料理店の店主の……
「お前よくそんな調子でここまで生きてこられたな」
やれやれと肩を竦めて、頼は私を小馬鹿にする。
頼のそんな態度にも別に苛つかなかった、だって私はストレートに聞くのが私にとって最良の手段だからね。
こんな状況だけど、信じたいんだと思う。私の理想そのものが私を否定するわけないって。考えを肯定するように頼は、私を否定しないんだ。小馬鹿にしたって、伝わってくる思いがある。瞳がね、ずっと言ってるんだよ、お前の味方だって。
「……ほんとに店主側なら、君が牢で繋がれる理由はないと流石に思うのだよ……」
店にとって何か危険な理由があるから、座敷牢なんかに入っているんだろう。
たとえ店主側でいても、君だけは何かが違うと思ってしまうのだよ。
君はきらきらしている、君こそが王子様だから、きっと何とかしてくれるって。
君は――私の理想の姿をしている、それならば導いてほしいと願いたかったんだ。夜空の流れ星に願うのと一緒で、何の根拠もなしに願っていたかったんだよ。
奇跡が見たい、助かるという奇跡。奇跡は誰か最高にかっこいい人の登場で、実現可能なんだ、かっこいい人は奇跡を起こせるから。
私の思う具体的なかっこいい人は、王子様だって想う人は、君以外いないんだ。
頼は、私の心情を見抜いたのか苦笑を浮かべて、開けてくれ、と頼んできた。
「鍵がそこにあるんだ。グラス投げても落ちなかったから、アンタの居る所からじゃないと取れない」
「手伝ってくれるのかい?」
「それ以外何のために鍵を取るんだよ。条件がある。オレはこの店から外にはでない。お前と若葉の道案内だけだ、判ったな?」
呆れたような表情を浮かべるものの、頼は私たちを確かに助けると言ってくれた。
私は大喜びで頼が指さした先にある鍵束を取って、座敷牢の牢を開ける。
頼はよいしょ、と絵本をポケットに突っ込み座敷牢を出てくれた。
「さっきはドーモ」
「ん。それで、どこまで判ってる、この屋敷を?」
扉にいる若葉を見やって頼は微妙そうな表情を浮かべたが、頼の言葉に若葉が応える。
「人肉を食わせたりしてるとこまでかな。あとどう見ても普通じゃないなって。この屋敷」
若葉の言葉を聞いて頼は考え込み、ポケットから煙草を取り出して咥える。そこにライターで火を点けて呑む。紫煙がゆらゆらと揺れて立ち上る。
少しの間煙草による沈黙で、私と若葉は視線を通わせた。
頼はしばらく考え込んでから、何かを指折り数えて、それから頼のいた部屋の扉を見つめる。
「三番目か……ってことは、今はまだ最初の部屋は試してねぇんだな……ってことは、まだ三人で平気ってことか」
「部屋?」
「ああ、この屋敷はな、全部の部屋を開ければ外に出られるんだ。扉を開けるにはそれぞれ条件があって、それは毎回同じとは限らねぇ。部屋の開く条件は……体験すりゃ判る、試しに最初の部屋行くぞ。この隣の部屋の扉ならまず開けられる」
部屋を開く条件なんてあるのか。どの扉も開かないものだと思っていた。自分の部屋が開かないからてっきり。
不思議そうに見つめる私と若葉に気づくと、頼は煙草をカーペットに落として足で捻り潰す。
「オレは屋敷側の人間なんだ、それくらい知ってて当然だろ。店主の血筋舐めるなよ。オレは料理店の店主の血を持つ男なんだ」
ロワが言っていた、私に関わる者は物語を持っていると。
頼の持つ物語は――注文の多い料理店。
だけど、頼の瞳の幽玄さが香る魅力からすると、私にはただそれだけの物語一つきりとは思えなかった。
もっと神秘的な何かが潜む、美しい理想の輝きを持った瞳。




