子供らしく。
「ロワ、大丈夫だ。クリスマスには絶対皆で集まるって約束したんだ! 私だってバイトを休んだんだぞ!」
リカオンのバイトは、頼と一緒でモデルだった。頼と違うのは、服とかの販売に使うチラシとかのモデルだという知名度の低さ。頼のほうが知名度は高かった。
「ミニスカサンタというのをしなくていいのか? 若葉がリカオンはミニスカサンタとやらをすべきだと豪語していた」
「あの馬鹿!! ロワ、そんな言葉覚えなくていいからね!」
リカオンは真っ赤になって、チーズケーキを乱暴にばくばくと食べている。
オレはレターセットを置いて、サンタの三文字を見つめる。
「……リカオン、本当にクリスマスに皆集まるのか?」
「絶対だよ。皆で集まろうって言い出したのは、頼なんだよ? 皆で暖かい食事しようって。そうだ、若葉がクリームシチュー作ってくれるって言ってたんだよ! ブロッコリー沢山の! それにチキン! 美味しいチキンの味噌漬けを焼いてくれるって!」
クリスマスに味噌っていう選択肢が何となく、日本人らしくてオレは小さく笑った。
リカオンはハーフだというのに、日本人特有のあべこべが判ってないらしい。
「さぁクリスマスの心配はいいから、サンタへのお願いを書くんだ!」
「――……若葉が新しいマグカップを欲しいって言ってたから……」
「君自身に関する願い事じゃないと駄目なんだよ!」
リカオンは身を乗り出して、俺の前に前のめりになりながらも拳を机に叩きつけた。
震動でレターセットが少し揺れて、位置がずれた。
「じゃあ……誕生日が欲しい」
「誕生日?」
「……皆には誕生日がある。オレは……持ってない」
オレの誕生日っていつなんだろう? 親父は教えてくれなかった。
そもそもオレの持つ物語に、季節感なんてなかったしな。
チーズケーキをフォークで小さく切り分けて塊を咀嚼すると、優しいリカオン独特のレシピの味わいが口内に広がった。
どんな店のケーキもリカオンのチーズケーキには敵わないだろう。
「……君が好きな日はいつだい?」
「……わからない」
「……そうか。君はサンタが決めてくれたら、誕生日ができたと心から思えるかい?」
「……いきなり他人に決めて貰っても思えるわけがない」
オレはレターセットを睨み付けて、鼻で嗤った。
リカオンは哀しそうな嬉しそうな、様々な感情がまぜこぜになったような表情をしていた。
「ロワ、それなら私やあの二人が君の誕生日を決めたら?」
「そしたら、それがオレの誕生日になる。誕生日って存在しだした日だろう? オレが存在しているのはお前らのお陰だ。……サンタなんて他人が決めるより、ずっといい」
「ロワ、嗚呼! 感動したよ、私は! サンタといったら子供向けだろうって安直に思っていた私をぶん殴りたいよ!」
リカオンはオレの両手をがしっと握って、こくこくと頷き続けて、何か感動を伝えようとしているのだが、オレにはどこで感動するのかいまいち判らなかった。