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バッドエンドループが往復ビンタで襲ってくるけど、最後に笑って祝盃をあげてやる  作者: かぎのえみずる
第三章 メインディッシュはお肉にしますか、魚にしますか
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気付かれない助けの手

 頼が部屋を確認して、溜息をついた。

 あれからどの扉も四人ではないから開く行為ができない。

 扉を開けなければ脱出できないのに、参った。若葉は今すぐには助けにいけないし、今何か言ったところでややこしくなるのは、火を見るより明らかだ。


「休憩しません? あたくし、本当にお腹が空いたわ」


 シンの言葉に私のお腹が鳴る――あれから、まる一日以上歩き続けているような感覚。

 不思議だ、人って時計がないと時間の概念が狂っていって、おかしくなりそうになる。

 時間という数字がどれほど大事だったのかを思い知る。

 頼とシンは、今が何時か判らないという物に慣れているようだったが、私はくらくらしていて倒れかけだ。

 シンの言葉は有難くて――私は頷いて、その場に座り込んだ。

 頼が頷いて、壁にもたれ掛かって煙草を取り出す。口先に含めて、ジッポライターから煙草に火を点ける。

 頼は気怠そうに煙草を呑んで、シンへ面倒くさそうな視線を向けた。


「腹減ったっていうけど、どうやって調達するんだ」

「私と頼様には共通点がありますわ。それから、もしかするとリカオン様も。私達は物語を持っていますわ。物語の子孫と言えば宜しいのかしら? とにかく、ただの三次元の人間では御座いません。絵に、触れられるのです。〝絵や物体を食べられる〟のです」



 私も絵や物体を食べられるだって!?


 どうして一体そんな話になるのか判らなかったが、そういえば、頼はカトラリーを使ってシンを呼び出したり、ドアノブを食べたりしていた。

 あのカトラリーがあれば、この屋敷の中の物が全て食べられるのか……?


「この屋敷で重要なのは、〝物語として面白い〟という意味合いですわ。それにあたくしは絵の人間、同じ絵の食べ物なら食べられると思いませんこと?」

「……オレは何でも食べられるし、シンの言いたい話も分かる。だが、リカオンはどうする? グラン・クヴェールが失敗する確率があるなら、ただ体を痛めつけるだけだ。喉を切り裂いたり、体には毒なものを食べるだけだ」

「……適当にすればいいじゃない。言ったでしょう、もしかするとリカオン様も頼様と同じなんだから、食べる行為ができるかもって」

「オレとリカオンを一緒にするな。リカオンは人間の世界の……」

「いい加減にして! リカオンリカオンって、五月蠅くてよ! 何よ、貴方は今まで見殺ししかしなかったじゃない! どんな客人がきても、見殺しにして自分を騙していたじゃない、助けようとしたら不幸にするからって! 現に若葉を、不幸にしたわ。これ以上貴方が傷ついても、どうでもいいとあたくしが思うとでも!? 今までと同じになると思ったから手を貸そうと思いましたのよ、人を傷つける純粋悪にしかなれないのが貴方だって少しは実感すればいいって! そうすれば貴方は二度と手助けしないって……なのに……なのに……」


 シンが大声でヒステリックに怒鳴って、私を睨み付ける。

 怒り狂うような冷たい女でもあり、泣き叫ぶ孤独な寂しい女にも見える。

 シンは両手で顔を押さえてから、さめざめと泣き喚き、声だけで私に問いかける。



「リカオン様、頼様を連れて行かないで」

「シンちゃん……」

「何が貴女達の幸せかなんて判っている、けれど、けれどあたくしは……あたくしの王子様は、この方なの……ずっと絵の中に一人で寂しかったわ。絵に話しかけてくれたのは、頼様だけ。絵から抜け出る方法を教えてくれたのも頼様だけ。あたくしの世界全てなの……ねぇ、王子様を奪わないで……」



 ――その瞬間、私は悟った。


 今が、今が助けと。見えない助けを行う瞬間なんだと。

 若葉と、シンに物語が現れる瞬間だと判るなり、私はそこへ導くだろう言葉を、心を痛めながらも吐く。


「シンちゃん……シンちゃんも一緒にこの屋敷から逃げよう?」

「馬鹿言わないで。貴女のように人間の血を持っているわけじゃないのよ。あたくしはただの絵! 本物になれないのよ、ただの女の姿をした肖像画なのよ! あたくしには絵である現実が全てなの、偶々絵の具が人の形をしてるだけ! ……いいわ、判りましたわ、ごきげんよう!」


 シンが涙を拭うと、私達から離れるように駆け出す。

 どこへ行く気なのか判らないふりをして、私は慌てて声を出して、シンの名前を呼ぶ。

 シンは私達のほうへ振り向きもせず、私達からはぐれていった。

 シンが何処へ向かうかは判っている、何処へ――若葉だ、若葉の元に行くんだ。

 あの時、若葉が魔法使いを嫌いだと言っていたのに、私は最低だが、利用しようとしている。

 若葉を助けるために、若葉が一番嫌う物語を与えようとしている。



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