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バッドエンドループが往復ビンタで襲ってくるけど、最後に笑って祝盃をあげてやる  作者: かぎのえみずる
第三章 メインディッシュはお肉にしますか、魚にしますか
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お姫様キャンセル

 ぽかぽか。お日様の暖かみ、とまではいかないけれど、ランプの色は暖色系でほんのりと肌が温かく感じる。人の影と、シャンデリアが目に入る。

 私は誰かに膝枕されていた。逆光で誰が膝枕してくれているのか判らない。

 そもそもなぜ私はこんなところにいるのかも判らない――。

 どうして――冬休みのはずなのに。グランマは帰れって言ってたから、グランマのところに帰ったんじゃないのか?


「起きた?」


 軽やかな明るい声。私はこの声を知っている。


「若葉?」


 この場所がどこか判らないのに、なぜ若葉までいるんだろう。

 若葉と一緒にここへきたのだろうか、私は小首傾げる。

 ゆっくりと起きあがろうとしたら、若葉は微苦笑して「このままでいいよ」と制した。

 私はこのままでいるのは何だか気恥ずかしいので、抵抗気味に身を捩り、向きを変えた。

 視線の先には、横たわって呼吸が途切れそうな人がいた。

 私は魂消て、ばっと起きあがってその人に近づいた。


「大丈夫ですか!? な、何? 何がどうなっているの!?」

「……僕が判らないの……か……」


 私が近寄ると、その人はゼヒューゼヒューと呼吸を乱しながら、真っ青な顔で私を見つめる。真っ青なのに、睨み付けてくる眼光は鋭利なままで。


「記憶消しの部屋か……」

「何、それ? 君は何か知っているの?」


 私がもっと追究しようとする前にその人は気を失った。

 ふとその人の周りが鉄臭い匂いが漂っていて、血だらけな様子に気づくと、私は声をあげて若葉に抱きつく。気づけば、他にも死体があった。


「何よこれ?!」

「アシュリー?」


 若葉が訝しげに私へ問いかける。

 私は若葉を見上げて、若葉に血だまりの人を指さして泣き喚く。


「この人何なの、どうして? ここはどこ? 若葉、何か知ってるの? 怖いわ、私」

「アシュリー、君……」


 若葉は目を細めて一瞬睨み付けてきたが、すぐににこっと私の知ってる若葉の笑みに戻る。

 温かくて心が優しくなれる、ほっとする笑み。

 若葉は私の頭を撫でながら、くっくと喉奥を震わせた。


「そっかぁ……今のリカオンちゃんは王子様じゃないんだね」

「え? な、何言ってるの?」


 王子様? 何の話かさっぱり判らないけれど、王子様って普通は男の子を指すんでしょ?

 どうして私を見て、私が王子様でない事実に安心するか判らない。

 混乱する私をほっといて、若葉の隣に黒髪の女の子が近づく。

 うっとりしそうな程美しい艶やかな姿に、私は何か懐かしさを感じていた。


「若葉、お姫様が増えましたわ、これで貴方がこの子の王子様になれば宜しいのよ」

「そういうことみたいだね……なんかよく分かんないけどさ」

「ふふ、本来はこれが正しいのよ。それぞれあるべき姿に戻っただけですわ」


 女の子はとても何か嬉しい出来事が起きたみたいで、優しい声で笑った。

 女の子の笑いとは対照的に、若葉は何かが欠けている不満足の人形みたいな寂しい表情だった。

 若葉は笑っているのに、どうしてそんな表情を若葉から感じ取るのか判らない。

 いつもの笑みだというのに。


「そっかぁ……王子様じゃないアシュリーかぁ……」

「若葉?」

「ああいや、何でもないよ、リカオンちゃん。ああそうだ、この子判る?」


 女の子を指さして問いかける若葉に私は首を振る、女の子は沢山飾られているドレスの中から何かを選んでいてアクセサリーも一緒に眺めていた。


「この子は、シンちゃん。じゃあ頼ちゃんのことも忘れているのかな――」

「頼って?」


 髪の毛よりも細い琴線が引っかかった。

 頼という単語そのものに何かが心惹かれ、私は若葉の衣服を握って問いかける。

 若葉はにっこりと微笑んではくれたけれど、何も教えてくれず、シンも何も教える様子は無かった。

 若葉はゆっくりと衣服を握っている私の指を、一本一本丁寧にゆっくりと解いてく。


「ねぇ、瑠璃色なんかどうです? 貴女の髪の毛と一緒に見ると、ビビッドみたいで綺麗だと思いません?」


 シンが瑠璃色のひらひらとしたお姫様が着るようなベルラインのドレスを選んできた。

 レースが腰回りに寄せてあって、釣り鐘をイメージさせるスカートライン。

 黒いレースがセクシーだけど、ドレスのデザインが可愛らしくて。

 これを着ろというのだろうか、私は小首傾げて二人を見つめた。

 ドレスよりも、あの血だまりの人を気にしたらいいのに、二人は空気のようにあの人を扱った。


「ああ、いいね! とてもリカオンちゃんに似合う色だ! 二人並んでいたら、きっと素晴らしいよ」

「そう、あたくしの隣に相応しいでしょう?」


 シンはにこにこと嬉しそうに私にドレスを宛がう、私は咄嗟にドレスを拒否してしまった――手が、手が勝手に動いたのだ。

 手がどうしてか、嫌だと先に感情を訴えて、ドレスをはたき落としてしまった。

 シンは吃驚したような表情を見せて、若葉は無表情だった。

 若葉は笑おうとしている途中のような瞳だけれど、顔には何も描かれてなかった。

 私ははっとして、ドレスを慌てて拾う。


「ご、ごめんね……」

「いえ、いいのよ。そのドレスが気に入らないのなら別の物を着ればよろしいの」

「な、何でドレスを着なきゃいけないの?」

「この屋敷で、貴女が〝お姫様〟であるために。若葉が〝貴女の王子様〟になるために」


 私がお姫様……? 若葉が王子様……?

 若葉は昔から私と一緒にいてくれた。私にとっての王子様は、もしいるのなら若葉しかあり得ない筈なのに、まるで他に候補がいるような口ぶり。

 でもそんな口ぶりに、シンはきっと気づいていない。若葉も気づいていない……本当に?

 若葉は少しだけ私から視線をそらしている。まっすぐと見てくれない。

 若葉と目が合うと、僅かに自嘲的な笑みを浮かべた――私は物凄く胸が切なくなった。


「シンちゃん、ちょっと他の部屋の様子見てきて。リカオンちゃんに話があるんだ」

「え、でも……」

「お願い、二人にして」

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