親兎の懺悔
「……ふざけるな。ふざけるな、オレの大事にしていた物全て奪おうとしていた癖に! テメェにだけ奇跡が起きるのかよ!? 主人公補正とでも言うのか?! だとしたら相当運が良いな、特別扱いでくそむかつくぜ! そうさ、運命はいつだってうちの一族の味方にならず、テメェの味方になるんだ! 同じノルニルなのに!」
リトルが大声で時計台に向かって叫び、壁をがんがんと柄が悪い少年のように蹴りつける。
声が小さく震え、嗤っている気配がした。
『むかつく? じゃあこの子は要らないのかな。運命を変えるのに必要なんだけど。レプリカ、貴女達は絆を見せてくれた……私の息子が大事だと。貴女達の勇気に、賞賛した物になれると思ったのだがね』
一瞬空が光ったかと思うと、空はすぐに闇に飲み込まれ、雪が降り続ける。
リカオンが自分自身の口元を押さえ込んで、言葉を飲み込む――「ジーザス」と小さく呟いて、遠い影に向かって全力で走って、遠い影を抱きしめて泣き喚く。
リトルは苛立っていたが、遠い影の存在を見つけると、目を丸くし、「嘘だろ……」と小さく喜んだ。
オレとリトルは言葉を飲み込んで、青年姿で眠る若葉を正視し続ける。
「何がどうなって……」
『勝手に物語へ登場されても、迷惑だ。私の息子へ責任を押しつけるのなら、責任は私が取りますよ。この男の時間を少しだけ、延長させました。人の寿命だけは動かない? そんなのは一般人の浅はかな諦めだ、奇跡だって願い続ければ起きるんだよ』
「……若葉さん……嘘だろ……?」
遠くでリカオンが大泣きしながら、リトルに運ぶのを手伝えと大騒ぎしている。
リトルははっとすると慌てて頷き、リカオンと若葉に駆け寄った。
オレは雪をじっと見つめた――。白い、毛並みのような白さの雪。
『ロワ、時計を大事にしておくれ。その時計に、私の全てが籠もっている。私の思いと、お前への愛が。お前はね私を憎むだろうって思うよ。私がお前の立場でも、私を憎むよ。でも……全て、お前という存在にいてほしいのだと。そんな願いを持っている者がいるって知って欲しい。お前がいてほしいと願う奴が、心底いるんだって知りたかった……あまりにお前が呆気なく逝ってしまうから……誰も止めずに。私の息子に価値はないのかって許せなかったんだよ。悪かったね』
現世で若葉が蘇る――オレは、オレは運命を変えられたのか?
若葉の声が遠くで聞こえると、未来の僅かな変化を実感して――オレは心から感動する。
何処へ……何処へ行こうとも。
「何処へ行こうとも、時計を見れば幸せなんだなって思い出すよ……」
リカオン達を試そうとしたのは、許せない。
けれど、リトルを助ける為に、若葉の寿命という時間をねじ曲げてくれたのも事実だから――だからオレは、時計に愛を込めるよ。
時計を見て、親への愛を思い出そうとしてみるよ。
×月×日、十八時――少しだけ、皆の運命が変わった。