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バッドエンドループが往復ビンタで襲ってくるけど、最後に笑って祝盃をあげてやる  作者: かぎのえみずる
第三章 メインディッシュはお肉にしますか、魚にしますか
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海のような人

 遠い昔の想い出。


 兄がいるのだと思い出してから、思い出したもの。


 兄は肉が嫌いだった。いつだったか、テレビで精肉店のCMを見て、それ以来駄目だった。

 精肉店のCMは何の変哲もなく、ただひたすらに肉を映したCMだった。

 綺麗な白と赤が組み合わさった霜降り肉を、映像で流しただけの、普通の物。

 残酷なのは、牛肉なのに牛のマスコットが「美味しいよ!」と宣伝してた構図。

 兄はCMを見た直後、青ざめて具合が悪くなり、胃を痛めた。

 それ以来兄は肉を食べなかった――それだけじゃない。

 野菜も食べようとしなかった。できるだけ、水と塩と檸檬だけで生きようとしていた、仙人みたいな人だった。

 それでも喧嘩が強い人だったから、儚い印象は無かった。

 目の前の頼はどうだ――強そうな視線はそのままだ。けれど、何処か儚さが見えてしまい、浮き世めいている。

 現世に生きる人ではない。頼の生き方は、物語の子孫だからといってここまで儚い気品を漂わせる程の生き方だったのか? それならばシンだって儚くて良いはずなのに、あの子はどうにも、リアリティはないけれど、儚くはない。


 儚さの理由は、きっと――人間用の食べ物を食べないからだ。


 そうだ、またしても私は大事な出来事を忘れるところだった。

 頼は、「食べる行為が怖い」と言って、頼は此処へ残ったんじゃないか。

 私が食べなくて良いと言い出したから、頼はきっと思い出したのかって問いかけてきたんだ、あの時。

 ……ママ達のいる世界に戻ったとしても、食べ物を食べなくては生きていけない。

 何よりママ達は、頼を覚えていない。

 私一人しか頼の存在を知らない世界でどうやって生きていける?


「頼」

「触るな」


 頼を励まそうと手を伸ばそうとする行為を見破られ、牽制される。

 頼は背中で「オレに構うな」とはっきりと主張していた。頼が一人になりたがるような瞳の理由が何だか分かった気がした。

 私のいる世界では物を食べないと生きていけないから、期待したくないんだ。

 「物語の世界」でなら、物を食べなくても自然だから。

 私の今している予測が正しければ、生き物を食べずに済むから。

 私は「触るな」と言われたのに、頼の背中に飛びついて抱きしめていた。

 頼はじっとして動かない。私がどんな思いでいるのかさえ、この男には判っているのだろう。だからこそくみ取って動かないのだろう。

海のような人。ある程度の域までは関わるのは恐ろしい程、危険だけど、関わり方を覚えると、美しいものを見せてくれる。

 何者でも受け入れて共存していこうとする深い包容力の、海のような人。

 だけれど、海は泳げない人にとっては恐ろしい怪物。体温を奪っていき、足も届かないでいると、溺れ死ぬ。

 若葉はきっと泳げない人で、私は浮き輪に捕まって泳いでる人なんだろう。


「頼、一緒に出ようよ」


 頼には届かない言葉。君がなんて答えるか知っている。


「考えておく」


 優しい君は、完全否定でさえできないのだ。

 海の人、ねぇ、泣いてよ。そしたら、君が人間らしくなるような気がして。

 今の君は昔から変わらない「王子様」。だけど、余りにも作り物めいていて、感情が感じられない。なんて寂しいんだろう。

 目指していた人物が、悲しい生き物だと悟る――私は益々、強くなりたいと願った。

 強ければ、頼を守るのだってできるのだから。

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