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裏切りの部屋

「頼、君はロワという子を知っているかい?」


 私は若葉が瞳で「教えるな」と合図していたのに、つい聞いてしまった。

 ロワの存在は私たちには助けになるから、誰にも教えないのがいいのは判っている。

 それにロワの存在を教えても信じてくれるか判らないし、信じたとしてもロワが何者か判らない。

 私たちは指針のないコンパスをずっと握っているんだ。ロワがきっと指針なんだ。

 指針の存在を明かすべき人かどうかは、まだ出会って僅かなのだから判断する時間が必要な筈だと判っていた。しかし、口は滑っていた。

 頼は、プラスチックのゴミとかつまらないものでも見るような眼差しをしながら、鼻で嗤った。

 ゴミがたまたま面白い形をしていた、そんな笑い方。


「もう接触してるのか、お前に? あいつも急いでるんだな」

「知ってるのか?」

「……存在は人づてに聞いている。直接会った覚えはない。これまでもこの先でも、あいつはお前以外の前には出ないだろうよ。ずっとそうだ」


 頼は……頼は、ロワと一緒の敵を相手にしているような気がした。

 ロワと同じ視線で物を見ているような、不思議な感覚。断言している、私とロワのこれからの出会いまでも。

 とても長い時間、ずっと見守ってきたような暖かい瞳。いつもいつも同じ結果で、いつもいつもそれを知っていてそれでも尚止めない、鶏の孵化を見守る瞳。

 ロワと頼はふと賭け事をしているんだって思った。

 結果がどうなるか、絶対に判っているけれど、抗おうとしている賭け事。

 二人にはもしかしたら、私と若葉がどうなるかすらも判っているのかもしれない。何だか二人の行動は、何もかも知っていると思うと、納得いく行動なんだ。

 だけどこの感覚は若葉には話せない。若葉はきっとそんな話をしたら、二人を信じなくなる。

 私は、二人が何かと闘うのならきっとその結果が、私たちを守ってくれるかどうかに繋がると信じたいんだ。

 誰だって夢は見たい、王子様がいるならば信じたい――私も王子様の一人になりたい!


「わかった、それならもう聞かないよ。ただ一つ教えてくれ、ロワは何と闘っているんだ?」


 君も――君も何と闘っているんだ、頼?


「時間――それと〝物語〟」


 ぶっきらぼうな声が、二つ単語を告げた。

 頼は、最初に開けた扉から五個左奥の部屋の前に立ち止まって、親指で扉をととんと叩く。


「ここは何の部屋か判っている。裏切りの部屋だ。誰かが一人だけ回答を裏切って初めて正解になるんだ。事前に誰が裏切るか決めたい、誰が裏切る? 部屋に入れば、顔も見えない状況になるから今決めたい」

「どんな問題がでるか分かってるの?」


 若葉が問いかけると、頼は手帳のような絵本を取り出して、それを眺めてからしまいこむ。

 絵本にもしかして部屋のことが全て書かれているのだろうか。


「問題は極めてシンプルだ。貴方は裏切り者かどうかってやつ。ただ、個人個人で見るものが違う。何を見るかはオレにも判ンねぇ。だから事前に決めておきたい」

「俺がリカオンちゃん裏切るわけないじゃん。じゃあ頼ちゃんが裏切り者ね」

「オレはそれで構わねぇ。いいか? 二人とも」

「いいよ、判った、それじゃ部屋に入ろうじゃないか!」


 私はこっくこくと頷いて、扉に手をかけて中へ入る。

 すると頼の言っていたとおり、若葉も頼もいなくなっていた。先ほどの部屋みたいに閃光があったかと思うと、違う空間にいるんだ。何か劇が繰り広げられている。

 私は劇に近寄る――。


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