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バッドエンドループが往復ビンタで襲ってくるけど、最後に笑って祝盃をあげてやる  作者: かぎのえみずる
第一章ー こちらにお掛けください、食前酒はどうなさいますか?
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信じる理由

 若葉はペットボトルの中身が残り少ないと気づいて、一気に飲み干した。

 飲み干した後に、口元を袖口でふいてぶるりと震えた。

 この部屋には暖房がない、エアコンがないのだ。それでも私は何故かあまり寒くなかった。

 若葉は寒そうに一回震えてから、蒸れたのかニット帽を脱いで綺麗に染めた金髪を見せてくれる。ニット帽を脱いだ髪型は、ボンパドールだ。


「ロワって子の目的は何だろうね」

「え? 私を休憩させようとしていて――」

「そうじゃなくてさ。何の得があってそんな教えてくれたり、休憩させたりしようとしてくれるわけ? タダより怖い物はないんだよ。そのロワってやつ、怪しいって思わないの?」


 若葉の訴えは納得いくんだよ。判るんだよ。言われて「それもそうだな」って思ったのは事実だし。だけどね、どうしてかな、あの子は絶対的に純粋な気がするんだ。

 永遠に三歳児の子供みたいな無邪気さ。三歳を超えると、子供は神になれないと聞く。それならばあの子は三歳未満の子供だ。私にとっての神なんだ。何となくそんな気がした。

 瞳は達観していたけれど、いつまでも知識の範囲は子供でいるような雰囲気だった。

 それに……あの子は「自分はこうする」と言ってきたが、押しつけなかった。「お前はこうしろ」とか「こうしたほうがいい」とかはあまり言ってない気がするんだ。「こうなるだろう」とは言っていたけれど。

 その押しつけなさが何だか……信頼してしまう。あの子が騙そうとしてるとは思えない。


「若葉、あの子は信じられる」

「リカオンちゃん、君はさ、信じるときって何を信じる? 相手のどこを信じる?」

「直感だよ、理由なんてない!」

「俺はね、リカオンちゃんのそういうところが心配なんだよ、リカオンちゃんは優しいから。騙されても君は笑う、それこそロワの言うとおりいつか泣き叫ぶ時間が来ても、君はしょうがないって相手に非を背負わせない。俺にはそれが……苦しいんだ」


 苦しい? どうして若葉が苦しくなるのだろう――なんて無神経な質問はしない。私の中の「理想」が持つ優しさはそんな質問しない。

 きっと幼なじみが騙されるのが嫌だという気持ちを汲むはずだ。

 私だって若葉が何かしら、どう見ても悲しい出来事に巻き込まれる運命にあったら嫌だし。若葉はこれからの未来が不安なのだろう。

 大丈夫だよって、無責任にも言えない。無責任に言って、「やっぱり駄目だった」ってなったら失望されるのが怖い。私はそんなに優しくない、こうやって言葉を選ぶ卑怯さも持っている。責任感から逃れてる。

 でもこのままではいけないのも判っているんだよ、若葉。


「大丈夫だよ」


 私は失望されてもいいと思いながら、諭してみる。もしも失望されても諦めない人になる。それもまた私の理想に近づく一歩であり、王子様になる為でもあるんだ。

 若葉、君に伝わればいいな。今はきっと私が王子様になる為の試練なんだって。一つ学ぶ為に自信を持とうとしてるんだって。


「……まぁリカオンちゃんが頑張るなら、俺も頑張るよ」


 若葉は目を細め信じられない物を見るような目で、思惑とは裏腹の言葉だろう慰めをしてくれた。

 思いは通じたようだ、私はほっとして苦笑した。

 ねぇ、若葉。でも君の頑張るところは違うところじゃないのかな。

 若葉の傷がずっと気になっていた。包帯の箇所にはどれほど酷い傷があるのだろう。ガーゼの下は?

 君に聞いたら、君はきっとまた青くなるだろうね。君にぶつかっていく勇気がまだできてない私は、きっとこのままでは王子様になれない。

 若葉、私は――君をどうにかしたい気持ちもあるんだよ。こうやって通じていけばいいな、少しずつ。

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