努力しなかった過去
「さぁ、どこの部屋から行こうか!? どこの部屋からでもオレはいけるよ!」
「……強者に取り憑かれないお前は、こんなにも頼もしいのだな」
「え? 強者?」
「いや……その……強くなりたいとは願わないのか?」
琥珀が死んでいる部屋を出て、止まっている時間をそのままに、廊下を歩く。
オレが遠慮がちに問いかけると、ディヴィットは考え込んだ後に、ぷっと噴き出した。
オレがどうしたのだろうと疑問に思っていると、ディヴィットは自ら笑った理由を教えてくれた。
「なんか昔、RPGで主人公って何で最初からレベル百じゃないんだろうって思ったの、思い出した」
「あーるぴーじー?」
「アンタ知らなそうだよね、浮世離れしてる。ゲームがあるんだよ、そういうジャンルの。まぁ兎に角、レベルっていう強さの証みたいなのがあってさ、それが百くらいだと大体一番強いんだよね。でもゲーム始めるときって、最初から百にはなれねぇの」
「……学んでいくためでは?」
「俺それめんどーで嫌だったんだよなぁって思い出した。少しでも楽する裏技とか探すのに夢中でさ。いきなりパラメーターがマックスになる方法が書いてある攻略本集めていたなぁ。思えばあの頃から、頑張るって事柄に関して逃げ続けていたんだ」
……ディヴィットは明るくはしゃいだような感覚で、言葉を続ける。
狂ってからのディヴィットが印象強いから、こんなに前向きで明るい奴だったんだって気づくのが遅かった。
ディヴィットと話しながら歩く廊下は、興味深く面白かった。オレの知らない体験話が多く出てくる。
フリルとレースをあしらったワンピースをリカオンに着せようとしたら、カメムシを踏みつぶすより嫌な顔をしたと聞いた時は笑った。
色々な話をした、主にディヴィットとリカオンの話だが、とても面白かった。
リカオンの若い頃や、ハイジャンについての話もディヴィットの感想を聞いた。
「俺にはわっかんねぇよ、数字に拘る理由が。なんで一メートルじゃ駄目なの、みんな頑張ってるじゃん。って思うときもあったけど、それじゃ勝負にならねぇんだよな……でも苦しんでるリカオンちゃん見てると励ましたい」
「ディヴィット、此処から出たら励ましてやるといい」
「……そうだね! ロワちゃんはそういえば、此処から俺達が出たらどうするの?」
切り返されてから、ぴたっと動きが止まる。
……未来で、ディースが生きる運命になったか確認したいな、って思うんだ。
でもその前に、クリアしないと、此処を。
リトルとの待ち合わせに間に合わせたいんだ、どうしても。
急に未来が不安になる。
オレは本当にディースの未来を変えることができているのか?
オレは皆を本当に助けられるのか?
――オレもつまるところ、子供なのだ。急な勢いで不安になることもある。
「――ねぇねぇロワちゃん、シンちゃんとリカオンちゃんならどっち派?」
ディヴィットは返事しないオレに気遣い、質問を変えた、それもできるだけ笑えるような質問。
「オレはシン姫がいい」
気高い女は好ましい、威勢が良いのもプライドが高いのも好ましい。
リカオンも気高いけど、あまりにも雄々しすぎて、女性としては見られないかな。
「俺はどっちもだな! どっちも可愛い! 小さい胸には小さい胸の、大きな胸には大きな胸の良さがあるよ!」
堂々とした威厳で言い放つ、胸でしか人を見ていない最低の言葉は聞かなかったようにしてやる。