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~序幕・後~

 散歩を始めて数十分、目覚める季節を間違えた蚊に刺さた左指が痒い意外に、これといった物珍しさは無いので颯爽と飽きが駆けつける。しかし、ここで登場するのがコレ、今右手に持っているアイスクリームと左に持った塗り薬、今いる広場の知り合いの屋台で買った物と貰った物である。アイスクリームはもちろん村正の分も一緒。


 その村正は自分の手に持ったアイスクリームをペロペロと舐めている。アイスクリームをペロペロ舐める度に、俺の頭に溶けたアイスクリームが滴り落ちる。そう、この銀髪幼女、アイスクリーム舐めるのも肩車するのも、やめ⭕れない、とまら⭕い! なのである。


 そんな事を考えている時も、ボタボタと溶けたアイスクリームが休まず俺の頭に滴り落ちる。もしこれが鳥のフンだったら俺は怒り狂っても良いと思う。


 すると……


「あ」ボタッ


 可愛らしい声と共に俺の頭に重みのある何かが。


「化我生、石像になって。動いちゃダメ」


 とてつもない無茶ぶりである。


 俺の頭に落ちてきたのは間違いなく、アイスクリームの塊2、3個位。五段乗せなんてやったら落ちるだろ。と、思っていたら見事にビンゴ。景品は何が貰えるんですか?。『頭の上にボクたちアイス三兄弟』 正直いりません、お帰りください。


「あむ、……ペロッ…、はむ」


 迷惑ビンゴの景品にお帰り頂く方法を考えてると、頭の上から艶かしい声が。石像となり動けなくなった俺には見えないが、恐らく村正が俺の頭に落としたアイスクリームを舐めているのだろう。


 (ちょっと……、見てよあの男)


 (うわぁ…マジやべぇ)


 (てか、動かねぇな…)


 (早く頭のアイス取りゃいいのに…)


 (それよりも、あの銀髪の子、スゲー速さで手に持ったアイス食ってんな……)


 すると、何やら声がちらほらと聞こえてきた。周りを見たいが銀髪幼女の命令と言う名の呪いで石像となった俺に、辺りを見渡すなどという高等技術は使えない。しかし、ここで諦める俺ではない。俺にはコンセントの囁きを聞き取った、素敵耳、がある。


 頼む、俺の耳よ。この状況を打開する力を……俺にっ!。


 すると……『ピクッ』。


 動いた。


 確かに動いたのだ。ピクッと囁き動いた俺の左指。襲い来る痒みを振り払い、これならばっ!、と俺の研ぎ澄まされし全神経は左の指達に力を与える。そしてそこには固く握られた左拳が姿を見せる。


 そう、俺は打ち勝ったのだ。銀髪幼女の呪いと謎の痒みにっ!。俺の勝利を称えるかの如く眩しく輝く太陽から目を背け、俺はギュッ、と握った左拳を突き上げる。危ないところだった、あのまま太陽を見てしまっていたら、くしゃみに襲われてしまうとこだった。


 くしゃみ発生装置、その名は太陽。の奇襲をひらりとかわした俺は、早起きな蚊に刺されていた事を思い出し左指に塗り薬を塗りつける。今なお周りのヒソヒソ声が聞こえるが、銀髪幼女の呪いを退けた俺には敵は無し。俺は、高等なる技術で周りを見る。


 (怪しいって、絶対……)


 (だよな…、いきなり腕を振り上げてるし……)


 (ママー、あのおじさん……)


 (見ちゃダメよ! ほら、向こうに行くわよ!)


 (通報した方が……)


 すると、何やら数人が何かに指さしながらコソコソと話していた。もう一度ぐるりと周りを見てみると、あの指はどうやら俺に向いている。……ふむ、俺は人に指さされる事はしていない、つまり、あの指先にいるのは俺ではなく別の何か。俺は三度ぐるりんこ、と周りを見てみる。しかし、そこには俺に指をさしてヒソヒソと話している人達が。


