幸せへの確認事項
可愛らしい少女の歌声が聞こえたかと思うと、昼夜を進めてる途中で、スクルドが現れた。
「時間の嫌いな同胞、いらっしゃい。あたしの目的は判るわね?」
「――時間と闘えと。そういうことだな?」
「あたしは何も言わない。貴方が選ぶのよ。選ぶのまであたしに責任を押しつけないで」
全て、全て自分で選んで未来を正解にしろと。何もかも、洋服の色がラッキーカラーでない運勢だとしても、自分がその洋服を選んだからと、選択する責任感を感じろと?
成る程、受けて立とう、その試合。
オレはポケットから懐中時計を取り出して、今がどの次元なのか確認する。
――驚いた、だって針は重なってない。今まで通りなら、何百もの針が重なって、違う次元が増える度に針が増えていたのに。時計盤は一つだ。
「何もかも最初よ、望んだのはあの人達」
「――……絵本ですら頼りにならないと言うか」
オレは持っていた絵本を、床へ放り捨てた。
まだオレの知らない物語――あらすじだけは決まっているけれど、違う劇団がロミオとジュリエットを演じるような。演技の違いやアドリブが楽しめる。
オレはこんな時だというのにわくわくした――よし、目的を確認しよう。
一つめ、ディース……頼があんな出来事で死ぬ運命を変える。
その為には、過去を変える必要があり、これから行われる過去を一回切りで変えなければならない。
二つめ、頼達をハッピーエンドにする。
三つめ……これは予測だけれど、ディヴィットの安否を常に気にする。
ディヴィットが鍵となる物語だろう事実は把握できた。
オレが全てを確認すると、スクルドは進み終わった時間の先で、オレを手招いた。
一歩踏み出すと、年季の入った厨房へと変わっていて、屋敷中がざわついているのが判った。
ざわつく先の廊下へ、こっそり覗き込む。他の誰にもばれないように。
そこにはお伽噺で登場する人物達がたくさんいた。
「リカオンがくる!? 何でそんな馬鹿な真似をしたんだ!」
「蒼い鳥。落ち着いて……これは越えるべき試練なんですよ。青い鳥は、あの女に奪われるのか。貴方の代わりに僕は店主になっても正常でいられるのか。あの女がきてから全て判るんです、貴方にとっても良い出来事でしょう? 頼様を本当に忘れているのか確認できる――おい、ラビット。あれをもってこい」
「はい、琥珀様」
――……琥珀の側にいるのは、オレの親父!
白い紳士風の兎が側で、絵本を二つ取り出した。手帳のような大きさの絵本。
絵本の元本を琥珀は受け取り、頼は複製された絵本を受け取る。
頼は絵本のページをぺらぺらと捲り、不思議そうな顔をしている。
琥珀は、とあるページを見つけるとそこのページを裏手でたぁんと叩く。
「ここだ、ここに書いてある。〝未来のチルチル〟が兎の息子に出会ったと。そいつらと、貴方の妹がこの屋敷の因縁を断ち切るかどうかなんだ。僕たちにはなにもできないんです。だが補助はできますよ、リカオン・アシュレイ・夢子を呼ぶんです。貴方の妹が僕達をこの屋敷から解放してくれるかもしれない……貴方も判っているでしょう、あの女は運命を変えられる」
「……もう琥珀かオレか、どちらが跡取りかで、派閥争いを屋敷にさせなくて済むのか……」
「この絵本の通りに従っていれば、未来はこの通りに訪れる。僕たちは逃げられます。そうですね? ラビット」
「ええ、そりゃもう本当です」