部屋の解答法
可愛くてきらきらしてふわふわした儚い生き物の生態。
鏡は美といえば誰もが浮かぶものだが、私が鏡で連想したものは白雪姫のお后様だった。
お姫様じゃないって直感で思ったんだ。
ぬいぐるみ――誰もが持ってる女の子の部分を現すもの。でもそれは美ではなく、可愛らしさを現すものだって思う。何より、若葉のテディベア作りのイメージが先走る。
花、生花の薔薇。漫画でお姫様や女の子や王子様の登場に映るもの。
そういえば、私に関わるものは物語なんだ――それなら、お姫様に必要なのはお姫様だと明確に判る証。
誰もがお姫様だと気づく印象のもの、それは花じゃないだろうか。
豪華に背景に、薔薇でも映ればあからさまに重要人物で、美しいのだと意味してる。
私は、頼に花を見せた。
頼は私が花を見せると、王冠を手に取った。王冠を掲げている。
私も真似して花を掲げる――すると、部屋は閃光を放つ。目をそっと瞑ってから開くと、先ほどの白い部屋ではなくなり、ただの一室になり客室のような部屋になった。
着たときに与えられた私の部屋と同じような、装飾やベッドや置物がある。
若葉は唖然としている、頼は平然と二本目の煙草を咥えようとしている。
「――こうやって問いかけてくる。お前は何を考えて花を手に取った? 〝物語〟だろ? そうやって物語を主軸に置いて、答えるといい。正解を探すより、自分の物語に対する姿勢を見せろ。人を試す部屋なんだ、大体が。どれくらい物語を大事にしているか、自分の中に物語があるのかって。この屋敷では、物語性を大事にしている、物語性があるから山猫軒に入った二人は犬に助けられたんだ。そのほうが〝面白いから〟な。犬が強かったわけじゃない。判らなくなったら、自分の中にある物語を大事にすればいい。逆を言えば、物語性のない『登場人物』は食われる。物語性のない人間は、主役じゃない。助かるのは主役だけだ、だから主役になれお前ら」
頼は煙草に火を点けて喫煙しながら、私達に復習してくれた。私は消えた花を思いだし、頼へと問いかける。
「私が最初から物語を考えて、手に取ると思っていたのか?」
「――理由は言えない。ただ、本好きだって知ってる」
頼は少しあくどい笑みを、したりと浮かべた。
「それなら最初から言えよ、教えてよ。何で頼ちゃん教えてくれなかったのー」
若葉は不満そうに唇を尖らせると、頼は喫煙してる最中の煙草をくしゃりと潰して、カーペットに投げ捨てた。投げ捨てた煙草を、足先でひねり潰して、火を消す。
煙草を呑む気が失せたらしい。
頼はめんどくさそうに若葉を綺麗な夕闇色の眼で、見やる。
「体験してからでないと判らないものってあるだろ。それにこういうものは自分で発想しないと先に進めない。さっきは見えたからいいが、見えないで判断しなきゃいけないものもある。別行動だと最初から判らないときに、基盤となる考えが自然とできなきゃ何もできねぇよ。いざとなったとき、抗っちまう」
「抗うわけないじゃん、助かるためなんだよ?!」
若葉がぎょっとして咄嗟に大声をあげたので、私は少し驚いて肩を跳ねさせた。
「絶対に騙されない人間はいないってオレは思ってる。主役を騙した店主の血筋が言うんだぜ? 唆されても、騙されても、心に同じもんが巣食っていたら、どうあってもそれを選ぶ。巣食うのと同じもんを作ったほうが勝率があがる、それだけだ」
頼の言葉は信じてくれるわけがないと諦めながら喋ってる声色に思った。
視線も諦観の色が交じっている、仕草はいちいち大人めいていてかっこいい。
そういう態度だからこそ、逆に信じられるんだ。必死に訴えてきたら、「嗚呼こいつ騙そうとしてるんだな」って思える。だけど、最初から判断をこっちに委ねて、「信じても信じなくてもこの態度のままだけど」って言外に告げている。
この人は、何があっても揺るがない人だって思えるんだ。自分の心のままに生きていくだろう人。他に影響されない、支配者らしい毅然とした態度。
――本当に支配者だとしたらあの座敷牢が納得いかないけれど、この揺るがない態度が頼という人物を語っている。




