主人公たる決断
私はロワに不思議な親密度を感じていた。
今まで異次元で別の私が、君に出会っていたからそんな感情が生まれていたのかな、なんて笑いたくなった。
君に懐かしさを感じるくらい、頼は時間を重ねてきたのか。
十代の若者が老人になる程、頼は屋敷に待ち受ける苦難を乗り越えさせようと、導いてくれてきたのか。
何回同じ時間を行き来したのだろう。何回同じ反応を見てきたのだろう。
変わりない一日を、ずっと気の遠くなるほど繰り返す。
同じ、僅かな誤差しかない一日を、何十年も。
――頼は、よく狂わなかったな。
頼への懐かしさも、異次元での感覚が含まれているからかもしれないとも思った。
私は主役。
人は自分が主役だと思って、人生を歩む。誰だって。
だが確実に頼は、主役を捨てていた。君はいつだって、先を歩いているんだね。
今度こそ、手を取って一番先頭で歩くのは私だと思っていたのに。
私には何ができるのか。
悩んだ、深く深く。深海よりも深い底にいるような、答の見えない悩みだ。
私は、私は――。
手に何を握りしめているのか。
握りしめている物に触れると、先ほど灰色の時間が止まっていた世界を思い出す。
よく見ると今と同じ光景だ――そうだ、ロワがもたらす光景に似ているんだ。
なぜ世界が灰色になるのか、それはロワが時間を操って、私に話しかけるから。
なら、ロワの持つ何かが時間を操っているんだ……それなら……!
私は〝それ〟に触れて、一つ思いつくと、ロワににっこり笑いかけてみる。
「ねぇ、ロワ。君の持つ時計を見せてくれないか? 今が何時か知りたいんだ」
「俺の時計は複雑だぞ」
「数字を見て安心したいんだ、人は時計を見て時間が判らないと狂いかけるらしいよ」
ロワは優しい子だから。こんな風に言えば、見せてくれるだろう。
予測通りロワは嘆息をついて、胸元から懐中時計を見せた。
私は――それを走って盗んだ。ロワが時計を完全に表に出した瞬間に走って、手に取っていた。盗んで、一メートル先くらいの場所で振り返る。
私が時計を奪うと、ロワの足下が徐々に灰色へと変わっていく。ロワも他の人同様、時間が止まるのだろうと判った。
ロワがどうやって時間を操っていたのか――この時計を持っていたからだ。
この時計を好きにできれば、世界をどうにでもできる。
時間経過を止めて物語を進めさせないという無理な願いさえも可能だ――!
「どうだ、これで私が主役だ。私が時間を〝食べて〟吸収して、全て操ってやる!」
手に取るだけじゃ駄目だ、食べて吸収して誰にも時計を渡さないんだ。
私が、時間そのものになってしまえば、手っ取り早い。
何より、そのほうが「物語としては」面白いだろうから、屋敷は許して受け入れてくれる。
現実に可能となるチャンスをくれるはずだ!
私が叫ぶように大声で主張すると、ロワは――安堵したように笑った。
私はロワの笑みで、ああ、またしてもロワの予想通りに事が運んでしまったんだな、って少しだけ不愉快に思った。
主役なんだろう、どうする? って煽っておいて、君には正解が見えていたなんて酷い話だ。




