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主人公に出来ることとは

 ロワは、ゆるゆると二人を直視しないように首を振った。


「今回も間に合わなかった、やはり俺には干渉できんものなのか……」

「今回?」


 私は情けなさのあまり、ロワに笑いかけていた。

 情けなくて情けなくて、憤る。自分を嫌いになってしまいそうな、感情を何処へやり過ごせばいいのか判らなくて笑っていた。

 笑うという行為で、現実はなんて馬鹿なんだなぁって自分の業を直視しなくてすむ。

 私が、何も救えなかったのは、私が愚かだからと自覚しても、現実味を帯びないでこれは丁度良い物だ。

 ロワは、そこらにある岩に腰掛けて、足をぶらぶらとさせて答える。

 前に撃たれた腕は、血の痕はあるものの動かしても痛くないのだろうと予測ついた。

 なぜ痛くないのかまでは判らないが。


「俺には目的がある」

「目的?」

「目的のためにお前を利用してきた――ずっと。だが間に合わないんだ、いつも」


 ロワは空中で吹雪が止まっていて浮かんでいる雪を抓んで、口に入れた。

 そんなもの口にしても味なんてしないのに、素振りが急に幼くて、何だか可愛かった。

 雪をじっと見つめた後に、頼へ視線を向けて、ぽつぽつと語り出す。声のトーンが雨音みたいに優しい。


「ディースを……頼を救いたかったんだ」

「……ディース? 頼の名前かい?」


 ロワは片腕を押さえて、考え込むようにしていた。

 話して良いのかどうか悩んでいるのだろう。言葉を慎重に選ぶ為に、頭の中で言葉を用意して、パズルみたいに組み合わせるような、ぎこちない話し方をした。


「この時間を重ねてきた頼の名前だ。頼はいつもお前達を救うために少しずつ展開を変えていこうとしていた。絵本、持っていただろう? あれだ、あれにお前達のことが書いてある。お前達の他の〝パラレルワールド〟での結末。ディースはお前達がこの屋敷から出るのを望んで、何度も時間を〝重ねて〟違う結末にして、助けようとしていた。俺の知ってるディースはな、老人の姿なんだ。それだけ時間を必要としたから、一気にあのような老人になったのだろう。ディースの行為でお前は最近救われるようになってきた、けれど俺は納得がいかない」


 ロワは岩からぴょんと飛び降りると、刺されている頼に近づいて、頼のお腹をそっと触った。頼の刺されている腹部に手を当てると、心から痛みを感じてるような表情をした。

 ロワの強い感情的な表情は、私の理想を忘れた時に向かった表情以外では初めてで、私は驚愕した。

 それ程に頼が大事な存在で、頼がいなくなるのを厭うのが誰にでも判る表情だった。

 頼を守りたかった、と表情が物語っている――それなら頼と直接話せばいいのに。

 ロワは私の物語とは混じれても、頼の物語とは混じれないのだろうか。


「お前はディースをヨダカであると言っていたな、……俺の知るディースは違う。ディースは『大きな古時計』のお爺さんなんだ。時計と共にあり、時計と共に死ぬ。ディースはお前を救うために、ヨダカであることを捨てたんだ。主役であろうとできるのに、お前を主役だと認めてお前にヨダカを譲った。お前が主役になれば、せめてお前だけでも助かるんだと信じてな。そんなの俺は認めない、だってお前はこんなにも何もできない。お前が主役だと認めていいと、俺は思えない。主役のように誰かを救ったりしていない――待ちわびていた主役だと思っていたのに、裏切られた気持ちだ」


 ――私は否定したかった。歯を食いしばって、動揺を殺す。

 何もできない現実を認めたくなかった。

 助けたいと願い、救いたいと努力し、屋敷に抗いたいと行動してきた。

 でも、頼もシンも若葉も私のせいで、何も救えなかった。

 自分の力不足を痛感する、痛感するだけじゃ猿の餌にもならないっていうのに。

 今からでも救う具体案が浮かべば、否、と言えるのに。私は、ただただ悲観と衝撃に歯を食いしばるだけだった。

 奥歯に力が籠もる、ごくりと生唾を飲み込んで、ロワの言葉を待っていた。

 断罪されるのを待つ囚人のように。


「俺はディースと一緒にいたい。だが、ディースはこのままだと消えてしまう。俺はディースを取り戻したい。……頼を、助けたい。さて、それでも尚、この場では厚顔ながらも主役であるお前に問おう」


 ロワは振り返って、銀色の髪の毛を揺らし、赤い可愛い瞳で私をじっと静かに見つめる。

 生活感を感じられない神秘的な外見の少年は、私へまっすぐ挑んできた。品定めをしている――今までの言動からお前に得はあるのか、と瞳が問うている。


「お前に何ができる?」


 それは私が誰よりも真っ先に、私自身へ訊きたいな――。

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