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バッドエンドループが往復ビンタで襲ってくるけど、最後に笑って祝盃をあげてやる  作者: かぎのえみずる
第三章 メインディッシュはお肉にしますか、魚にしますか
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ホンモノと偽物の王子様

 風景はカラフルになり、窓からは猛吹雪が見える。

 豪雪地帯でも近年稀に見るくらいの勢いだというのに、この地方は沖縄近くだというのだから、現在地を思い出す度に驚く。

 頼は私を申し訳なさそうに見つめていた――瞳に映る疲労は、一日でできるものじゃない。

 何十年も何かに取り憑かれて、気疲れしているような疲労感を感じさせた。

 頼は訊いたら答えてくれるって言ってたね、ロワ。

 でも、頼はきっと私が気になっている一番の質問には答えてくれないと思うんだよ。

 ロワだって曖昧にしか答えてくれなかった、親切心でいっぱいの君がだ!

 ただこの場は、聞かないといけない問題がある――頼だって気になってるだろうし。


「……もう大丈夫、ロワと話した」

「ああ、そうか」

「なぁ、どうして私と君が兄妹であるのを思い出させようとしなかったんだ? 昔、君は私が君を思い出せない話前提で、逃げさせてくれた。あの森は何だったんだ?」


 私が躊躇いをなくして頼に問いかけると、頼は掻きむしるように片手で頭を掻いて、世界で一番の難題に挑戦している渋い顔をしてみせた。

 猛吹雪の風で、窓ガラスががたがた音を鳴らしている、外は黒と白の二色だ。

 通路を照らすランプの明るさは、徐々に増している気がする、最初の頃に比べたら、警戒を強めなくても歩けそうだ。

 きたばかりの時は暖かみのある明るさがロマンチックだと思ったけれど、今は平穏な生活に比べ、明かりの少なさを意識してしまいぜぞりぜぞりと背筋を虫が舐めながら這いずってる感覚だ。

 真冬の冷たさを、それでもこの屋敷では思い出すことは少ない。

 冷たさを思い出すのは、私と全く同じ色をしているのに、持っている感情が全然違うだろう頼の瞳と出くわした今だ。

 頼の瞳を見つめていると、今にも凍えそうなほど身が震えかける。

 身を震わせたら、頼は警戒するだろうと思うところがあるから、私は我慢する。


「――うちの家系を覚えているか? 大伯父にあたる人がな、注文の多い料理店の店主にあたるんだ。直系の子孫はいなくてな、大伯父は子孫をよこすように言い出した、跡継ぎが欲しいから。そうでなければ、大伯父の家系に繋がる物は全員食われるところだった。――オレは取引を申し出たよ、オレが行くから皆は助けろって。そうしたら、お前の物語性を試すから、店へ来いってあの森へ行ったんだ。試験みてぇなもんだ。あの森を行く前に、言われていた」


 頼は煙草を取り出して、呑もうとしていたから、私は咄嗟にその手をぱしっと受け止めて止めようとしていた。

 まるで逃げる行為に見えたからだ。

 頼には私とは、面と向かって欲しい。

 頼は、私が止めるのに驚いて刹那身動きを止めたが、微苦笑を浮かべて、仄かに儚さを感じさせた。


「あの森に行く前から、『この屋敷にきたらお前は、人間の世界ではなく、物語の世界で生きる生き物になる。物語の子孫だから。人間の世界での存在証明が全て消える、忘れられるんだ。親からも、友達からも。それでも構わないか?』って言われていた。だから普通はリカオンは忘れてる筈なんだが、何故か覚えちまっている。琥珀がこの屋敷にお前と若葉を呼びつけ、こうして再会してる――それだけの話だ」

「琥珀さんは何で私達を……?」

「……お前だけはオレを覚えているから。あいつにとってもお前という存在は、でけぇんだ。あいつも、此処から解き放たれたかった……――琥珀が死んだらまずいことになる、店主の血筋を持っているのはお前もなんだ。またこの屋敷がお前を受け入れたら、お前は此処から逃げられない……」


 頼は私の手を振り払い、煙草をポケットにしまってから、私へ流し目をよこす。


「助けてやる、琥珀が息絶えるよりも先に。屋敷がお前を選ぶより先に」


 本物の王子様の言葉に、私はただただ情けなさを感じた。

 君を助ける術もできれば見つけたいんだよ、君をこの屋敷から逃げさせる方法は無いのかな。

 頼をどうにかして此処から救いたいのに、君は瞳でずっと訴えるんだ。



「お前だけ逃げろ」って――。


 私は本物の王子様の出現に、思考を巡らし続ける。

 全く同じ色なのに、全く違う哀愁を漂わせる瞳――瞳だけじゃない、この人と私は何もかも同じであるように見せて、何もかもが違うのだ。

 背負っている悲しみも、嬉しさも、違う。幼い頃みたいに同じ物を同じ視点で見ていないんだと、一寸で感覚的に察する。


 私は偽物で、この人が本物なのだ――ヨダカだから、じゃない。


 私はこの人の紛い物なのだと、ほんの少し悔しかった。だって、頼は間違いなく輝いている。

 ロワ、星同士なら悩みが分かり合えるって言っていたけれど、私は頼のように自分を捨てきって守り抜こうって意志はないよ。

 だって自分自身を守りきれないと、他の私を想う人が悲しむって判るから。

 頼が他者を思いやらないって意味で言ってるんじゃないよ、頼は世界中の人に忘れられてるから、自分を想う人なんて想像つかないんだ。

 ――あれ、だとすると頼に何か違和感を感じる……? 気のせいか。

 ……違う星なんだ、ヨダカとシリウスは。私と頼は、見目は似てるけれど、やっぱり違う人間なんだ。

 頼を理解できないと過ぎった、頼は人から理解されるのが少ないのではないかと。

 孤独な星――頼には孤独になってほしくない。

 私がここで諦めてどうする? 私は世界中で唯一頼を忘れなかった家族なのに!


「頼、私は――君だけ犠牲になるのは嫌だよ」

「リカオン……」

「頼、君も逃げよう! もう長い間、君は此処にいた、義理は果たした! こんな店、なくなってしまえばいいんだ!」

「……リカオン……オレは……」


 頼が目を見開き、怯えるような眼差しで躊躇って私を見つめる――見つめた末に、首を左右に振り、先へ進もうとする。

 私の言葉を聞きたくないという素振りかのようで、私は頼の背中に声をかけ続けて追いかける。

 頼の背中は、何か重い物がのし掛かっている鈍い動きだった。





「……そう、やっぱり、貴女は……」


 この時、シンの気持ちに気づいていればよかったのかな。

 シンのこの言葉が聞こえていたら、何かが変わったのかな。

 シンだってこの屋敷の一部なんだから、否定されたら悲しいという事実に私はまだ気づこうとしなかった。

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