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バッドエンドループが往復ビンタで襲ってくるけど、最後に笑って祝盃をあげてやる  作者: かぎのえみずる
第一章ー こちらにお掛けください、食前酒はどうなさいますか?
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理想へ突き進む

 フリルのついたリボンはいらない。ひらひらしたスカートも必須じゃない。

 赤いマニキュアやグロスもいらないし、ロングヘアーは他の年頃の女の子がすればいい。

 可愛くなる為の物、一切合切お断り中!

 私は可愛い女の子になるというのに抵抗があった。

 私みたいな年頃の女の子、いや、この年頃じゃなくても女の子は大体、可愛くあることを目指しているのが普通だった。

 まれに女性であるのを厭う人もいたけれど、私は女性であるのを受け入れながらも一つの思いを持っていた。



 私が目指すのは、この世で一番かっこいい人間。誰よりも頼もしくて、誰よりも勇敢なる心を持つ人間!

 例えるならそれは、王子様。眠れる森の美女では、ドラゴン相手に果敢に挑み。白雪姫では慈愛の心で姫に接吻をした、勇者。

 乙女の待ち望む人! それこそが王子様!



 気づけばずっとずっとなりたいもの不動のナンバーワンだった。

 何かが切っ掛けだったのは覚えていないけれど、私は小学二年生以来、王子様に憧れていた。

 十六歳である現在も尚、王子様になるための努力をしている。

 牛乳を飲んで背丈はようやく百七十センチになった。胸の発育はないけど気にしない。

声はアルトからソプラノまで広がった。

 日本の制服だからどうしようもないが、スカートを履いている。でもそれは学内だけ。外に出れば、パンツスタイルにショートカットでいるから男子に間違えられるのが多くなった。幼なじみは「女っ気がなさすぎるから間違えられるんだ」と言っていたが、私としては望むところでもあった。

 だってそれって、かっこいいって意味合いだろ? 私がかっこよく皆に見えているって捉えていいんだろう?

 あとは「私の理想」に向かって突き進むだけだった。

 誰がなんと言おうと私にはかっこいいと思う理想がある、明確なビジョンがあるんだ。

 赤茶の短髪は今の通り、いつかなりたい鋭い目、幽玄な雰囲気をいつかは持ちたい!

 妖しい色気に、強い信念。誰よりも強く優しく、いざというときに大事な人へ手を差し伸べる、背の大きな人!

 大人の色気とやらがあれば、完璧だろう!

 見目はそれなりに叶ってると思う、目が大きくてくりっとしてる以外は。ああ、でも幽玄な色気ではないか。どちらかというと「明るい」って皆に言われてしまうし。

 ただ大事な人に手を差し伸べる信念はあるんだ!

 「私の理想」に足りないのは後は――。



「そろそろ自分を、〝オレ〟とか〝僕〟とか呼ぶべきかね」


 後は知力だろうか。テストで赤点をとって、学年で下から数えたほうが早い順位とは、王子様らしくない。

 本来、王子様って賢くなきゃ、ただの色男で終わる。

 王子様には試練が幾つもあるから、試練をあっさり乗り越えられる知能がなければ困るんだ!

 なのに! 私という存在は!

 私は悲しみと悔しさを味わいながら、プリントに文字を滑らせた。

 窓に近い席だから、プリントに飽きて放っておいて外を眺めようとしたらおでこに軽い衝撃。前の席に座って、私に勉強を教えていた若葉克が軽くおでこを叩いたのだった。

 若葉はニット帽を被り直して、染めた金髪を耳にかけながら、いつまでも晴れない空を見るような極めて不満が募った表情を向けてきた。


「リカオンちゃん、補習プリント早く終わらせてよー」

「君の教え方が悪いのだ、若葉」

「どうだっていいから終わらせてよ、今日野菜が安いんだよスーパー。間に合わなくなる」

 私達の近所にあるスーパーヤカムラは、本日野菜が詰め放題の特典もある。

 私は母親が買いに行ってるから構わないが、若葉の家では若葉が料理担当班だからたしかに困るのだろうな。

 私は悩んだ末に解答用紙に、「判りません」と書いた。若葉はそれを見るなり、げんなりとした表情を浮かべた。顔が語ってる、「馬鹿だ、馬鹿の犯行だ」と。

 判ったよ、直すよ、ちゃんと考えるよ!

 ……若葉はいいな、大きな背丈でテストも上位だし、何より男の子だから。でも君には王子様というより、お姫様のイメージがつきやすいのはなぜだろうね。

 きっと君に言ったら、君は笑顔で私を威圧するんだろうね、怖いから言わないよ。

 ――若葉と私は所謂幼なじみというやつだ。

 私が日本に引っ越してきた時に、隣に住んでいたのが若葉だったのだ。

 若葉はそれ以来私の面倒を見てくれてきた。王子様を目指す女の子というものがどれだけ日本で生きづらいのか私は分からなかった。若葉はそれでも私の王子様になりたい気持ちを拒絶しなかった。

 ……私は若葉を否定したかった、若葉の顔にあるガーゼ、首に巻き付いてる包帯、腕にあるカットバン。色々とつっこみたいし、若葉のそれらは幼い頃から目立っていた。

 いつだったか学校に来ない日が数日続いて、不審に思って訪ねに行ったら若葉家は若葉が入院していた事実を隠していた! なんて時も多々あった。

 若葉を否定してすぐにそんな傷をつけた奴を殴りに行って、若葉を助けたかった。

 大きくなってから知っていった、それらは虐待と呼ぶのだと。ドメスティックバイオレンスだとさ。

 若葉は私が抗議しにいこうとすると、真っ青になって泣きながら「やめて」って止めてくる。そんな若葉を否定したかった! けど――君が耐えるのなら、私も一緒に耐えて行く末を見届けるのが相応しかった、もしくは弱みを握るまでは大人しくしないと若葉に仕返しがくるからね。

 私は悔しさを味わうしかなかったんだ、友達を助けられない。

 若葉はいつも私の悩みを聞いてくれるし、話にも付き合ってくれる。気安い友達で、とても優しい人。

 いつだって私を助けてくれるのは若葉で、私はいつもそれを逆転させたかった。

 君に守られて私は強くなったんだ、って若葉を守りたかったのに、若葉は良しとしなかった。

 若葉は私が怒るのを恐れていた、助けに行くのを嫌がった。

 そんな悔しい思いってあるもんか! 不満だった、いつだっていつだって!




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