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確執の溶ける瞬間

「何で梨花をオレから奪ったの、オレは片割れがいなくて寂しかった」


「……兄妹では結ばれないから、早めに別れさせようと思ったんだよ。君らは血が繋がっている……」


「それならせめて、傍にいるだけでも許せよ……何で、島の人も祖父さんたちも一緒くたになって、梨花を毛嫌いするんだ……梨花が何をしたっていうんだ……オレや若い頃の祖父さんと違って、髪が黒いから? 誰にも通じないなら、せめてアンタには通じろよ、アンタが原因なんだから!」


「……島の人はどうだか知らないがね、私はあの子を見ていると、自分が家族を捨てたとつらつらに思い出すんだよ……我が儘だ、弱かったんだ私は。私も物語に登場してしまっていた、ロミオとジュリエットの物語に。二人の交際を反対する立場に、成り代わってしまっていたんだ……」


「祖父さんは、やっぱりずるい。だってアンタは物語でできてるから、何でも言い訳できる。そういう物語だったんだよ、って。……でもオレや親父の存在は、アンタの意思だ。アンタが千歳と会いたいって思ったからだ」


「……その思いからできた家族だったが、私は満足していたよ。託せるからじゃなく、ただ……私に家族を作る行いができたんだと、嬉しかった。子供が、成長していく様子が堪らなく好きだった。私にはできない未来をあれこれ考えた……お前の父親は物語を持たない子だった。物語を持たないのなら私には意味が無い存在だったのに、とても……愛しかった。私はこれでもお前達を愛していたんだよ、計算外だった」



 ディースの言葉は、しんしんと今降ってる雪のように心に溶け込んでいく。

 心から愛していたんだと、拙いながらも必死に伝えようとする姿が、見ていて微笑ましくてオレはこっそり若葉やリカオンに目配せをする。二人と目が合うと、二人ともピースをオレに向けた。


 二人はこんな時まで茶目っ気があって、可笑しい。

 オレは感動して、泣きそうな感情が沸き立っているというのに、全て台無しにしてくれる。まったく酷い奴らだ。



「……本当に、今更……だ、そんな簡単な言葉、どうして何年も言わなかったんだ……そんな言葉昔からずっと聞いていたら、オレは祖父さんを許せたのに……オレの存在は、千歳の為以外ないんだって年を取るにつれ信じ込まなかったのに。アンタが家族を捨てたって、恨まなかったのに」


 リトルは深呼吸をして、ディースから離れる。

 リトルはオレへ視線を向けたが、視線にはもう凶器性なんて無くなっていて、柔らかなオレンジピールみたいな優しさだった。

 甘いけれど、苦みもある視線だ。


「何か作戦があるんだろ? 言ってみろよ、オレは梨花と結ばれるのなら、どこでもいい」


「はい! はい、はい、はい! はぁーい!」


 リカオンが勢いよく挙手した、元気の良さからオレは何か名案でも閃いたかと思ったので、リカオンへ首かしげた。

 皆も不思議だったようで、リカオンへ視線が集まると、リカオンは先ほどの若葉のようにえへんと威張って腰に手をあててポーズを決める。

 悠々と語る姿は仕草で魅せる舞台役者みたいな凜々しさだった。



「さっき天気予報見たらまだ雪は降るんだって。だからさ、若葉を利用しようよ! 若葉が幽霊だと思わせて、島の人が怯えた時にリトルと梨花が絵の中へ目の前で入る! どうだい、怪談としては優秀だろ? 昔、あったじゃないか、鏡に人が閉じ込められるとか。あんな感じでイメージ植え付けられたら、誰も探そうなんてしないぞ! 人はね、シンプルであればあるほど、怖がるもんだ。だからきっと皆怯えるぞ」


 ばちんっとウィンクをリカオンがすると、若葉がすぐさま反応する。


「なんか文化祭思い出すよね! お化け屋敷作る感じのあれ!」

「そうそう、あんな感じ……いや、あれよりももっとすごい印象を植え付けよう! 雪の日に、駆け落ちフェードアウト! インパクト大で、誰もが怯えて、シンちゃんの絵を取ろうとしないだろうね! それくらい盛大にやってみたいよ」

「いいね、いいね! 流石リカオンちゃん!」



 ……リカオンと若葉の組み合わせは、以前から思っていたが、見ている此方の気持ちを明るくしてくれるような騒ぎ方だ。

 若葉が病んでいる時は、リカオンは見ていて痛々しいが、二人そろってはしゃいでいる姿は見ていて微笑ましい。

 若葉とリカオンは二人で、あれこれ提案していて、その案をディースが改良していた。

 リトルは話し合いは皆に任せて、台所へ向かっていったので、オレはリトルについていく。

 リトルは台所にあるシチューを火を点けて温めて、オレと目が合うと、微苦笑した。


「テメェにとって嫌な言葉たくさん言っちまったな、悪い」

「……お前にとってそれだけ嫌だったのだろう。謝るな、居心地悪くなる。オレとて、お前に嫌な役目を与えてしまった」

「どうにも謝り合うのは性に合わねぇ、やめにしよう」

「賛成だ」


 リトルはシチューが温まると、皿によそって大きなスプーンでリトルは口に運ぼうとする。

 立ち食いは止めたほうがいいと言おうとした直前で、リトルが神妙な表情をオレに向けた。




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