 俺は腕を組んで考える。彼らは俺の何に対して指をさしてるんだろう?、と。


「あ……、ペチャ…ペロッ……あふ…」


 その間も、俺の頭の上を舐める村正の艶かしい声が響く。大の男に肩車させ、その男の頭を夢中になってペロッてる銀髪幼女。


 ……よく考えてみると、とてつもない変態ではなかろうか。


 俺に気付かせる事もなく肩に座り、俺の頭をペロペロ、レロレロしている銀髪幼女。間違いなく変態だ。変態銀髪幼女、その名は村正。爆誕である。


 しかし、俺はこんな事で村正を嫌ったりはしない。それは何故か、そんな事は決まっている。変態銀髪幼女、村正は、大の甘党だからだ。端から見れば大の男に肩車してその男の頭をペロッてる変態銀髪幼女だが、その実は、俺の頭の上に落とした“アイスクリーム”をレロッてるだけで………………ん?。


 俺の思考が一気に加速する。


 散歩を始めてからここまでの光景が、俺の脳裏を光の速さで通過した。


 何時ものようにしつこく家賃を払えと鬼の形相で迫りくる大家のおばちゃん。


 ジョギング中のおっちゃんのどう見ても邪魔でしかない、どでかいバック。


 そんな、おっちゃんの後ろを、仕事をサボって仲良く走るお巡りさん。


 フリスビーをキャッチし損ね、プルプル震える厳つい顔したチワワ。


 恍惚とした顔でトラックに跳ねられた、高校生くらいの少年。


 ひっぱたいたら頭が抜けて飛んでった、ギチギチと音を出していた蚊。


 その隣で地面に四つん這いになって、なんかブツブツ呟いてた、左腕に銀色の籠手をはめた中二病。


 広場の隅っこの端っこで細々とアイスクリーム売ってて、蚊の事話したら「一応、慰めとくか…」、と言ってた知り合い二体。


 そして、今だに俺の何かに対して指をさしてヒソる周りの人々。



 数多の光景が一つになる時、“真実”は、無限にその輝きを取り戻す。


『さぁ、見つめるのです。たとえ、それが貴方に哀しみをもたらすとしても……』



 なに言ってんだこの囁き。俺はそんな、頭可笑しい囁きをまるっと無視し、『ひどい…』ひどいのはどう考えても囁きの頭。と、俺の方に足下からゲームに出てくるような魔方陣らしき物を引っ提げ歩いてくるイケメン一人と美少女三人を一瞥し、俺は自分の右手を見る。


 そこに握られてるのは、尖り帽子のツバを取り、尖りを引き伸ばして手で握れるくらいまで小さくした物が。それは、尖りより広がった穴の空いたてっぺん部分にアイスクリームを乗っけて食べ、それ自体もほんのり甘くパリパリ食べれる優れ物。


 だが…、しかし……


 もう、そこには……。本来在るべきはずの、物が、その姿を消している。


 ……俺は、地面を見る。ぽかぽか陽気に当てられ、その形を崩れさせているが、間違いなく尖りより広がった部分に収まっていたはずの、俺のアイスクリームが……そこにいた。


 俺は、空を仰ぎ見る。


 俺は……、漸く気づいたのだ。


 何故周りの人達が俺に向け、指をさしていたのか。彼等は、俺に気づかせようとしてくれようとしていたのだ。早くしないとアイスクリームが溶けるぞ、と。『違いますよ、違いますからね!』。


 だと言うのに、俺は気が付きもせずに腕を組んで、アイスクリームに止めをさしてしまった。『無視しないでください!』。


 ゴメンよ、周りの人達。


 ゴメンよ、アイスクリーム。


 そして、結局名前を思い出せなかった、ほんのり甘い尖り。


 ゴメンよ、本当にゴメンよ。『あの~、私への謝罪は…』あるわけなかろう、身の程を弁えろ。『ぐすっ…、もういいです。……私、たまにしか囁けないのに…』。


 まったく、図々しい囁きだ。頭可笑しい上に謝れとか救いようがない。その時、滴が俺の頬をツゥーッ、とつたう。涙ではない、どんなに苦しくても辛くても泣いてはいけない。


 俺は二度空を仰ぎ見る。誓いを立てる為だ。


 もう、同じ失敗はしない。


 ありがとう、周りの人達。


 ありがとう、アイスクリーム。


 ありがとう、名も知らぬ尖り。


 俺は、先に進むよ。


 俺は再び歩み出す。




 それを祝福するかのように、眩い光が俺を包み込んだ。





 バニラの次はチョコミントにするか。



 

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