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そして辿り着く一つの未来

「貴方は誰?」



 小さな小さな王子様。お姫様を背中に守り、きっと睨んでオレへ挑む。


「オレは、お前には名乗らない」

「オレが名乗れば、名乗ってくれますか?」


 小さな王子様は、オレの正体がひっかかるのか、じーっと只管に見つめてくる。

 オレはにこっと笑いかけて、無理だ、と答えた。



「名乗ったら、お前は警戒する。オレはただの旅行にきたんだ」

「旅行? 何処か遠いお国からやってきたのですか?」

「……それも話すわけにはいかないな」

「リトル、ねぇこの人悪い人じゃなさそうよ。あたし、話したい」



 王子様の背中で守られてるお姫様がひょこっと身を乗り出して、オレへきらきらとした眼差しを向けて期待を込めてオレに問いかける。



「貴方は、もしかして王子様?」

「王子? どうして? お前を守る、その小さいのがお前には王子様だろう?」

「リトルも王子様だけど、貴方ももしかしたら、王子様かなって。そうだとしたら、リトルの理解者が増えるから嬉しいの」

「……理解者?」

「リトルね、とても不器用で心配なの。あたしと一緒に遊んでいると、決まってあたしを庇って怪我するの。島の人が意地悪するのよ。あたし、いつも千羽鶴折ったわ」

「――だから、千鶴、か」

「え?」

「……いや、オレが名乗るとしたら、千鶴という名前がいいなと思って。そうすれば、その小さいのをお前と同じで、いつも守っているようだろう?」

「そうね、とても素敵」



 オレとお姫様の話が弾んでいると、王子様は不機嫌になる。お姫様がオレに取られたと思っているんだ。判りやすくて、少し笑いそうになるが我慢だ。



「これから何処へ行くの?」

「旅人は宛先を決めないものだ。オレは王子様にもなりたいが、旅人だ」

「そう、あたしたちもね、これから初めて、未来や過去を見に行くの。ずっと計画していたのよ。行ったことないから、楽しみねってリトルと話していたの」

「……過去ってどれくらい前?」

「オレの祖父さんが若かった頃! オレの祖父さんの弱点見つけにいくんだ!」



 王子様が無理矢理会話に混ざり込もうとする、お姫様は少し呆れた視線で王子様を見ていた。

 堪えきれなくなって、オレはとうとう笑い転げてしまった。

 王子様は機嫌を損ねながらも、オレに教えてくれた。



「オレの祖父さん、みんなには内緒だけど、ヨダカなんだ! それに、昔、子兎に助けられたんだって」

「お前は、お爺さんの物語を知っているのか?」

「オレ馬鹿だからまだ覚えられねぇけど、これから祖父さんの物語覚える」

「なぁ。お前達、お爺さんは好きか?」


 オレが問いかけると、二人は目配せをして、気まずそうにする。


「あたしは苦手。あたしのこと、嫌いみたいなの」

「オレは好きだけど、梨花のこと守ってくれない祖父さんは嫌い」


 オレは、おやおやと片眉をつり上げて、微苦笑を浮かべてしまう。


「あの人は不器用で、間違えてしまっても、間違えたと言い出せない性格なんだ。もしも、あの人が間違えてしまったら、祈ってくれ。素直になれるよう」

「貴方、お祖父様のこと思ってるから、貴方に祈れば神様は聞いてくれそうね」

「――……千鶴さん、また会える?」

「ああ、未来でも過去でも会える。二人のこと、待っているよ」

「うん、じゃあまたね、千鶴! 行こう、リトル!」

「それじゃあ道すがら気をつけて、旅人の千鶴さん! お元気で!」



 王子様とお姫様は、そうして過去へ旅立った――。

 オレは、リトルと梨花の、初めての時間旅行を見守りたくてつい時間旅行をしてしまった。

 その時間と時間の狭間で出会ったから、幼いリトルと梨花はすぐにオレが同類だと気づいたみたいだった。

 そうか、だから千鶴、なのか――オレにまた会いたかったのか。二人の原点が知れて、オレは満足だった。

 こんな寂しい日は、二人に会いたくて――本音を言うなら、頼を見守りたかったけれど、それはもうあの未来を迎えた今はしてはいけないと思うから。


 ディースの死が、きた未来では。



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