生きている証とは
一つの部屋に辿り着いた、そこへ扉を開けようとすると、鍵が掛かっている。
そうか、人数が足りないのか、と思って困惑しているとディヴィットがドアノブを無理矢理側にあった置物で殴りつけ壊して、穴の開いたそこから開けてしまった!
こ、こいつなんてむちゃくちゃなんだ!
オレは思わず呆れて、大笑いしてしまった。
「屋敷のルールでさえ、この男には自由なのか! 名前を決めないというのはすごいな!」
「え? 何、なんかまずいの? 普通の家ならまずいけど、此処ならもう何してもいいっしょ? 逃げるン目的だし」
「い、いや、とても……独創的だと思ってな」
これだけイレギュラーな存在だとは思わなかった……屋敷が混乱しているのがじわじわと判るから、余計に面白い。ほんの少し肩肘張った力が抜けるのが判る。
屋敷が困惑して吹雪で、窓をばしばしと叩いてオレ達を怖がらせようとしているが、ディヴィットには通じない。暢気に「この置物武器にいいよねー」と和やかに笑っていた。怖く見せようとしている演出がいっかな通じないというのもまた笑えた。
扉を開けると、中には薔薇の花束と、ナイフがあった。
『生を連想させるのはどっち?』
ディヴィットは普通に薔薇を選ぼうとしていたから、流石に止める。
「素直に動くな! 素直な発想はこの屋敷では命取りだ!」
「え、指図しないんじゃなかったの、アンタ」
「オレが味方である限り、不正解など簡単に選ばせたくない!」
オレがぷりぷりと怒りながら、鼻をひくひくさせると、ディヴィットはちぇーと呟いた。
オレはじっと花束を見つめ、観察し続ける。
薔薇は花だし生き物だった証でもある。しかし、花束というのに引っかかった。
薔薇の鉢植えでもいいはずだ、本当に証であるというのならば。
そして何故よりによって……ナイフに血が少し垂れている?
血痕の意味は?
「ロワちゃん早く選んでよー」
「今頑張ってるから、少し待て。なぁディヴィット、ナイフで刺されるとどうなる?」
「え、痛いよ、死ぬし、そんなん」
けろっとしながらディヴィットは率直な感想を教えてくれた。
「……でも死ぬ〝以前〟の思いだよな、それは……」
「あと花ってさ、なんか成長途中で何かすんのとか思い出すよね」
……薔薇には間引きが必要だ。間引きで死を連想するのは浅はかだろうか?
何より、花束ということはこの花は……。
オレの中で回答が生まれた。
「ディヴィット、ナイフを選べ」
「え、でもナイフって痛いし……」
「痛いからいいのだ、ナイフを選べ」
ディヴィットは渋々納得してナイフを選ぶ。
頭上に赤い円が出て、ピンポーンと正解音が鳴る。
ディヴィットが少し驚いた表情でオレを見やる。
薔薇は刈り取ったから死を意味していて、ナイフは痛みを感じる瞬間を現すから生を意味するのではないのかと。
予測がうまくいったようだ、とオレはほっとした。
自分でナイフを持つと落としそうで怖くて。緊張していた脚がぶるぶると震えて、しゃがみ込んでしまった。
「大丈夫!?」
「……怖かった。今までお前達はこんなものを連続して選んでいたんだな……」
見守るのと、実際やるのとでは大違いとかよく聞くけれど、本当に大違いだ。
一回でも間違えたら、先が怖い。間違えの許されない選択肢を選び続ける恐ろしさ。
こいつらは何度も何度も――次元を超えても、何度も選び続けてきた。
心臓がタフなやつだと、賞賛しよう。
「いやでも、さっすがロワちゃん! 正解してんじゃん! 俺、絶対薔薇だと思ったー!」
「……お前の脳天気さが、こんな時微笑ましい」
ディヴィットは褒められたのかと勘違いして「任せて!」って笑ったから、ああこいつ本当頼もしいなって違う意味で思った。