表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バッドエンドループが往復ビンタで襲ってくるけど、最後に笑って祝盃をあげてやる  作者: かぎのえみずる
第三章 メインディッシュはお肉にしますか、魚にしますか
52/138

シンの大胆な行動

 頼へと手を伸ばした瞬間に、鎖が生き物のようにぬるっと動いた。

 ゆらゆらと水槽の中で揺れて、鎖が増えていく。鎖が私の腕を掴んで放さない。

 私は咄嗟に頭上へ手をあげようとしたが、鎖の力は強くて、痛みを思わず叫んでシンちゃんを心配させてしまったようだ。

 鎖は私を水槽の奥へと引っ張る。



「やめろ!!」


 私は叫んで鎖を蹴ろうとしたのだが、今度は足が掴まれて引っ張られる。

 まずい! 水中に私は誘われた。私は頼のように物語の世界での生き方は判らない。

 だから水中に沈んだら、死ぬだけだと思って、急に恐怖がしゅんっと過ぎった。

 暴れようとしても、鎖が益々締め付ける。私は吃驚して、正面を見やる――そこにはシンが水中越しに見える。

 シンは気のせいかな、さっきの印象のせいかな。悲しげに見える。


 逃げてって言いたかった。でも……シンは動いた、水槽に近寄って鎖を引っ張って、私を手繰り寄せる。シンの手先が水に濡れて少し滲んでいた。


 水面から抜け出て顔が浮かべられた、シンは私に消えそうな手を伸ばす、私もシンに手を伸ばそうとする。シンの手先はぼたぼたと絵の具が、垂れていて、水槽にぽちゃんと沈んでいく。シンは必死に勇気を出しているんだと、手先が滲んでいる現実で判る。


 ――その時に、部屋の天井に文字が浮かんだ。


『世界が違うだけで、幸せを願い滅びる女性もいる』


 そんな文字が見えたけれど、咄嗟に思い浮かぶ物はない。

 シンちゃんが天井に気づき、じっと見つめ、黙り込む――。頼と私を見比べて、じっくり何かを考えようとしていたが、考え込んだ後に、シンちゃんが水槽に飛び込んだ!


 私は思わずシンの名前を叫んだ。

 シンは強気に、されど鮮やかに聡明な笑みを見せてくれる。


「ねぇよく聞いて? あたくしの絵の場所はね、階段のところ。いいこと、決して忘れないでくださいまし。忘れたら恨んでやりますわ」

「シン!」

「……あたくしね、絵の中の世界って大嫌いなの。絵画の縁が窓みたいなもので、そこからしか明かりが入ってこなくて、独りを痛感して寂しかったの。でも、頼様がいつも外へ招いてくださったわ。本当に……独りだったの、ずっと、ずっと。今度はあたくしが頼様と、頼様の大事な物を助ける番だわ。――不思議ね、今は絵の中が愛しい。だってあたくしが消えても、貴女たちの傍にあたくしの居場所ができるもの。もう、独りじゃないわ」


 シン、やめて。そんな遺言みたいに想い出を語らないで。

 聞きたくないよ!

 シンの体の先が、インクが滲んだように、そこから水に色がついていく。

 ドレスの緑色がじわりじわりと。シンの体はそこから溶けていく。


 もしかしてこれは――シンの物語を想像できた瞬間に私は身震いがして、シンに手を伸ばして助けようとしていた。

 自分が溺れかけているのに関わらずに、シンへと手を伸ばしていたんだ、自分なら助けられるって。


 ――愚かだった。


「悲しいお姫様も存在しますのね。でも――あたくしは、絵を連れて行ってくれるのなら、もう構わないとさえ思いましたわ。あたくしがいなくても、あの絵画が外へ行けるなら……あの絵画ね、この屋敷にあるのが勿体ないくらい素晴らしい絵だとあたくしは思いますの。何せあたくしを描いた絵ですわ。雲村紅の絵ですわ、誰にも文句は言わせなくてよ!」

「シン! シンやめて! もう水槽から出て! 今なら間に合う!」


 シンの主張が最期の言葉なんだって自覚していくから、一気に悲しくなっていく。

 衝撃が全身を走り、私は嫌だと心から叫び、シンにやめるよう要求する。

 シンは、じっと私を見つめた後に、妖麗に笑った。


「貴女があたくしに命令? やめて頂戴、そこまで仲良くなったつもりは御座いませんわ。これはあたくしの物語、あたくしがどうしようと勝手ですわ。この部屋はきっと最初からあたくしに問うていたのね、大事なものを無くせって頼様を危険な目にあわせて。それから次はあたくしに消えろと! 貴女の邪魔をしたからですわね、人を呪わば穴二つって本当でしたのね」


 シンはやれやれと肩を竦めて、不敵な態度を取る。

 その笑みがまた余計に寂しくて、私は自分の無力さを痛感する――この女性を助ける行為は、絶対にできないと。

 私は、心の何処かで気づいた――シンの自害が私と頼を助けるんだって。

 私には想像ができない、シンの覚悟がどれ程勇気が必要だったのか。途轍もない大きさの勇気が。勇気を出して頑張ったというのは想像できるけれど、それ以上の勇気なんて簡単に思いつくわけない! 思いつけると思うのが烏滸がましい!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