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お姫様の登場は豪快に

「頼、何をしているんだ?」

「謎を解くには人数が必要だ、シン以外手助けできる人物はいない」

「シン? 何々、だぁれそれ? あの客間ではそんな名前聞かなかったよね、リカオンちゃん」

「うん、あの場にはいなかったぞ、誰なんだ?」

「……この絵の中の人」


 頼は銀色にぴかぴかと光るカトラリーを取り出した。

 頼は自分の背丈よりも大きな肖像画にナイフで切れ目を入れて、フォークで綺麗に絵の切れ端を避ける。

 空間が切り裂かれた気がした。

 切り裂かれた空間から、マニキュアが綺麗に施された手がぬっと飛び出てひらひらと振っていた。

 ひらひらと振ったあとは親指だけをたてて、ふいっと横に一線してから親指を逆さまにしてきた。ようは不良が「死ね」ってやるアレである。


「頼ちゃん、なんか攻撃的だよ!?」

「いいんだ、シンだから。腹減って苛立ってるんだろ、多分」


 シンってまさかこの手の主か!? 頼は何も臆さず、親指を逆さまにした手を引っ張り、私に視線をよこした。手伝って欲しそうな目で、物言わず訴えている。

 私は、状況がよく判らず混乱していたが、頼の何かしてほしそうな視線に悟り手伝う。

 若葉のおねだりしてくる視線ととても似ていて、私はいつもそれで失敗する。

 若葉は私の心中を察して、ぎゃっぎゃっと笑って頼の腰を掴み、一緒に引っ張る。

 私も若葉の腰を引っ張り一緒に引っ張ると、やがて絵が破かれて、そこから黒髪の美女が現れる。私達は勢い余って倒れた。美女が現れると、絵は破かれていない状態に戻っていたが、そこには女性が足りない。絵の女性が、目の前に具現化したのだと気づいた。

 黒い巻き毛は艶々としていて、ぱちくりと瞬く睫の長い瞳は優麗で、口紅は真っ赤だ。透き通る真珠のような肌、理想のお姫様のような人だ。エメラルドのような美しいバッスルドレスを着ていて、時代遅れとも言える風貌なのに、何だかこの場にはとても適していた。

 私とまったく違う種類の女性だ――色気に溢れている。

 美女は私と目が合うと、可憐な微笑みを浮かべて小首を傾げる。


「殿方の女装?」

「は?」

「あらだってとても短い髪の毛に、胸が――あ、一応ありますわね」


 おっとりとしている癖にとても攻撃的な声色は、私を雷に直撃したような衝撃に追い込む。美女なのに、辛辣すぎる。き、気のせいだろうか?

 もしかしたら私に対してだけとても気にくわないだけかもしれない。

 ほら、だって美女は豊麗な笑みを浮かべて、若葉は見惚れてる、くそったれ!

 どうせ美女のような大きな胸はない。あれだけでかければ肩こりすごそうだ。疲れないんだろうか。胸のない女の僻みでは、断じてない! 咄嗟に自分の胸を見てしまうのは、どうしようもないんだ!


「頼様、こんな時間に何のよう? ついに逃げ出しますの? ……何か食べたいわ。チーズと堅いパンに……ああ、ワインはシャトーラフィットロートシルトがいいですわ」

「それは今の俺には無理だ。琥珀ならできるぜ、あいつ美食家だから」

「琥珀様のことは大嫌い。よしてよ、あんな男の話題なんて! ようやく自由になれたんですから。饅頭で代用しても構いませんわ? ――それにしてももうちょっとマシな人員はいなかったの? 殿方みたいな娘と、間抜け面した殿方ですこと」


 美女はとても我が儘で高飛車。

 綺麗なのに。綺麗なのに、なんだ、この脱力感は。我が儘を言っても、綺麗だからなのか美女の人柄からか判らないが、許せてしまう。美女ならしょうがないっか、と。

 う、美しさって罪……昔からの言葉の意味を解せてしまう。


「シン、こっちはリカオン。こっちは若葉」

「雲村紅の作品のシンですわ。小星仙シャオ・シンシン。……知りませんわよね、あの方斬新だけど万人受けする才能なかったから有名じゃないものね」

「あ、あの……よ、よろしく」

「本当に同じ淑女であれば仲良くしてくださると嬉しいわ、リカオン様」


 ああ……許せてしまう理由がなんとなくシンちゃんの笑顔で判った。無邪気すぎて、悪意がなさすぎる我が儘なんだ。挨拶と同じような呼吸で、我が儘を言う女に、何を言っても無駄だと本能が悟っている。

 許してるんじゃなくて、諦めてしまうんだ、訂正するのを。



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