当たり前だ、金属を食べようとしているんだ。

 頼みたいに昔から食べ物じゃない物を食べていたわけじゃないからね、自然なんだろうさ。


 でもこれまで私は何ができてきただろう?

 あの四人に何をしてあげられただろうか?


 こうして時間を貰うしか私にできないし、私が救える方法はこれしかないんだ。


 食事ってどういう行為か、私は少し分かってきた。

 食べ物を体の中に受け入れて、食べてきた物と共に時間を歩むんだ。

 たとえば豚を食べたら、豚と一緒に時間を刻んでいくんだ。食べてきた豚の数だけ、私にはそれらが身近にあるんだ。

 時間を受け継ぐのって、食べ物だけじゃない。

 付喪神なんて言葉があるんだから、物や絵にだって、時間や思いが継がれている。

 思いを継ぐ行為が食べ物なんだから、それらを食べられないなんて。

 そんな現実は否定していい、これは物語、面白ければそれでいいんだよ。


 そんな風に思っていた頃だった、遅いくる吐き気や痛みが麻痺してきたのは。

 口の中が鉄臭いのに、違和感を感じなくなった。


 食べきると私は腹部の痛みが強烈でその場に蹲る。

 ごろんと横になると、空がきらきらと輝いていた。

 嗚呼、ジャンプしたい。ハイジャンがしたい。

 今なら、飛んだら本当に空に届きそうな気がするんだ。私の唯一の心残りは、ハイジャンだ。私は跳べないまま終わるのか……って思っていたから、美しい空を見れてとても嬉しいんだ。

