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自分を裏切らない劇

 ポップコーンが置いてあっても食べる気にはならない。

 正確に言えば食べたいのだが、人肉を食べさせようとするこの屋敷での食べ物は、信用できない!

 お腹は幸い減ってない、肉は食べなかったが野菜は食べたからな。デザートの塩アイスまできちんと食べた。

 ――思い出すと、割と精神的に不衛生だと思ったので、もう後は思い出さないようにしよう。何で思い出したんだ、馬鹿な私。

 劇の中心に二人の人影が見えた。

 劇には、煌びやかな女性と貧相な女性がいた。

 煌びやかな女性はピンクのふんわりとしたドレスを着ていて、扇で自分の口元を隠している。手元には宝石がぎらぎらと成金のように、飾られていた。

 貧相な女性は箒を手に、エプロンを汚しながらも、気丈に振る舞っていた。

 緑の木々と、簡素な城を描いた背景の前で、ああだこうだと言い争いをしている。


「王子様は私を選ぶわ」

 煌びやかな女性が口にする。

「王子様は私を選ぶわ」

 貧相な女性が口にする。


「だって王子様は私の願いを何でも叶えてくださるわ。私はお金があるから不自由のない暮らしも与えてるわ」

「あら、私と王子様には誰もが羨む愛があるわ。願いは叶えられなくても、一緒に夢へ向かって目指せるわ」


 二人の女性が言い争いをしていると背後から、男性が現れる。煌びやかな格好なのに、それは衣装だけで、容姿は貧相だった。ちぐはぐな印象。

 大げさな身振り手振りで、男性は私に必死に感情を訴えかける。ゲスな感情を。


「嗚呼、僕は二人を愛してしまった。二人をこれからも愛していこうと思う。だが別の愛も欲しい。そうだ、君も一緒に新しい愛を手にしないか? 瑠璃の王子様」


 気づけば私は、真っ青な衣装に身を包んだ王子様姿だった。

 一瞬でどうやったのだろう、すごいな。でもここまでくると何が起きても驚かない。

 驚くまいと思っていたのに――。


「二人の姫を殺してください、王子様。自由を手にするんだ、僕らは!」


 ――なんだって?

 殺して、くださいって? 女性達は気づいてない、言い争いをぴーちくぱーちく小鳥より五月蠅く続けているだけだ。

 貧相な王子様が、私に剣を握らせる――嗚呼、そうか。

 これは、……私の心を裏切るか裏切らないかの試練なんだ。

 物語性を大事にするのなら、私が主役たる器かどうか試しているんだきっと。

 私の心を裏切らないのならば、女性を守るためにこのくずを殺さなければならない――けれど、くずとはいえ、相手は人だぞ?

 殺す――? 本当に殺さなければならないの? そうしないと劇は終わらないのか?

 足下には観客がポップコーンを食べながら、私を輝いた瞳で見つめている。やめろ、そんな眼差しはやめろ。


「リカオン様、頑張って」

「リカオン様、素敵」


 観客から黄色い悲鳴が聞こえても、私は恐怖一色だった。

 今まで応援されなかった覚えがあるわけじゃない。ただどうしてもハイジャンで期待に応えられなかった時を思い出してしまう。

 私は跳べない――飛べないんだ、シリウスじゃないんだよ、もう。

 応援してくる瞳は「そんなの知らない」って盲目だ。誰か私に気づいて、誰か私の心に気づいてよ、もう跳べないんだよ!

 裏切りたい、自分を裏切って「跳べないんだ」って叫びたい。殺したくない。だけどな――裏切るのは駄目だと頼と若葉と約束したんだ。ここから出るには、どんな事柄だってやらなきゃいけないのかもしれない。

 殺しじゃない、これは殺しじゃない――自分に必死で言い聞かせても、涙が出そうだった。

 張り付くような喉の渇きがリアルで、じりじりとライトアップが私を追いつめる。脂汗が背中と顔をずっと撫で回している。

 何が正解なのかは判っている、裏切らない答だ。決して自分を裏切らない正解なんて、どこを探せばあるんだ?!

 普通の生活でも自分を裏切らないのは難しいんだ、自分を裏切り続けて今まで若葉ともぶつかってこなかったんだ!

 助かるために正解を得ろって、助からなくても私は常に正解でいたいよ!

 ……私が正解だと思えば、正解だと頼や若葉なら言ってくれる気がした。

 それに……いつまでも跳べないままは、嫌だ。

 何か願う癖に、行動を一切しないのは、愚か者だ。

 そうさ、私が自分自身を信じないでどうするんだ! 私は私を恐れなくたっていいんだ。

 私自身を裏切らないで、尚かつ物語性があるのなら――殺さなくてもいいはずなんだ。

 ならば私は、この剣を捨てよう。

 剣を地面に突き刺して、王子を見下した。


「このくずが!」


 貧相な王子様を殴ってから、女性二人に駆け寄る。


「姫君、私は貴方達に謝らなければならない。貴方達の愛する王子を殴りました。けれど、それは貴方達への愛故に! 嗚呼、私は愚かな者です、私は姫君を愛する心を止められない! けれどここで貴方達へ愛を語るのは、あのくずと同じになる。私は、身を引きましょう。私は、永遠に一人が似合うのです。貴方達は幸せに、それでは――」


 くるっと背中を向けると――ぴんぽん、と誰もが正解をイメージするあの音が出た。

 嗚呼、嗚呼――! 心から安堵して大声を出して、「やった」と騒いでしまった。

 ガッツポーズを思わずキメて、天井に向かってびりびりと空気が震えるほど、今までの恐怖の分だけ吼える。

 閃光が放たれたと思ったら、部屋の外だった。服装も元の姿に戻っている。

 二人も無事裏切らないシチュエーションと裏切るシチュエーションができたんだな、だからクリアできたんだな、って思った。

 私は若葉に駆け寄った。

 ――若葉の顔色は、真っ青だった。



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