邂逅の異変
このままだと、ディヴィットは自殺するだろう。
あまりに現実と理想の差が広すぎて、絶望するだろう。
オレは次の選択肢で優位に立つために、ディヴィットを見殺しにするのだ――。
セピア色の景色は、元の色を取り戻す。
オレが頭を抱えて、耳を押さえていても、銃声が聞こえて。
もうやめて、もうやめて、もうやめて。唸るように叫んでも、願っても誰にも届かない。神にすら祈りは届かない、それならばオレが神になればいいと思ったのに何もできない。
お願いだからもう虐めないで、その人はいい人なんだよ。叫んでも誰にも届かない。――喉が枯れてとても痛い。
喉が、破けたように熱くて、酷く罪悪感を感じてしまう。
オレの回答が、全てディヴィットを現してしまった。ディヴィットが、どんな存在たるか、当ててしまった。
(本当は、もっと優しい人なんだよ――)
閉じていた瞳をそっと開けて、見つめると、ディヴィットが自害していた――。
真っ赤な血溜まりに混じる、金の髪の毛。こんなのが見たかった未来だったんじゃない。
「正解おめでとう、凄いわァ」
皮肉がとても、うまいな、スクルド。
こんなの正解って呼ばないって知ってる癖に。スクルドは不機嫌さが一切合切消えて、鼻歌なんて口ずさんでオレの言葉を待っている。
嗚呼、オレが、オレが曖昧だからいけないんだな。
オレが、選択肢を間違えたんだ、きっと。間違えたらやり直す、簡単なことだ。
今、とても苦しくても、きっと簡単なんだ、世の中では苦しむ選択を選ぶなんて。
間違えたら、やり直せば良い。少なくとも、オレにはそのチャンスがある。
だから、オレはやり直しを選ぶ。
「スクルド……時間を巻き戻す」
「最後まで見ないの? 最後まで見て、別の次元に託しちゃえば楽なのに」
「そうしてきたから、オレは失敗し続けたんだ」
オレは、自分が失敗したんだと受け止めて。
どんな悲惨な光景でも逃げないで。
何度も勝つまでやり直せばいい。
どうせ胸が痛むのは、オレだけだ。他に、誰も傷つかないというのなら、オレがどれだけ耐えられるかっていう勝負なんだ。
オレはこの勝負を全て引き受けるべきだ、ディースの未来が変わる。
頼を無事、外に出したいんだ――。それだけじゃない、皆に救いがあってほしい。
もっと笑顔で帰宅できるような未来が訪れて欲しい。
どうか、幸せになって――足りないものがあるなら、オレに任せてくれ。
オレが、皆を絶対助ける。
「時間を巻き戻せ。勝ったのはオレだ」
スクルドを強い意志を持って睨み付けると、スクルドは心から不思議だと表情で語った。
「巻き戻してどうするの?」
「リカオンじゃなく、ディヴィットに話しかける。ディヴィットの孤独をオレが受け止める」
スクルドはじっとオレを見つめていたが、ふいっと目を反らして、時間を巻き戻す。
先ほどの、琥珀が死んだばかりのシーンにまで時間が巻き戻る。
ディヴィットだけに色づきディヴィットが動き出す。
「あ、あれ? みんな? ……はは、何これまさか白昼夢ってやつ? どんだけだよ、オレ……」
ディヴィットは微かに煙が立ち上っている銃口をじっと見つめてから、静かに笑い、それから涙した。
世界で一番不幸だと信じ切っている男の顔だったから、オレが変えてやろうと思った。
「酷く焦燥しているな」
「……誰? 昼間の……」
「お前に全て掛かっている。この屋敷をどうしたい?」
「――……分かんない、今は何も考えられなくて……」
「そうだろう、だから――オレは休憩できる時間を用意したんだ」
相手が違うけれど。何度口にするか判らない、自己紹介。
それでも一応君には言おうか、初めまして、××――。
もう百話超えていたんですね、まだ続きます。