助けをようやく求めてくれた
「君はどうして、助けてって言わないんだ? 言ってくれたら、私は大事な親友のためだ、何だってできるよ! でも肝心の君が助けてって言い出さなきゃ、何も始まらない。君がどうしたいかが判らないから。君にはちゃんと助けを求める口も、逃げ出せる手足もあるだろう!? なぜ、何も持ってないような態度をするんだ!?」
「……リカオンちゃん、君にこんなこと言うと……君はおかしいって思うだろうけど……俺はさ、俺は……」
若葉は頬のガーゼに手を伸ばし、爪で引っ掻いて、血を滲ませる。
震えながら、自嘲気味に笑いを零す。儚さが顕著に表れている。
これだけ崩れそうで脆い笑い方をする人なんて、今まで見た覚えが――ない。
「俺は、兄ちゃんに殴られてるほうが生きてる心地がするんだよ……! 兄ちゃんが、助けを求めてるんだ、俺だけが助けられるんだって思えて。入院したときもそうだった。ごめんなって泣きながら謝られて、許す行為で俺は安らいだ。でもこんな所に追いやったって、もう俺無しで生きていけるんだろ……? 父さんだってそうだ、俺が必要ないから止めなかったんだ。俺じゃもう皆を守れないって、切り捨てたんだ。俺は……俺は、自分の価値をどこに見いだせばいいんだよ……。俺は、どうやったら、生きていけるんだよ?! 誰も俺が必要じゃないんだよ! この世界の何処にも俺を必要としてくれる人はいない!」
私は、一瞬言葉を無くす。
そんな恐ろしい考えで今まで過ごしてきたのか?
君はいつだって助けを求めないのは、お兄さんを庇ってだと思ってきた。
けど君は、生きる価値を求めるために、自分をそんな風に言い聞かせてきたのか?
ねぇ若葉、君は君を守るために、言い訳し続けてきたんだね。
許す行為で安らいで価値を求めるなんて、それ程に悲しい生き方をしていたんだね。君の家族は君を愛してくれなかったのか?
――そうか、そういえば君の家族は、いつも君を犠牲にして自分を守っていたね。
君はいつも弱者の立場で、怯えるしかできなかった、家族を守るために家族に捧げられた生け贄だったんだね。
……ねぇ、若葉、そのままでいいのか?
若葉――私は。
私は、君に渾身の一撃を君の顔にぶち当てる。私の悔しさ全てを乗せた拳だ、痛くて当然だ、私も若葉も。
殴られたほうだけが痛い訳じゃないのか、って私は痺れる拳を振り払って痛みから逃れながら知る。
若葉は茫然としていた、それから鼻血を一筋流して、震えている。
「これだけで価値が判るのか、簡単だな、君の価値は! ……殴られて生きる価値があると思うなら、プロボクサーになればいい!」
そういう意味じゃないんだろうけれど。
そういう問題じゃないんだろうけれど。
君を救うための言葉がこれしか思いつかないなんて、私はもどかしい。
私は君にもう一発殴ろうと思ったけれど、それよりも先に涙が出てくる、鼻水までもう!
若葉、私はずっと君の気持ちを理解できなかったのが悔しい。
君を救えるのは私だけだと思っていた愚かさも、悔しい。私は君を見ているようでいて、何一つ君の恐怖を見ていなかったのだな。
君はずっとずっと、自分の価値を探していたのに!
もっと早く君とぶつかっていたら、こんなときに泣かなくてすんだのかな。こんなとき、あの理想の人ならどうしてたのかな。
これは私の罪だ。私が若葉と本音でぶつからなかった、弱さの罪だ!
もう一発殴ろうと思ったのに、若葉は私を抱きしめた。
若葉は壊れそうなものでも抱きしめてるような力加減だったのに、絶対に離れなさそうな手だった。
狼が網に捕らえられたときみたいな感覚。私はしっかりとした手に、笑った。
「リカオンちゃん、俺を一人にしないで。俺は生きていたい……リカオンちゃん、一緒に生きてッ……!」
「……若葉」
「助けて」
やっと聞けた親友の、救いを求める声。
それが――ずっとずっと聞きたかった。




