別れを覚悟した瞬間
「なぜ願わない?! お前は魔法使いなど嫌である筈だ。王子様になりたいとなぜ心から願わない? 俺を現実に出すためか?」
「――何でかな、自分でも分かんないけどさァ……リカオンちゃんには、やっぱり〝王子様〟であってほしいって思ってしまったんだよねェ……リカオンちゃんは何もかも救うかっこいい人であって欲しいって、……どっかで願ってるンだ」
男らしくない繊細な優しい微笑み。若葉の笑みを見て、私の脳裏に何かが引っかかる――若葉が王子様で私がお姫様?
いいや、私は若葉を何かから助けたいって思っていた筈だ。
若葉を、そうだ、若葉の家族から守りたいって。何より、若葉をそこらの乙女よりもお姫様だと思っていたじゃないか。
私は、お姫様じゃない――そうだ、王子様なんだ……ロワが撃たれた腕を押さえながらも、私のほうへ近づいて、私を部屋の外まで連れて行こうと引っ張る。
「若葉、私は……私は……」
今、今なんだきっと。何か私達は後悔しても遅いくらい、すれ違い始めているのだとようやく気づく。
だから、若葉に声を掛けられるのは、今が最後のチャンスなんだ。
何かもっと君を揺さぶる言葉を映画みたいにかっこよく言えたら良いのに、私はただただ君の前で弱みを曝け出す。
そんな私を、君は確かに王子様だと言ってくれた……言ってくれた!
私は――王子!
一瞬でも王子という言葉を心でかみ砕いて理解すれば、目頭がじぃんと熱くなる。
感動しているのか、認められて嬉しいのか。
全世界が否定しても、君だけは王子様を応援してくれていた――なぜ今思い出すの?
「王子様、君を呪うよ、悪い魔法使いらしくね。屋敷から出て行くのだけは邪魔するから――。それが、君を拒絶する、俺の覚悟した敵としての役割だ」
若葉は本物の銃ではなくて、手の形で銃を真似て、人差し指で私を指さして「ちちんぷいぷい」と笑った。魔法をかける呪文だ。
魔法使いが嫌だと言った君が、欲しかった主役という立場にいるのは私だと認めて、呪文を道化のように唱えるのはどれ程辛いのだろう?
眼の奥がつんとして、がつんとした感動に鳥肌が総毛立つ。
――若葉。まるで、この屋敷に来るまでの出来事が幻のようだった。
若葉の行動を見てから、若葉が狂いだしてから、何もかも普通の若葉は私の中から消えていた、思い出せなかった。
けれど、今話していた君はいつもの君だったような気がするよ。
私より頭良いのにドジで茶目っ気があって、明るさが取り柄の、親しみ溢れる君だった。
私が何かを叫ぶよりも早くに、ロワが私を部屋の外へ連れ出そうとしてるから、引きずられる。
扉が閉じられる、君に何か言わなきゃ、言わなきゃ!
若葉、でも君に何を言えば良い?
私は情けないよ、君に対して何も思い浮かぶ言葉がない。ドラマとかなら、きっと君を取り戻せる言葉が見つかるだろうに、私は言葉を見失う。
――帰ってきて、これは違う。
――君のせいじゃない、これは嘘だ。
――今なら間に合う、これは慰めにもならない。
思い浮かぶ言葉のどれも、ピントがずれてる。早く早く! もっと何か相応しい言葉があるはずだ!
君が怯えてる瞳で私とロワが出て行くのを見つめている、小さく唇が動いている。
――さ・よ・う・な・ら。
駄目だ、若葉、私は君を助けたい。君は明らかに助けを必要としている――だから、だから何か――。
「若葉ぁ!!!」
何か言わなきゃいけないのに!! 何で、この唇は君の名を呼ぶしかできんのだ!?
手を伸ばしてロワに引きずられて、大声で叫ぶ私はあまりに滑稽だ。
君は、おっとりとした笑みを浮かべる。




