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ロワの旅立ち

「よう」

「……リトル」

「久しぶりだな、元気だったか?」



 夜――青い月の日だった。


 その日は雲が沢山勢いよく流れていて、夜闇も少しだけ暗くて、とても寒い日だった。

 だけど、もうすぐ日が昇るはずだ――オレは太陽を待っていたのだが、リトルがこっそり絵の中から出てきて、太陽を待つオレの隣に立つ。オレが時間旅行をし終えるのを待っていたようだった。

 リトルは、無精髭を少しだけ生やして、オレが声をあげると、「しぃ」と静かにさせるような仕草をした。



「……知っていたのか、オレが今から何をするのか」

「――……先に言っておくが、テメェの未来はあれから見てないからな、テメェみたいに全てを知ってから見直す程読書家じゃ無い。オレはこの未来知らないのに、知ってるアンタと会っていたんだなぁ!」

「えっと……」

「あーあ! もうずるいよなぁ、白い王子様は! 梨花の初恋、オレじゃ無くて白い王子様だぜ!?」



 リトルは、幼い頃に何か思い出すものができたようだ――オレは咄嗟に笑ってしまう。

 リトルはシンの絵画を手にとる。

 シンはおすまし顔で、何年と変わらない絵柄がそこには詰め込んである。



「シン姫は、婆ちゃんって呼ぶと怒る、やっぱり女性にばーさんっつって喜ぶのは、リカオンさんくらいだからリカオンばーさん頭おかしいわ」


 シンの絵画を手にとって、リトルは絵画の中に手を入れた。絵画はリトルの手が入ると波紋を広げるが、リトルを拒否しない。



「命を永遠にしたかった……梨花の命も、オレ自身も。お前が願いを叶えてくれた時は、心から喜んだ……お前のお陰だってずっと思っていたが、祖父さんのお陰でもあるんだよな。でもオレは祖父さんに何もしてやれなかった。何かすると思いもしなかった……だって、いつも一緒だったから、絵画越しでもさ。当たり前みたいにいなくなるなんて思わなかった。なら、オレができる祖父さんの代わりっつったら、お前の見送りくらいだ」


 リトルの目つきは、だいぶ昔と違って柔らかな日差しみたいになっていた。

 尖りがなくなっている。若さ故の尖りだったのかもしれないけれど、家族と理解しあって、尚且つ絵の中に梨花とシンがいるからだろう。

 穏やかで優しい日常を想像できる。

 リトル、梨花、シンの三人だけの世界――それは何だか秘密基地でかくれんぼしているみたいだな。

 命が永遠に紡がれないかくれんぼ――現実の放棄だ。

 ロミオとジュリエットの物語を覆したと見せかけて、ただのアレンジにも思える。



「シン姫が五月蠅くて、息抜きに此処へ現れたのか?」

「それもある」


 あははっと大きな声でリトルは大笑いする。


「――……この次元はなくなるけれども、それでもまたいつかディースの子孫としてお前に会いたい」

「へぇ、いい顔つきになったじゃん。男らしくなった。予感はしていたよ、お前が旅立つって。平和を求めて……若いじーさんを宜しくな? そこはほら、うまくお前がじーさんとシンの間を取り持ってくれよ、そうすりゃ産まれる。じゃ、気をつけて、いってらっしゃい」

「――っはは」


 オレは小さな笑みを浮かべ、リトルが絵の中に入っていく光景を見つめていた。

 とても幸せそうで――ほっと安心する。



 リトルが絵の中に入り終わってから、オレは小さな声で「シン姫によろしく」と呟いた。

 絵画を抱える。

 絵の中には、シン姫の絵が描かれている他に、二つの花が追加されていた。


 ハルジオン――ハルジオンには、追想の愛、という花言葉があるという。


「もうすぐ、日が昇るかな」


 部屋にある時計を見て、親父からの愛情を思い出す。

 いいや、親父だけじゃない、オレは皆から愛されてきたんだって……。

 色んな人の思いで、できているこの身。

 リカオンの勇気、若葉の弱音、シン姫の慈しみ、琥珀の犠牲、リトルの存在、ディースの始まり……。

 オレの時計はこれからもまだ進むよ。

 若葉とリカオンも一緒に旅をするんだ。

 みんなで色んな景色を見たり、笑ったり……絵にも話しかけたりするよ、帰ってきたら。


 ディース、オレはお前の願い、若い頃は全て叶えようと思ったけれど……やっぱり今も叶えたいって思う。



 だから決めた、時間旅行をして、今までバッドエンドで終わったディースの他の時空をハッピーエンドに導く旅をしたいって。



 どれくらい時間がかかるか判らない。この時空みたいに、リトルが生まれるか判らない。

 でも、できるだけ……できるだけ、お前達に未来が沢山あって欲しいんだ。

 いつまでもあの事件に捕らわれてはいけないよ、だから何回でも何百回でも、ディースを救う。


 それがね、オレのやりたい出来事だったんだ。


 いつか、ディースと出会った思い出すらも無かったようになるとしても、オレはお前を選ぶ。

 オレは、全ての時空のハッピーエンドを願う。


 遠い昔、「未来のロワの手によって、未来が変わっていっている」とディースが言っていたのはきっとこのことだ。


 ならきっと、俺は完遂できる筈だ――。


 何処かの時空でリトルと梨花とお前が笑い合う未来を見てみたい。

 リトルと梨花だけじゃない、ディースの息子や、ディースの息子の奥さん。

 大家族で笑い合う光景なんて見られたら、どれだけオレは満たされるのだろうか。



 若葉とリカオンは手伝うと張り切っている、あの二人漫才みたいで面白いんだ。

 若葉とリカオンは、王子様とお姫様にはならなかった。

 魔法使いと、女王みたいな関係で面白かった。

 でも時々リカオンは呟くよ、「王子様になりたかった、最後まで〝頼〟ってやつはずるい」って。


 優しい時間を思い出す――ディースとリトルと食事していた時間。



 嗚呼、空が徐々に明るくなって、オレンジになっていく――朝焼けだ。

 朝焼けがくるたびに、オレの未来は始まっていくんだ。

 皆と笑いあう未来に、オレが作っていくんだ。

 未来をオレが作る――不可能ではなかろう?



「またね」

 今日は一月一日……オレの誕生日の朝焼けは、特別なオレンジ色。

 もう、心配しないで――醜い獣になりきれない、優しいヒカリを持つ星の名の鳥よ。

 オレは強くなって、また違う時空のお前に会いに行く。



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