お姫様と魔法使いの出る物語は……
「止めないんだな」
私は頼に顔を向けて、頼の様子を窺おうとしたが、頼は興味なさそうな――だけど意表を突かれた顔をしてシンの背中を視線で追い続けた。消えても尚。
「シンデレラ……」
頼の小さな呟きに、私は深く頷く。
若葉には「魔法使い」の物語がついて、シンには「お姫様」の物語がこれでつくようになるんだ。
シンデレラだとしたら、お姫様は魔法使いの手伝いを借りるから。
悲しい仲間割れだけれど、無意味に否定するよりは肯定して、物語をつけたほうがいい。
物語が加われば加わるほど、きっと生き残る。「重要人物」になれば、生き残れるのだ。
シンを利用してしまう形だったのは申し訳ないけれど、こんな罪悪感に浸っている暇はない。
気づかない助け方をするんだって決めたんだ、だから理解されなくていいって思わないと。
理解されても助けられないのと、理解されないけれど助けられるの、どちらがいいのと訊かれたら私は、後者を選ぶのだ。
王子様は、皆に判って貰うためにいるんじゃない、皆に愛されるためにいるのはお姫様だ。
私は、味方がロワ一人でもいるんだと知ったのだから、勇気が少し出た。余裕が生まれ若葉に心細い思いをしてほしくなかったから、シンを向けさせた。
頼は私の考えが手に取るように判るのか、此方へ向くと微苦笑を浮かべて、煙草をポケットにしまった。
「オレみたいな真似を……この屋敷の仕組みを理解してしまう前に助けたかった」
「頼、私はでも本気だよ。君も逃げよう」
私の言葉に頼は瞬いてから、視線を外し、背を向ける。
「……馬鹿言うな。オレが逃げたらよォ、お前はどうなるんだよ」
「化け物の言うことに素直に従うなんて馬鹿らしい。今の代は琥珀さんなんだろう? どうして君じゃないかは知らないけどね、本物の化け物なのは今は屋敷しかない。屋敷には足はない、追うなんてできないんだ。逃げてしまえばいい」
「――お前は、小さいオレを覚えててはくれた。だが肝心の部分は忘れているんだな、一番覚えててほしかったところだけ忘れて……」
頼の言葉があまりにも寂しさを帯びていたから――私はそれ以上どんな言葉も思いつかなくて、どう接して良いかも判らなくなった。
頼は屋敷でない何かに怯えているような気がした。闘ってる対象に怯えているのではなく、もっと自分の中に持っている本性のようなものと。
その怯えてる物に気づかなくてもいいけれど、気づかなかったら何も語らないと背中が教える。
いや、何も頼自身の話をしてくれはしないのではと悟った。
ぎゅ、と拳を握りしめる。
手の中にあるミルクキャンディ。ロワがくれたもの。私は勇気が欲しくて、ミルクキャンディを口にした、単調な甘みが口に広がりほんの少しリラックスできた。




