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朝日に込める想い

「えーっと、じゃあアンタは……ロワっていうの?」

「この屋敷ではその名前だ」

「それで……オレ達を助けようっていうの?」

「正確にはお前の味方になろうって話だ」

「はぁ? 何でアンタがオレを味方にしたいの? 俺なんて何も持ってないよ、力も……何一つ! 頼ちゃんみたいにかっこいいわけじゃないし、リカオンちゃんみたいに凛々しくない。俺は主役とやらに向いてない! 雑魚だよ雑魚!」


 自分の無力さを痛感したすぐ後だからなのか、判りやすく牙を剥くディヴィット。

 オレの反応を試しているような雰囲気がした。それによって、態度を変えると予期させるような。オレはなるべくどうでもいいような態度を見せようとした、プレッシャーをかけてはいけないと思ったから。欠伸の一つでもしてみせれば、どうでもよさそうだろ?


「……でもな、お前が一番未来を変える可能性が高いんだ」


 それでいて、さり気なくお前が特別なのだと、暗示する言葉を口にする。

 ほら、お前の望む王子様になれるチャンスだ――チャンスは手に掴め。


「未来? 未来なんかしらねぇよ、今何とかしてよ! 今どうすりゃいいんだよ!」

「……一つ誤解をしているようだがな、選ぶのはお前だ、ディヴィット。名前が違うのは判っている、だが期待を込めて呼ばせてくれ、ディヴィットと。お前がどうするかを決める為の休憩時間だ。オレはお前を見守るしかできない、が、何か決めたら力になろう」


 本当は――本当はどうにかして動きたいのに、オレはお前達の物語に関わる力を持っていないんだ。

 お前達の物語に関わる力を無理矢理ねじ込んだ結果なんだ、今は。


 オレの力よりも、大きな力を期待している。世界を、大きく変化させるような、どでかい希望。

 どうにもできないオレを許してくれ。小さな懺悔は届かないだろうけど、自己満足だから構わない。

 オレが大人だったら、何か変わったのかな、オレが子兎じゃなかったら――。

 ……もしも、この世界が変わるのであれば、オレは何の力も持たない、端役でも構わない。


 だから今は、お前が世界を変えろ――ディヴィット。お前にしかできない。


 他愛のない雑談でも混ぜたら、少しだけでもお前は救われるか?


「ディヴィット、お前、小さい頃クリスマスに何が欲しかった?」

「……――家族」


 嗚呼――としか言えない。


 オレが世界で一番欲しいものを、お前も欲しがるとは思わなかったんだ。

 お前達人間はいつだって何でも欲しい物を手にしているような気がしたから。

 だから、人間じゃないオレや、半分物語である頼は、本当に欲しい物を手に入れられないのだろうと――言い聞かせようとしていた自分自身に。


「家族が欲しかったよ、俺を犠牲にしない親が」


 ディヴィットの小さな呟きに、間が流れる。オレは返答に悩んでいたから。

 嗚呼、そういえばオレとお前はこんなにも似ているんだな。

 オレも家族が欲しいよ。頼とディースに囲まれて、楽しく遊んでいたかったよ。

 あの二人さえいれば、オレには飛んでくる石なんて怖くなかった。

 どんな石がぶつかって流血しても、気にしないでいられたんだ。赤い痛みなんて、気にしないでいられたんだ。朝日の眩しさに、絶望しないでいられたんだ。



 朝焼けが綺麗で、ピザソースを溢したみたいな色だった。

 頼やディースと出会うまで、とても大嫌いな色だった。

 あの色を見る度に哀しい思いをした。

 朝焼けが終わると「さよなら」って、もう二度と朝焼けに会いたくない思いを空に込めていた。

 もう、太陽なんて昇らなければ、「次の日」は来ないのに。

 あの色を、嫌った。オレンジが嫌いになった。

 夜の生き物になった。オレは夜の生き物になって、自分自身を誤魔化してきた。

 でもディースや頼が側にいてくれて、オレはその日から楽しくて「さよなら」って朝焼けを厭う思いはしなかったよ。

 オレは別の思いを込めて、さよならって思ったよ。


 ――新しい明日を頂戴、そんな思いを込めて。

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