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バッドエンドループが往復ビンタで襲ってくるけど、最後に笑って祝盃をあげてやる  作者: かぎのえみずる
第三章 メインディッシュはお肉にしますか、魚にしますか
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ロワの持つ物語

 廊下で私は、霞のようだった記憶に色づいて、蕾が花開くように若葉への記憶を取り戻していった。いいや、この屋敷へきてからの記憶を――。

 手が震える、震えた後は悔しくて掌を握りしめて、顔面にあてて声を殺した。

 泣き声を堪えてから、助けを求めるように、小さな私の神様を呼んだ。


「……ロワ……」

「思い出したか、愚図が。二度と……二度と忘れるな。大事なものを、お前の理想を。全ての物語が終わっていたところだ、俺が現れなかったら! あいつがお前が王子である事実を願わなかったら!」


 ロワはわななと震えて、小動物みたいな仕草で怒っていた――。

 私を見上げ、じっと睨み付けて、私の鼻先に指をずいっと押しつける。

 声は刺々しく、完全に敵意を向けている。


「何もかもが台無しになるところだった! お前は偉大な女だと思っていたのに! お前があの部屋を訪れて失うのは、〝犬〟についてだけだと思っていた。なぜ、自分の理想を忘れる?! お前は、脇役にでもなったつもりか?! お前は脇役じゃない、主役だ! それをお前も望んでいた! 〝俺達〟はお前を待ち望んでいたんだ、お前という主役を」


 申し開きもできないよ……。私は項垂れて、眉間を抑えて嘆息をついた。

 落ち込む私を見て、ロワは少し満足がいった態度を見せて、落ち着いた。

 ロワが落ち着いてくれたなら、ふと過ぎった疑問に答えてくれそうだと思いついて、尋ねた。


「ロワ……あの人はどこにいったの。頼は……」


 ロワは、ぴくんと片眉を動かし、はっとした様子できょろきょろとする。


「……そうだ、迎えに行かねば……早く……! ヨダカ、……俺は扉を開けておく。俺には何人もの人が重なっている。俺一人で、何十人分の容量はあるから、開けられる。お前たちは、ただ出口に向かっていけばいい。いいか、もう俺は時間に二度と負けない。次にまた会うときは、止まった時間の中だ」

「ねぇ、ロワ、一つ思い出すついでに考えたんだ。君について。君は時間を使う人、時計に関わる人。物語には一つ思い出すものがあるんだ――兎さん」


 ロワは鼻をひくひくとさせてから、私に押しやっていた指先をどけて、先ほどの剣幕が嘘だったかのように、明るく子供らしい笑みを浮かべた。この子には「子供」らしい仕草など無縁だと思っていたのに、いざ子供らしい笑みを見るとほっとする。この子には笑っていて欲しい、って。


「俺とお前の縁は途絶えないようだな」

「――時計兎なんだね、やっぱり。時計を持つ人物といえば、その物語だ」

「正確に言えば、時計兎の息子だ――親父の記憶など俺には無いが、一つ覚えているものがある……この時計」


 ロワが胸のポケットから、きらきらとした宝石で出来た懐中時計を見せてくれた。

 ぱちんと蓋を開くと、中で沢山の時計針がちくたくちくたく忙しなく動き回っている。


「この時計がとても大好きだった。親父から貰った物だと思う――それから、とても鮮烈な赤、それだけを覚えている」

「――だった?」

「……俺にはもっと大事な時計ができたし、時間とも対立を始めたんだよ、ヨダカ」


 ロワは笑みを消し去り、小さな意志を強く固めた表情で俯き、そのまま屋敷の奥へと向かった。

 暗い屋敷の中で声が響く、ロワの声だ。


「水晶を割った部屋に〝犬〟がいる――、ヨダカ。俺にはもう一つ物語がある。今のお前には判らぬものだ、判った時刻こそ、屋敷の在り方も判る頃だろう」


 ――小さな子兎さん、君はまた孤独に闘おうとしている。

 君にはアリスやハートの女王はついてないのか?

 君は既に君自身の物語と決別を済ませているんだね。君はもう本来の物語からは外れている。輪にはいる行為はもうできない。



 ロワ、君の物語は「不思議の国のアリス」――。


 君のもう一つの物語とは何だろう――?

 流石にそこまでは私にも判らなかった。

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