~序幕・前~
何のために生きてるのだろう。
ふと、そう思う事はないだろうか……。
朝早くに起きて、仕事に行き。
懸命に働いていても、小さなミス一つで上司に怒鳴られ。
疲れて仕事を終えて家に帰り、風呂に入って、飯を食べ、特に意味もなくつけたテレビを眺め、適当な時間になって寝る。
また、朝早くに起きて……。
そんな日々を淡々と繰り返しながら、歳を重ねていく。
そして、思うのだ。
自分は一体何のために生まれてきたのだろう。
自分は一体何がやりたかったのだろう。
そして……、自分は一体、何のために生きて「ストップ」……。
俺が人生をテーマに思考にふけってると、後ろから可愛らしい声でストップがツッコンできた。
「村正、俺がせっかく人生をテーマに思考してる時にストップをツッコムとは何事か」
そう言いながら首を回して後ろを向くと、銀色の髪をツインテールにして猫耳猫尻尾の付いた真っ白パジャマを着た幼女がいた。
「あのままだと間違いなく思考がループすると思う」
んなバカな、と思いさっきの思考を思い出す。ふむふむ、なるほど。確かにあれは思考がループする一歩手前、これは村正に感謝。あのままだと俺はRPGの村人Aの如く同じ台詞を繰り返す職に就かなければいけないとこだった。
「あと、化我生は人生を考えちゃダメと思う」
ひどい台詞である。
感謝した途端に浴びせられたためダメージがうなぎ登り、例えるならレベル1の勇者がレベル100の魔王をワンパンできる程。
「それは言い過ぎと思う」
俺もそう思う。
「しかしお前が俺にひどい台詞を言った事実は変わらない、即座に謝罪する事を要求する」
「化我生は朝早くに起きてるの?」
たまに起きてる。
「上司に怒鳴られてるの?」
怒鳴られてない。そもそも上司がいない。
「お仕事してるの?」
してない。
「謝らなきゃダメ?」
頭をコテンと傾けながら、銀髪幼女が聞いてくる。
なるほど、俺が悪かったようだ。俺はゴロンと寝転がる、銀髪幼女は俺の腹の上でグデッとうつ伏せ。
しかし暇だ。そもそも暇なのが事の原因であり元凶である。人生をテーマに思考ってたのも暇の奴がいきなり攻めてきたからである。
くそっ!、暇め。またしても俺の邪魔をするか!。いいだろう、貴様が邪魔をするというのなら、かつて俺に歯向かったストップのようにしてくれる!。
ふははははははははっ!。
「クークー……」
可愛らしい声が聞こえた。
腹を見る。そこにはクークー寝息を立てている銀髪幼女、もとい村正が寝てた。お昼寝ですね、わかります。ストップがいなくなったので暇がパワーアップして伝説のスーパー暇になるフラグがたってしまった。このままでは伝説の力に目覚めた暇にフルボッコにされてしまう。
しかしそうは問屋が卸さない。俺は後変身を三回残しているからだ。その内の一つが俺の横に置かれたゲーム機、プレイするん?、略してPS?。コントローラ片手にスイッチON。いざ、冒険の旅へっ!。
………………。
しかしPS?は動かない。何故だろう?、と思い見てみると、あらやだ、コンセントが抜けているじゃありませんか。俺はコンセントを凝視する。すると、『仕事したくないでござる』、囁かれた。どうやら内のコンセントはニートのようだ。俺の冒険は始まる前に終わってしまった。
散歩日和の晴れた外を眺めながら、コンセントに囁かれた自分の耳のスペックの出来映えにホロリと涙が頬をつたう。
「お散歩行く?」
そんな悲しみに耐えてると、銀髪幼女の声一つ。お前寝てなかったっけ?。
「寝たふり」
なるほどタヌキか。
「畜生じゃない、村正」
ムッ、とした感じで言い返された。機嫌を損ねられたので謝っておく。
「スマン、スマン。そんじゃ散歩に行きますかね」
俺はシュバッ!と立ち上がる。腹を見る、そこには先程までグデッていた銀髪幼女はもういない。
「それじゃあ、出発」
頭の上から可愛らしい声が聞こえた。機嫌が直った銀髪幼女、村正である。俺の肩に太ももを乗せて座っている、俗に言えば肩車。移動時の定位置である。先程まで着ていた、にゃーにゃー鳴く畜生の耳と尻尾を模した真っ白パジャマはフリルのついた黒ワンピに早変わり。さらに、白のポーチを肩にさげている。そのまま玄関に向かい靴を履いてドアを開け、目的のない旅路へ。いざ、行かん。
「化我生、鍵」
しっかり者の銀髪幼女のありがたい助言のお蔭で泥棒の仕事はG級クエストになってしまったようだ。
「職業に泥棒はないと思う」
しかし、盗賊ならある。ゲームの世界ってスゴいね、物取りが職業だなんてさ。それに勇者のパーティーにたまにいるよね、勇者は魔王の前に仲間を倒すべき。
「その勇者は民家に勝手に入ってタンスを物色した後、壺を割るという悪行を働く」
それでも捕まる事はなく、いけしゃあしゃあと旅を続ける勇者達。お城にヒッキーな魔王の方が良心的じゃね?、そんな事を言い合いながら、ガチャリとドアに鍵をかけ、ぽかぽか陽気の中での散歩が始まった。