脇役を利用する瞬間
「リカオンは家族か?」
「うん、そうだね、家族だね」
ふいに警戒心を解いて嬉しそうに笑うお前を見て、「オレも頼が家族だよ」って言いたかったけれどややこしくなるから黙った。
「家族に何をしてやりたい?」
「俺が全部守ってやりてぇの! リカオンちゃんさ、オレを守らなきゃって庇護対象にしてるから、逆転させてやりたいんだよね! 俺のこと、か弱い女の子みたいに扱うんだぜ、嫌みったらしい! 俺だって男だってば、そりゃ多少趣味は男らしくないけどさァ」
二人の力関係と仲の良さが窺えて、俺は笑いを溢しそうになったが、堪えた。
でも表情は緩んでしまったんじゃないだろうか。
「リカオンを守りたいのか?」
「最初は思ったけど、……それは何となく違うんだよな。リカオンちゃんって、王子様だからさ。ねぇロワちゃん、オレさぁ思ったんだけど……」
いかにもずる賢い悪巧みを思いつきましたと顔に書いてある。興味深い表情だ。
誰でもすぐに悪い物事を考えているんだって、即座に思惑を想像できる顔。
オレは不思議に思いながらも、問うてみた。
問いかけると、ディヴィットはにやにやしながら銃をポケットにしまい込んだ。
瞳は少し、自分の立ち位置を覚悟しているというか、意識しだした色だった。
自分が脇役で、その立ち位置を利用してやるっという悪趣味な色。
「このまま時間止めた状態でさ、屋敷全部クリアしちゃおうよ」
「なっ?!」
スクルドの慌てる声が聞こえた――スクルドはでも賭けで今は「負けている時間だから」見守るしかできない。
止められないし、口を挟めないし、好き勝手にできない。
――琥珀の言ってた、〝いつもの貴方の好きな時間〟に矛盾が起きるってこのことなのかな。
つまり、スクルドと賭けて「勝った時間」を持続させると。面白い考えだ。それもディヴィットは、スクルドに気づかずそんな提案をしている。これも驚くべき点だ。
成る程、そうすれば確かにオレはディヴィットを手伝える。
「味方はオレしかいないがいいのか? お前にはリカオンや頼やシンに頼るチャンスだってあるんだぞ?」
「……何があったってさ、俺があの部屋で裏切った事実は変わらないよ。兄ちゃんが出た瞬間に、俺は逃げる、を選んだ。立ち向かいたいっていう心を裏切ったんだ。しかも裏切るのを見破られていたんだよ、予測されていたんだよ。信頼してないから予測できていたんじゃない、信頼してる上で予測されていたんだ。なんか、顔向けできねーじゃん、特別何かをやり遂げない限り。すっげー腹立つ」
ディヴィットは、一瞬だけ寂しげに言葉を付け足した。
「何より、あの人達と俺で違う点があるよ、仲間に入れない点が。俺は、もう人殺しだ――」
……ディヴィットは、それでリカオン達に頼るわけがいかなくて、悪役になろうとねじ曲がった考えになるのか。
ディヴィットは、にやにやとしながら「どう?」と問いかけてくる。
オレは微苦笑しながらも、褒めるしかなかった。
「天才だな、お前は。ついていくよ、お前に」
後ろのスクルドが悔しさで真っ赤に顔を染めてから消えた。
ちょっとだけ思ったよ、ざまぁみろって。