どうしても食べたくないもの
「しかしどこから取り出したんだ、そのカトラリーは」
「昔から持ってる。店主になる器ならば持っておけ、って本物に言われてな」
「そのカトラリーで頼様は何でもお召し上がりになられるのよ。鉄でも、ダイヤでもそのカトラリーがあれば食べられますものね。この屋敷に住んでる物語達は知ってるわ、グラン・クヴェールって呼んでますもの。頼様の手の動きがあまりに美しいから」
シンちゃんは呆れたような尊敬してるような複雑な視線を頼に向けた。
頼はカトラリーを胸の内ポケットにしまいながら、頷いた。私は納得がいかなかった。
この世で一番カトラリーが似合わない男がいるとしたら、それは頼だと思うんだ。
なぜだか判らないけれど、物を食べるっていう行為に違和感があるのが頼。
なのにどうして、頼は食べる行為で処理できるのだろう。
「頼、食べたくない物は食べるな」
「……ん? どうした、リカオン」
頼はやや屈んで私に目線を合わせる、その視線の優しさに悲しみを見つけた。
一人で何かと闘っている孤独を帯びた憂い。
傷つくのが怖くて一人になりたがる人に似ていた。似ているけれど、違うのは、そういう人は本当は一人になりたがらないのに。頼は心から誰にも期待していない目だった。
「ごちそうさまといただきます、このふたつをいえば食べられる食材も満足だろう。命を弔っている。そりゃたしかに中には食べられるのを願っていない食材もいただろうが、頼、残してもいいんだぞ」
私の言葉に頼が瞳を見開き茫然としてから、仄かに年頃の男子らしい幼い笑みを浮かべた。
何だか頼の笑みには見覚えがあり、どうしてか、守りたいと思った。
この笑みをずっとずっと守りたかった感覚に陥る。
おかしい、頼は私の理想全てのはずだろう? 理想の王子様は、守る立場だ。
守られる必要なんてないのに。何故だか、その背筋が折れないように守らなければいけない感覚に襲われる。
それにもしかしたら頼は裏切るかもしれないというのに……さっきの部屋を思い出せ。
あれが物語っている、結果的には正解でよかったけれど。あの時もしも若葉が裏切らなかったら、私達は大変な目にあっていたんだろうと思う。
私は二人の間で揺らぐ。恋愛的な意味だったら、きっと素敵だっただろうね。
でも私は信用の問題として、二人の間で揺らぐんだ。
裏切ってしまった若葉を責めてもどうしようもない。頼は信じちゃいけないのかもしれない。けれど……何故か頼を信じたいんだ、でも頼を信じると若葉が離れていきそうな気がした。若葉からしてみれば、もし若葉は行動を誤っていたら頼の存在って怖いものになるんじゃないかな。
だって……自分は間違えたのに、頼は間違えないで、救いの手を差し伸べたんだ。若葉から見れば自分が皆を危険な目にあわせるかもしれない行動をしたのを明確に頼は知っているのに、頼はそれすらもばらさないんだ。
素直に過ちを認められたら、若葉は怖がらないだろうけれど、若葉は過ちを悟らせないように動いてる。少なくとも私にはそう見える。頼も訂正する動きを見せない。
いつ訂正するんだって怖がるんじゃないかな。怖がってる人に近づけば、若葉は離れてしまいそうで……。
太陽と雪の関係に似ている。太陽は雪をきらきらさせたくて目一杯照らして優しい明かりを与えるのだけれど、雪は熱を受けて泥にまみれた姿が目立ってしまい太陽を嫌う、――たとえ話がメルヘンかな?
少なくとも、頼は物語性は高いけれど「人間的じゃない」動きなんだ。
劇でも見てるような感覚で、本当に同じ人間か疑わしい。シンちゃんみたいに絵から出てきたって言われても頷けてしまう、先ほどの現象を見たら。
でも人間的じゃない動きだからこそ、そこにヒーローを見いだして信じたくなるのかもしれない。それこそ主役の登場を待ちわびているのかも。かっこよく助けてくれるんじゃないかって。
何だろ……信じたいのに、信じたら片方がいなくなるって、嫌だな。
どちらかを選べって言われてるみたいで、私は我が儘だけど、どちらも選びたかった。
「頼、君は――……」
「似た顔で見つめ合わないでくださらない? 見てて、何だか不思議な気持ちになりますわ。ねぇ、それでどの部屋に次は参りますの?」
シンちゃんの言葉に頼は反応して、私に背を向けて歩き出した。
何だかその背中がとても寂しかったんだ――どこかで、本当にどこかで見た覚えがある気がして。
私が頼の服を引っ張ると頼は立ち止まり、私は自分でもなぜ頼の服を引っ張ったか理解できず、混乱して声が上擦る。




