村近家はすごかった。
やっとマリアの話が終わり、ホッとしていた私に、
「掲示、終わったのか?」
と、背後から田村先生の声。い、い、い、いつの間に!?
「終わりました」
と、こちらもいつの間にか普通の人格に戻っている村近さんが答える。それを聞いた先生は「なら、帰っていいぞ」と残して去っていった。
ふぅー。焦ったー!急にいるんだもん!影薄いのか?いやいや、あの田村先生に限ってそんな訳ないよねー?ということは、私が鈍感なだけなのか!ぐはっ!
「一緒に帰りませんか?」
ニコッと笑って村近さんが言う。
「あ、全然いいですよ」
「良かった!」
手を打って喜ぶ村近さん。大袈裟な気が……。
「村近さんは、家はどこなんですか?」
「遠いので、車です」
く、車!?じゃあ、一緒に帰るって、校門までってことですか!距離短っ!
「車ですか……。」
「はい。家まで送りましょうか?」
「いえいえ。自転車なんで」
「そうですか。リムジン、広いから一人だと寂しいんですよね」
この子、さりげなくお金持ち発言したぞ!自慢なのか!?いや、小柳さんならまだしも、村近さんに限って、そんなことをするわけないか……。って、会ってばっかりですけどね!
私達は、教室から校門へと歩き始めた。
「柏宮さん」
村近さんが急に話かけてきた。
「は、はい?」
「私が三重人格だということは……」
言わないでって、ことですね。
「両親も知っているんですよ」
予想外れたー!逆かもな、とは思ってたけど、それすらも裏切られた!そして、両親認めてるのか!この子、大丈夫かしら?みたいになっているんじゃないの、それ!
「両親はこのことを知ったとき、すごい!と思ったらしいです」
マジかっ!?すごいな、村近家!その発想がスゴイわ!
「両親はこんな変な私を、受け止めてくれました。本当に感謝しています」
おっ!いい話だ。真面目に聞こう。
「柏宮さんもです」
「私が?」
「気持ち悪がらないし、信じてくれたじゃないですか」
どの感情よりも、驚きが勝ってたからね。
「嬉しいです」
じーっと、嬉しそうに村近さんが私を見つめる。
「よ、良かったです。トホホ」
なかなか、真っ直ぐに褒められたりしたことがなかったので、どう反応したらいいか全く分からず!
気がついたら、校門まで来ていた。
あっ、校門前に映画とかでお金持ちがよく乗っている車がある。あれ、なんていうんだっけ?リムジンか。
……。え、マジで?え?ちょ?初のご対面なんですが?ま、マジだったのか!マジで止まってるんですけど!?人生で本物を見れる人は少ないだろうから、拝んでおこう。南無阿弥陀仏……アーメン。
「では、私はこれで」
そう言って、村近さんがリムジンに乗り込む。私は呆然としながら、手を振っていた。
ブーン。リムジンが走り去る。うん、やっぱり長いからなかなか視界から消えないなー。……。今日、私は死ぬかもしれない。色々ありすぎて死ぬかもしれない。
そう思ったので、用心しながら、私は自転車置き場へ向かった。
「か、鍵が無い!?」
言葉通り、自転車の鍵が見つからない。落としたな、こりゃ。頭をかく。どうしよう。そう思っていたら、背後からとても強い風が吹いた。振り返るが、特に変わった様子はない。前を向き直すと、自転車のサドルに鍵が置いてあった。え、と、最初からあった感じ?いや、いくらバカでも、それはない。てことは?
「しっかりしてよね」
少年の声がどこからか聞こえた。頭をブンブン振って辺りを見回してみたけど、誰もいなかった。
「なかったことにしとこうかしら。トホホホホ……。」
そのとき、私の顔はとても引きつっていたと思う。




