届かないもの
……。
「小学一年生の時の勉強の話です」
「あ、そうでした。引き算がどうも苦手で、母音をのばすアレとマイナスの違いが分からなくて……」
そ、そこで悩む人っているのね。
「で、どう違うのかを教えてもらい……」
そ、そこかーい!教えてもらうって、そのことだったの!?
「私も絢可も人見知りで、友達が少なかったので、すぐ大親友になりました」
ここまで話すと、瀧河さんの顔がスッと暗くなった。
「そして二年前。私は絢可と学校近くの公園で待ち合わせをしていました。私は一度、公園の近くまで来たのですが、大切なものを家に忘れ、急いで取りに帰りました。その途中、信号で足踏みしながら待っていると、向こうの方から、赤い車が凄い速さで走ってきているのが見えました。スピード違反だな、なんて思いながら右の店に視線を移したら……。意識が途切れました。痛かった。それだけは覚えています」
瀧河さんが話を止める。
瀧河さんは怒りとも悲しみとも言いがたい、複雑な表情をしていた。
「気がつくと、その場所に立っていました。体がいつもより軽く感じたけれど、別に気にしていませんでした。さっきの痛みはなんだったんだろう、なんて考えていました。足元を見ると、先程は無かった花が供えられていました。でも、それも気にしませんでした。忘れ物のことを思い出して、家に急いで向かいました。一生懸命走って戻ってきた家は、私が家を出たときよりも、寂しく思えました。リビングに入っていくと、ソファーの近くに……」
「自分の仏壇が置かれていました」
「言葉もでませんでした。その時、カチャリと扉の開く音が聞こえました。母が帰ってきたのです。急いで私は玄関に向かいました。私だよ!そう言った声は母に届く前に儚く消えていって、母は私の体を通り過ぎていきました。ふと気づいたんです。自分が『鍵のかかっていたドアを通り抜けて、家に入った』ということを」




