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明かされる決定打

 一瞬、何の音なのか判らなかった。

 頼以外は音に驚いて動きが停止している、頼はすぐさまに皆を伏せさせた。

 部屋の中にいるのは――最初に一緒にここへ来たカップルと、銃を持った一人の男性。

 カップルは男のほうは撃たれていて、女のほうは震えて力が抜けて動けないようだった。

 頼の表情が哀れみになった瞬間に、銃を持った男性がこちらを向いた。


「頼様――……時がきました。もう、終わるんです。貴方が知らない〝読者〟とも会いました。僕の時間が、終わるんです……嫌だ、まだ貴方といたい。僕は足掻きます」


 琥珀さんだ。琥珀さんが、ぼんやりとした表情で呟いた。

 どこか挙動がおかしい、目はよく見ると血走っていて、かっちりとしていた服装は乱れていた。

 琥珀さんが頼に向かって手を差し出した。


「帰ろう、僕の美しい鳥」

「……こいつらには何もしないか?」

「それは無理だ――君の、君の運命の女じゃないですか、そっちの女は! シンまで出して助けたいなんて、妬けるもんだ……君たちが此処で朽ち果てれば、僕の〝過去〟は続くんだ!」


 運命の女? そっちの女って私しかいないよな……シンちゃんは名指しだし。私が頼にとって運命の女ってどういう意味だ?

 恋人、とは違う意味のようだ。そんな甘さは含まれてる気配はしない。

 私が、頼の人生を左右するとでもいうのか?

 若葉が私を咄嗟に琥珀さんの視線から隠してくれた、私は何故か一気に空気ができないほど息苦しい恐怖を味わう。

 背筋を這う暗闇、蠢く不安、昔経験したような感覚が襲ってくる。


「僕の鳥、いいこだからその子を渡せ。その子を食べてこそ、僕の芸術は完成するんだ。君の世界に誰もいなくなって、僕の欲しい美が完成するんだ! 助からないと絶望し、現世では見られない美しさ、嗚呼、眼福と讃えて悦ぶ時間が近いんだ! 僕の鳥、そこには君が必要だ。その子の死も必要なんだよ、こんな風に」


 琥珀さんがまた銃を撃ったようだった。残ったカップルの女性へ。私に正確に判らなかったのは、若葉が私を隠してくれていたから、見えなかった。ただ、暴発音、硝煙の香りと、ぐしゃっとした音が響いたのが判って私は吐き気がしそうな程怯えた。


「リカオン、こっちへ来い!」


 琥珀さんの気持ち悪さが全て表現されたような低い声が、私を呼ぶ。

 どうして? どうしてこんなに恨まれているの? 何がどうなっているんだ――。


「おっとアンタら動くなよ、金髪にシン。僕の鳥、君だけはこっちへ来ていい、いや来るべきだ。君は僕の側から離れてはいけないんだよ、君は僕の鳥なのだから! 君こそがその子を食べるべきだ、そうすれば君はもっと輝く。君に赤い血がつけば、どれだけ美しくなるんだろう! ……こっちへ来い、頼。撃つぞ」


 琥珀さんはまるで人が違う。いや、これが本来の琥珀さんなのかもしれない。

 だって初対面の時から私を敵視してたじゃないか……あの微笑みは嘘くさかったじゃないか。

 私は自分自身を奮い立たせる言葉を羅列していく、脳裏に。

 でないと、私はしゃがみこんで「怖いよ!」って叫んでしまいそうで。

 そっと繋がれた手。頼が、一瞬振り返ってから、手を離して琥珀さんの方向へ向かう。

 振り返った時、若葉のほうへも視線を向けていた――アイコンタクトだ。

 若葉もすぐに何をするのか察した雰囲気だった、本能的に判ったのだろう。

 若葉はシンちゃんに「頼むよ」ってこっそり囁いていた。

 頼は琥珀さんに近づくと――琥珀さんの足を蹴って、銃を手放させていた。

 弾丸の音が響いたが、頼は無傷だ、地面に弾丸は嵌り込んだらしい。

 銃が若葉の方へ転がっていく、若葉がすかさず取り上げる。

 頼は琥珀さんをねじ伏せている。


「琥珀、もう終わりだ――終わりにしないと。お前も救われないじゃねぇか……お前だって気づいてるんだろ? あいつの気配に……だから運命の女だって分かったんだろう?」

「……っぐ……君は……貴方も、あの気配に気づいてるんですね……じゃあこう言いましょう。あの気配がするから、僕はこうするんです! 運命に負けたくない!」


 琥珀さんは頼に焦るように怒鳴りつけてから、虚空を睨み付ける。何を睨み付けているのかは私には判らない、琥珀さんには一体この屋敷の「何」が見えているのか。


「……若葉、銃を貸せ」

「……君が手を汚す必要はない、ここにこの人を置いて出て行こうよ。縛ってしまえば何もできないじゃん?! いくら何でも、何もできないじゃん?」

「……若葉、撃つわけじゃない。銃を貸せ」


 若葉は首をぷるぷると振って、銃を震える手で構えて、琥珀さんに向ける。

 琥珀さんは銃を見ても強気な姿勢を壊さない、燃え奮う瞳で若葉に挑む。


「撃ってみろ、僕を撃ち殺せば僕の勝ちだ。それもまた僕の目指す美なんだ! そうだ、どうせならお前が撃て、リカオン!」

「こ、琥珀さん……何でそんなに……私を嫌うんだ……もしかして、此処へ私が来るのは決まっていたのか?」


 私が問いかけると、琥珀さんは若葉を挑発するように鼻で嗤った。


「その金髪の兄貴に金を払ったら、呼ぶのに成功した。君達を殺す話をしたら、大喜びだった。そりゃ嫌うだろ、だって君は……頼様の妹だ。世界中で君だけが僕の鳥を欠片でも覚えていた……!」

「私が頼の妹……? そ、そんな馬鹿な……私は一人っ子だぞ」

「……本当に……そうなのかな? その見目、どう見ても兄妹にしか見えないけど?!」


 琥珀さんが頼の油断をついて、頼を突き飛ばす。

 琥珀さんは二丁目の銃を隠し持っていた! 琥珀さんが銃を私に向けたと思った。

 その時――世界が灰色に止まった。

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