運命を変えたのは貴方
「貴方が必死に見つけたハッピーエンドは、皆にとってのハッピーエンドではなかった。だからやり直した、それだけです」
「時計は?! 俺が予想するハッピーエンドでは、頼はディースを名乗らなかった。リカオンもその運命にならず、永遠に生き続ける苦しみなんてなかったはずだ! 皆が、笑顔で余生を過ごせるだろう、人生になる計画だったのに!」
「私も〝別の方〟に聞いた話ですが、あの人達四人で選んだ答だそうです。貴方のお父様や、アリスに対しての問いかけへの答」
「アリス――」
時の覇者であるスクルド――俺と頼が勝負していた存在。
スクルドの予想通りにいく道筋なら、オレは何も関わる行為もできず見つめるだけだった。たとえ気にくわない内容だとしても、その場で歯を食いしばって見守るしかできなかった。
スクルドの予想と外れ、俺の思った通りならばリカオンに、休憩時間を与える行いができた――そういう賭けを、オレ達はしていた。オレと時間……スクルドは、いつもいつも賭け事をして、この屋敷の未来を占っていた。スクルドは物語らしい未来の来訪を待ち、オレはディースが助かる未来になるよう努力していた。
時としては、好まない選択肢も選び、スクルドに勝とうと頑張っていた。
スクルドがなぜ俺に関わるのか判らなかった、最初は。
だって俺はスクルドがアリスだと知らなかったから――アリスと兎は関わるものだ。
何より、俺はスクルドの名前を背負うから……仲間だと見なされていたのだ。
「親父はどこだ」
琥珀の衣服を揺すぶりながら必死に、震える声で問いかける。全身から血の気が引いていく。
なぜだ、なぜ親父が関わるんだ――!
「もう、もう頼達を苦しめないでくれ! 頼には二度とディースを名乗って欲しくなかった! 俺は頼が幸せならそれでよかったのに! 孫に託してまで俺を捜すなんて、してほしくなかった!!」
「ロワ、他人の幸せが何か、勝手に決めちゃいけません。思い出してご覧。貴方は運命を変えていったんです。あの狼ではなく、貴方が変えていったんですよ。貴方があの方の死体を発見し、あの方の絵本を読み、あの方の未来を変えると決意して。僕の知る絵本ではそんな風に書いてあった。いいですか、人と関わった瞬間に、一分先の未来は変わるんです。今はまだ貴方は、初代ディースを殺す行為に繋がる、決定打を打っていない。それに――見てくださいな」
琥珀はしずしずと衣服を捲りあげ、腹部の出血を見せる。傷は――ぐねぐねと動いて、出血し続けている。
血痕にもならず、銃痕にもならず、怪我をし続けている状態だ。
「この怪我は、まだ確定していない。この屋敷が、名無しに悩んでいる――チャンスだと思いませんか?」
ディヴィットという存在の、大きさを初めて知る行為ができた。
ディヴィットはもしかして、――機転を意味するのか?
物語を持たないというのは最大の弱みであり、生死に関わって「負け犬」になるべく存在だというはずなのに、本来の名無しが死ぬ意味は屋敷の知る物語の登場人物でもないため運命を変えられる可能性があるから屋敷が殺すと言うことになるのか?
あいつがどうするかで未来が変わるのだろうか。未来の出来事ならば琥珀は知っている筈なのに、教えようとしてくれない。
苛ついたオレは、部屋を出ようとする――。
「ロワ、過去の僕によろしく。僕はきっと耳を貸そうとしないから。ああ、それと後継者にもね」
――後継者? ふと疑問に思い、振り返る。
「〝本を読んでいる〟のは貴方だけじゃないんですよ」
悪戯めいた微笑を琥珀はすると、オレに手をひらひらとふった。
「〝読み手〟は止まりませんよ、物語を知る必要がありますからね、未来のために。僕のように――僕は、青い鳥を除けば、登場人物で貴方が一番好ましかったです。なので、応援してますよ」
「有難う――チルチル、止めるチャンスがあるなら、止めてみせる」
今のチルチルの様子から、「過去のチルチル」が狂う未来が嫌であると明確に受け取れた。
本当にあのままの狂った琥珀ならば、オレがいる理由を悟れば嫌がりそうな気がしたからだ。
オレは、屋敷の厨房に入り、果物と水分をたっぷり取ってから、時間を少し進めた。
この次元は、きっとまだ物語が始まったばかりなんだ。
まだ初代頼は、ディースではない。
ならば止めれば……止めたら何が起きる?
また初代頼達が、オレを復活させようと祈るだけだ――ならば他にどうすれば。