 星は歌うらしい、恒星は音に似た何かを発していて、誰にも聞こえない歌を放出しているとか。

 素敵だよね、歌う星。


 私は時間を止めているから、もしも音波をキャッチできる体だとしても、音波を慣らすような動ける時間は与えられない。

 だから星も空で、きらきらと瞬かない。

 何もかもが無音で、無臭で――自分の息づかいだけが聞こえる。


 嗚呼、世界で本当にひとりぼっちになっちゃった。

 何も、とうとう何もできなかった。

 時間を止めるのはできた、けど『別次元のパラレルワールドのロワに会いにいけるはずだ』というのは私の希望的観測でもあって。


 ねぇ、私は星が欲しいよ。


 空が欲しいんだ――ハイジャンが好きだったのも、空に憧れたからだ。

 強く、強く願うんだ――皆を幸せにしたい、幸せになるためにどんな犠牲でも厭わない覚悟をするんだ。

 私に関わった全ての人を幸せに――嗚呼、どんどん指先の感覚がなくなっている。

 体が動けない――何かがのしかかったみたいに圧力を感じて、押しつぶされそうだ。

 負けない、こんなところで負けたくない。

 私は、喉が裂けているのに、痛みを忘れて空へ吼える。

 頭の中で、数字があちこち飛んでいる、素数や偶数奇数、色んな数字が脳内で爆発している。

 時間を取り込んでいるのだろう――。


 今ならきっと宇宙まで飛べそうで――なんて思っていると、体が燃えているのに気づく。


 青く、青く――燐のような炎を持つ指先、足、髪の毛。

 すいっと指先を動かせば、しゅんっと指先に蒼い炎が一閃を引いた。

 私は蒼いドレスに身を包ませて、裾が炎になって燃えている。

 私自身の体が、真っ青な炎だ。


 どうして――嗚呼、そうか。

 頼が私に「ヨダカ」を譲ったと、ロワが言っていたじゃないか。


 私は「ヨダカ」という星になるんだ。


 私は体が燃えて、空に浮かび上がっているのに気づく――ヨダカは、月にも太陽にも星になれないと言われ、宇宙へ向かって羽ばたいて星になったんだ。

 ああ、じゃあ私も星になるんだ――それなら、止められる時間は三百年以上は伸びるはずだ。地球への星の輝きは、星が消えても三百年くらいは残るから。


 私が生きる時間だけ、皆の時間を止められる。

 私は――この時間を「物語」として、時間を止めよう。

 私が星でいる時間――世界は止まっていた。世界で誰一人動くことなく、雲すらも一ミリたりとも動かず、島では吹雪が酷い状態で止まっていた。


 雪はまばらに止まっていて、頼もロワも若葉も一切動かない。

 苦しみが進む時間も、寂しさが募る時間も、これ以上は無い。

 私だけが動き、私が時間を吸収し、時間を止めているから。

 ロワ、君はどこで生まれているんだ? 君に伝えなければならないんだ。

 私は星になった状態で、過去未来を行き来する、私の吸収した時計はやはり次元を変える力を持っているようで、私は違う次元のロワを探す。


 次の私や皆に不幸がくる前に――。

 いつしか、私は私を救える時間がくるのだと願う。

 私じゃなくても、別の私が皆を救える日を。

 私は君たちを見守ろう。永遠に――永遠に。


 しゃららと一緒に流れ星と、流れる音がする。時間移動による風が生まれ、ドレスがそれによって大きく靡き、薔薇の花みたいに裾が大きく広がる。

 ……私が、私がこの姿ということにも、意味があるのかな。

 たとえば、王子様姿になることができれば、世界を救えた証であるとか。


 ――今は。今は戦うお姫様で構わない。今は、それで少しでも何かを変化できるのならば、このドレスも受け入れよう。


 金属音みたいに弾けて消えて、衝突しては合体して星々が生まれる。

 私のような青い星を探して、地球を見つける。世界中が、灰色で纏まっている――青い星と言われる地球が、宇宙から見ると灰色だ。地球の時間を止めることはできても、流石にこの宇宙の時間までは止められないみたいだ。

 宇宙にとって地球の時間なんて、広大な砂漠で砂の粒に紛れた砂金みたいなものだから。

 金でも砂でも宇宙にはどうだっていいのだ、それよりも宇宙にとって大事なのは、星なんだ。

 いや、星ですらどうでもいいのかもしれない、思えば火星に生き物がいるかどうか気に掛けるのは人間くらいだ、それほどに宇宙は広すぎて。


 地球を見つけたら、すぐに向かおう、君たちの囚われてる屋敷へ。

 轟々と未来過去が私の中で巡っていき、ロワのいる時代へ目指す。

 嗚呼、白いふわふわの可愛い兎。別の君が生まれたら、君に真っ先に教えに行こう。


 若葉、シン、ロワ。それから、私よ。


 物語を閉じれば、私たちは新しい物語(せかい)へと旅立つだろう。

 こんな話忘れてしまうだろう。

 私たちはまた同じ事件を巡るのだろう、だから時計盤は重なっている。

 どの次元でもこの事件は避けられないんだ。

 事件が幾つもあるなかに、事件は終われば埋もれていくのだろう、本とはそういうものだ。だからきっと私も、ロワへ話を伝えれば、私の世界は完結する。

 誰も気に掛けないだろう。私だけが生き続ける、その覚悟を私はした。

 永遠に同じ日を繰り返すなんて、本来なら狂ってしまう。

 だが、本という形になって、物語という存在である限りは、何度でも同じ日を繰り返す。

 ハッピーエンドが現れない限りは、それを模索して繰り返す。


 ねぇ、頼、君を救いたい――。皆を助けたいけれど、最初に助けたいのは君だ。

 だって君は、老人になるまで孤独に戦っていたから。

 君もずっと同じ物語を見つめていないで、老人になるほど同じ本を読まないでいいんだよ。

 新しい人生を、歩ませてあげたい――新しい人生を、頼に歩ませる為の希望をロワへ託しにいくんだ。

 いつかくる平和な未来を願って。

 遠くに、老人を抱きしめているロワを見つける。


「お前に、『大きな古時計』の運命を落とさない――もうちょっと違う物語だと思い出させてやる。老いる程、苦しみに時間を費やさなくていい運命に運んでやる。少しの間、おやすみ。ディース」


 違う次元で決意するロワに近づく。ロワは、しゅんしゅんと輝き続けて、青い光を放ち続ける私に気づく。私は、形をしっかり留めなくて鳥の形を偶にしていて、その時だけ翼を羽ばたかせる。


「君はどうしてディースを、頼を助けたいの?」

「……――いつも傍にいてくれたのは、ディースだけなんだ。俺は家族と物語を違えてしまったらしい……俺にとって、家族になってほしいのはディースなんだ」

「そうか、それなら君にたくさん話したい物があるんだ」

「……青い星……ディースの持ってた絵本のヨダカ、か?」

「……君にね、たくさん託したい。君はディースを守りたい? それなら、君に任せたい出来事があるんだけれど……その為に、君に見て欲しい時間があるんだ……私達の〝物語〟を――」

「ディースを、頼を助けてくれるのか?」

「すごく、苦労するよ、きっと。それでも君は手伝ってくれるかい?」

「……お前と手を組む行為で、ディースが人を愛せるようになる未来ができるのなら。何が必要だ、何をすればいい? 何でも言え、どんな物でも用意する、絶対、絶対!」


 ねぇ、ロワ――君とまた物語を始めよう?

 今度こそ、選択肢は間違えないように。今度の私に言ってやってくれよ、今度はうまくやれって。


「一緒に助けよう、ヨダカ。お前がディースの言っていた、いつかやってくるお嬢さんなのだろう? お前が主役なのだろう? 俺はお前の、白兎だ」


 ロワの瞳は、必死で私の思いを託すには、期待ができるしっかりとしている眼差しだった。


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