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グラン・クヴェール


「今以上に心が痛む事態なんてないんだ。この次元はやり直せなくても時を止めることはできるだろう? だから、この世界の時間を止めて、違う次元を見つける。この時計があれば、きっと違う次元が見つかるはずなんだ。時計盤が重なっていた、同じく進行している時間があるということだ。別次元で進行している時間へ繋がるんだと思う、この時計を食べれば。違う次元とも繋がっているから、君の時計盤は重なっているんだ。違う次元の君へ伝えるよ、もう誰の心も荒ませない、永遠に時を止めてやる。そうすれば絵本は進まない、私達の物語は刻まれていかないで、別次元の私たちが救われる日がいつかくる。人類は学ぶ生き物だ、一度経験したら同じ間違いは選ばないだろ!?」

「……死んでやる、そう言ってるのと同じだぞ」

「違う、生きるんだ。誰よりも長く長く生き延びてやる。そうすれば私が死ぬまで、時は動かない、頼も死なない。若葉も罪にならない、シンちゃんも寂しくない。何より、他の次元の私たちが悲しまない」


 時計を食べれば時間を操れるようになって、私が生き続ける限りは、時間を進ませないよう操れる。

 この時計は恐らくだが、別次元の時間も表している、だから同時にいくつもの時計盤が存在しているんだ。


 もしもその時計を食べたら? 時間を掌握できるのではないのだろうか?


 どうやらこの時計は、こうして時を止めていても、時計の持ち主の時間は進むらしい。

 だから私は――ずっとずっと誰よりも永く生きるんだ。永く生きて、物語を次のロワへ伝えて、私は元の世界で動かない君たちと暮らせば良い。

 時計と一緒に永く永く君たちを見つめ続けているんだ。

 ただ君たちの時間は止まっていて、私だけが動いてる。

 それは、生き続けるって言葉に当てはまると私は思うんだがなぁ。

 この世界ではうまくいかなかったけれど、いつか物語の結末は変わるんだと信じて、別の世界でまたこの屋敷を訪れるだろう私達へ願いを託したいんだ。


 ハッピーエンドはきっとくる。

 何度もバッドエンドで居続けるなんて許さないからな!


「……お前だけ仲間はずれだぞ。お前だけ幸せになれない、永遠に。今、お前が時を食わねば、俺とお前の因果も消えよう。頼は兎も角、シンはお前を嫌っていたし、若葉は執着だったぞ。それでも、選ぶのか?」


 君は休憩時間の時のように、私の意志を確認する。

 これでいいのか、本当にこれでいいのか、と何度も確かめてくる。


 ――私は、さ。

 私自身のために色々してくれた人を、どうにかして助けたいよ。


 頼も、若葉も、シンちゃんも。ロワ、君も含まれる。

 これは私にしかできないだろう? ロワ、君がどうしてこの選択肢を選ばないのか判らないけれど、君にはどうしても選べない選択肢なんだろう?

 この役目は私にしか決定権がないのだろう?

 なら私にしかできない仕事――王子様らしい仕事じゃないか。

 皆を助けるヒーローになるんだ。


「私は幸せだったんだ、これまで。若葉と一緒だったし、この屋敷で頼やシンちゃんにだって出会えた。ロワ、君という可愛い王様面した兎にも出会えた。そのどれもが失いたくない、失わないための方法がこれ以上判らないんだ。君にも判らないだろう?」

「……ヨダカ。お前は若い。やり直せるチャンスや、ここから逃げ出して誰かと結婚する未来もできるかもしれないぞ」

「じゃあ聞くが、君の知ってる私は全員それを選んだかい? 皆を見捨てたかい?」

「……いいや、選んでないから、俺とお前の因果ができる」

「不思議だね、君に親しみを覚える。君との関係も消したくないって思うのは、ずっと長い間傍にいたからなんだね」


 私が笑う頃には、ロワの喉仏までが灰色になっていた。


 ロワの時が止まる頃には、ロワは子供らしく無邪気に笑顔だった。

 王の名を持つ可愛い私の兎、道案内有難う、疲れただろう? あとはもう私に、時間を任せるんだ。神様のまねごとなんてもう進んでしなくていい。

 時間を支配するために……頼、力を貸してくれ。


 頼から貰ったカトラリーを手にする、ナイフとやっぱりオーソドックスにフォークだろうか。ナイフとフォークで、懐中時計を捌こうとする。

 金属ってこんなに硬かったか? 手品師とか超能力者がデモンストレーションで使うスプーンとかの金属はもっと柔らかそうに見えたんだけどな。手先だけで揺らすとぐらぐらとゴムのように見えるとか、テレビでよくあるじゃないか。

 やっぱり頼のようにはいかないな、切れない、絶対に切れないし金属の音しかしない。

 力がいるし、力を込めたらカトラリーが壊れるんじゃないかって怖い。

 このカトラリーが頼りなんだ、壊すわけにはいかない。頼、君は器用だなぁこんなものを今まで食べてきたんだね。食べては自分の中で消化して、なかったことにして守ってきてくれてたんだね。ドアノブを食べた時もあった、よく考えれば君が死んでもおかしくなかった、あの時既に。生きながらえたのに、ここで終わるのはあまりにも勿体ない。


 ねぇ、頼、私もグラン・クヴェールを行いたい。君たちに見せつけたい、若葉、シン、頼、ロワ。私の食べ方は綺麗かな、仕事にできるほど優雅に見えるかな?

 見えなくちゃ駄目なんだそうしないとグラン・クヴェールにはならないんだ。

 たとえ時間が止まっていても、美しい所作は消してはならない。

 グラン・クヴェールは貴族の仕事。食べる姿を庶民に見せて、品を見せつける。羨ましいなと思わせる。高貴で幸せなんだあの人達は、って。

 ああ、ひとかけ切れた。ばちん、って音がして、切り落としたような状態だけど何とか。

 フォークで刺さらないから、スプーンで掬う。ゆっくりと口に入れてみる――鉄臭い。

 こんなもの噛めない、冷たくて、苦くて、硬い。歯が折れるよ、こんなの。


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