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不吉な雪を見て思うのは

 ディースは過去に拘っている気がした。

 オレを大事にしようとしているのも、過去に償えなかったから。

 オレがいれば、昔みたいに皆で幸せでいられる、そういう勘違いをしているんじゃないかなってふと、哀しげなディースの瞳で思ったんだ。


 今幸せじゃないのは、何かが欠けているから、だと。


 欠けているのは、オレという存在なのだと。


 ディースは、両手を杖に載っけて、支えを保つ。

 オレはそっと胸を摩るディースを支えて、椅子へと誘導した。視線で「皆も座ろう」と促した。

 若葉はふてくされて、言い放った。


「俺、頼ちゃんが変わるまで話さない」


 言い放つと拗ねたように、若葉は部屋へ戻り、リカオンが止めようとしていた。


「止めなくて良い、若葉の言うとおりだ」


 小さなくぐもった声が、笑った気配がした。

 驚いてディースを見つめると、けらけらと実に愉快そうに笑っていた。


「変わらないね、あいつは。いつも〝オレ〟と対極の位置にいる」

「よ、頼……?」

「――ずっと。ずっとあいつが死んでから、つまらない想いをしていたんだな、と気づかなかった。今、気づいたよ……皆の大事さ」


 ディースは笑い終えると、リカオンにお茶を頼んで、ほうじ茶を貰っていた。

 ほうじ茶を啜りながら、ディースは穏やかに話し始める。


「自分が間違えてるのは気づいてもね、意地っ張りだと自分自身で直せなくなるんだよ――年を取りすぎるとね、どうしても間違いを間違いだと認められないんだ」


 ほうじ茶の温かさに、ディースは息を小さくついて、オレやリカオンから視線を反らす。


「……リトルは、ちーちゃんの存在維持の為だけじゃない存在に、なっている。あいつの親父――私の息子――だってそうだ。もう、立派に家族なんだって、私は伝えるのをいつも忘れている……あの子や、息子を寝かしつける時間が堪らなく好きだったんだ。ちーちゃんの話をするからだと思っていたが、……話す内容は何でも良かったんだ。ただ、あの子達を寝かしつける一対一の時間が、愛しかったんだ。私の家族との時間が欲しくて、ちーちゃんの寝物語をしていたんだ……」


 ディースは……諦めている。

 感情や想いを伝える行為を諦めている、だってディースは格好つけだ、格好悪いとか思っているんだろう。

 ディース、そんな場合じゃ無いんだ。今度こそ、お前の大事なものを失う。


 もっと躍起になれ!


「……ディース。このままだと、リトルを失う……」

「――どうしろというんだろうね、もう敵対している時間を巻き戻せるわけじゃない。リトルの梨花への想いを止められないし、梨花と私の立場もそう簡単じゃないんだ……間違いだって気づいても、もうどうしようも……唯一を守る為に、捨てた物をどうやって拾えばいいのか……もう、時間が経ちすぎて不可能だ」


 ディースの諦めは、ただ口だけじゃ何も訂正できない。

 何かもっとオレに力があれば――……ふと、窓辺の雪を思い出す。

 外ははらはらとあれから振り続けて、皆は忙しそうだった。



 ……リトルの言葉を思い出す、雪が降るときは不吉だと。


 人は、どうしても受け入れられないものがあると、何か伝説を作り上げる。

 雪が不吉だと言うのなら、受け入れられ続けなかったオレとて、同じだ。



 同じ、〝白〟だ――島の人に嫌われ続けた、存在だ。




 オレは、窓の雪をそっと指さして、白く振り続ける光景に胸を躍らせる。



「オレなら、何かできる」

「……ちーちゃん?」

「オレはだって、白だ。リトルから聞いた、雪の降る日は、不吉なんだって。オレは島にとって雪みたいなものだ。オレが、不吉を起こす!」

「……君を失いたくない、判るね?」


 ディースは眉をぴくっと動かして、八の字にして困惑しているけれど、オレは訴え続ける。


「ディース、問も答も箱もなくなればいい、世界から。いなくなるのはオレじゃない」

「……? どういうことだい?」


 ディースは頬杖をつきながら、オレに不思議そうに問いかける。リカオンもオレの回答が気になるようで、小首傾げていた。


「この島にいれば、シンの世界に入れるんだよな? だから、ディースは子供ができたんだよな?」

「――そうだよ」

「……文句を言わせる人がいない状況ならばどうだ、リトルも梨花とやらも死んだことにしておいて、絵の世界で暮らさせるんだ。外に出たくなれば時折出ればいい。死んだも同然の者には誰も痛手を負わせようとしないぞ! 不吉な日に、派閥が違うのに恋する二人が消えた、どうだ島の人々は探そうとしたがらないだろ! 駆け落ちだ!」

「……――ちーちゃんは、時折物凄い怖い話をするね……」



 ディースは言葉を失って、オレに取りあえず反応しなきゃと思った結果の、反応に見える。言葉に悩んでいる気配がした。

 必死にフォローしようとしているのが不思議だった。オレは名案だ、って自信を持って言えるほど活き活きとしていたから。



「っはは、まさにロミオとジュリエットじゃないか! すれ違わないように頑張らないとな!」


 今度はリカオンが大声で笑い出した。ディースが睨み付けると、ディースを指さしてリカオンは大笑いした。



「堅物の君じゃ考えられない邪法だ! 私はいいと思うよ! 二人きり――じゃないけれど、二人の世界にしてやればいい! シンちゃんだってそれくらい許してくれるよ!」



 遠くから、「いいと思うよー」って間延びした若葉の保証もついて、オレはどうだって威張ってディースを見つめる。

 ディースは最初は黙って呆れていたが、徐々にリカオンの笑い声につられて笑い、微苦笑を浮かべた。


「君たちといると、やっぱり私は無敵になれるよ」


 ディースは憑き物が取れたように、さっぱりとして、若い頃でも見た覚えがないくらい大笑いしていた。

今日中に終わらせます。連続投稿すみません。

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