第8話「ファラゼロと村長」
場所は変わり、ブラウン家が占拠している村である。
ファルドに捕らえられた村人たちの姿は、外から消えていた。
一見、殺されたのかもと思うかもしれないが実は違った。
捕らえられた村人はみな、地下牢に入れられていたのだ…
~村の地下牢~
「おいっ!!ここから出せ!!」
「早くここから出せ!!」
「ブラウン家が出ていけ!!」
中に投獄された男性たちが、口々に叫ぶ。
これみんな…親父に捕まった人たちなのかと、ファラゼロは思った。
「ファラゼロ様…お気になさらずに」
ガクは、ファラゼロに声をかける。
「構わないよ…」
ファラゼロはそう言うと、大きな牢を見つめる。
正面にある大きな牢の中には、一人の老人がいた。
この老人こそ、ファルドが言っていた村の村長だった。
「村長さん…起きてください」
優しく声をかけるファラゼロ。
少し眠っていたのか、まだ眠たそうにファラゼロを見つめる村長。
「お前さんは誰じゃい」
ファラゼロを睨む村長。
「ファラゼロ・ブラウンと申します」
丁寧に挨拶をするファラゼロ。
ブラウンと聞いただけで、また男性たちが騒ぎ出す。
「村長に近付くな!!この極悪野郎!!」
「村長に何する気だ!!」
あまりにもうるさいため、ファラゼロが怒鳴ろうとしたら…
「止さぬか!!」
何と村長が怒鳴った。
村長が怒鳴ったことで、あんなに騒いでいた男たちは次々と黙る。
ファラゼロが驚いていると、村長が口を開く。
「若い者がすまぬの…」
村長がファラゼロに謝る。
「いえ…」
ファラゼロは苦笑いする。
あんなに自分を嫌っていた村長が自分を助けた…。
ファラゼロは、驚いていたのだ。
不思議に思ったファラゼロは、思いきって村長に尋ねてみた。
「あの…なぜ俺を?」
すると村長から、意外なこたえが返ってきた。
「お前は…あやつとは違うとわかったからだ」
“あやつ”とは…父のファルドのことだろう。
ファラゼロはそう思った。
「はあ…」
少し困惑するファラゼロをよそに、村長は続ける。
「あのときは…すまなかったのう」
「えっ…?」
「あのとき…わしが素直にお前さんの言うことを信じていれば…こんなことにならずにすんだのじゃ…」
落ち込んでいる村長。
ファラゼロは、また驚いてしまう。
「村長…頭をあげてください」
ファラゼロは、優しく声をかける。
村長は、素直に顔をあげた。
「後悔は…明日の成功です」
ファラゼロのこの言葉に、村長は少し微笑む。
「レイウェアの事じゃと…?」
「ええ…」
ファラゼロが牢の前に座り込み、村長への聞き込みが始まった。
「はて…何から話せばよいのやら……」
困り果てる村長を見兼ねてか、ファラゼロが口を開く。
「村長…俺は、シャンクス一族の住居区へ行こうと思っています」
ファラゼロは、真剣な眼差しで言った。
その瞬間に、村長が声をあげる。
「貴様!!あの一族に手をあげてみろ…!わしが貴様を殺しにいく!!」
「ま…待ってください!!落ち着いてください!!」
興奮状態にある村長を、ファラゼロは落ち着かせる。
ガクは、武器を構えている。
「ガク!!武器から手を離せ!!」
ファラゼロの言葉に、ガクは素直に応じる。
「俺があの一族のもとへ行こうとしているのは…説得するためです」
「説得……じゃと?」
「そうです。……ガク、地図を」
ファラゼロは、ガクを見て命令した。
ガクは軽くお辞儀すると、懐から地図を取り出した。
その地図を、ファラゼロに渡す。
ファラゼロは、ガクから渡された地図を…村長に見せる。
「これは…?」
不思議そうに地図を眺める村長。
「俺の従者であるガクが、独自に調査したものです…。いかがですか?」
ファラゼロに言われ、まじまじと地図を眺める村長。
しばらく眺めていた村長は、口を開いた。
「ふむ……かなり正確なものじゃ。確かに、この青い範囲内が…シャンクス一族の住居区じゃ」
「やはりそうでしたか」
「しかし…レイウェアは頑固じゃぞ?」
いきなり、村長の口調が変わった。
「えっ…」
驚くファラゼロ。
「レイウェアは…300年もの間、魔法を守り続けてきたのじゃ。誰からも力を借りずにじゃ」
「300年!?」
「左様…レイウェアが持つ魔法は、不老の力があるという。その力で、レイウェアは老化を感じないのじゃ」
「そんな魔法があるなんて…」
ファラゼロはふと考えた。
もしも…親父がこの魔法をレイウェアさんから強奪し、恐怖制裁するとなると………考えただけでゾッとする!!!
「レイウェアは、あやつの父親やまたその父親……つまり、祖先の代から追われ続けており、襲われるその度に、各地を逃げ回るしかなかった」
驚きのあまり、ファラゼロは言葉がでない。
村長は話を続ける。
「そして…旦那さんと知り合って結婚し、娘を授かり…お主の従者が調べた、あの範囲内に隠居しているのだ」
「………」
「わしらは誓った。村が襲われようが命がなくなろうが…何としてでもレイウェアを護ると」
村長の真剣な眼差しに、ファラゼロはいつしかあいずちを止めて聞き入っていた。
「わしがレイウェアと会ったのは…娘さんが生まれる前じゃよ。旦那さんや仲間たちと共に現れ、わしらと会話をした」
村長の言葉を聞いていた村の男の一人が、口を開く。
「で…レイウェアさんが、誰も住んでいない広い場所はありませんかと言ってきたから、俺たちはあの場所を提供したんだ」
ファラゼロは、男性の方を見る。
「そしてレイウェアさんは…結界をつくって、俺たちの侵入を防いでいる…ということか」
ファラゼロはそう言うと、顎に手を当てる。
「結界の範囲は決まっているから…真っ正面だと突っぱねられ、森からだと辿り着く…」
ファラゼロの言葉に、村長が反応した。
「少々違うな」
頭を振る村長。
「違う…とは?」
ファラゼロは、村長に尋ねた。
村長は、頷いてから口を開いた。
「あの結界は特殊で、ブラウン家の者を激しく拒絶する。しかし…わしらの様に、“善の心”を持つ者であれば、結界の力を受けずに入れるのじゃ」
その言葉を聞いたファラゼロは、ガクを見る。
「ガク、お前は確か結界の力を受けなかったんだよな?」
ファラゼロは、ガクに尋ねた。
「はい…全く受けませんでした」
ガクのこの言葉に、村長は喜ぶ。
「そうか…そうなのか…お主たちにも……“善の心”があるのか…なんという奇跡じゃ!!」
嬉しさのあまり、村長は涙を溢す。
「村長…」
ファラゼロは、村長を心配して近づく。
「大丈夫じゃ……。レイウェアも、もっと早くにお主らと会っていたら…」
「俺も…すごくそう思います」
「お主なら信用できる…ファラゼロ殿よ、どうかレイウェアたちを救ってやってくれないか?今のわしらでは無理じゃ…」
懇願する村長。
「もちろんです…。その為に、俺は反逆みたいな行動をしているのですから…」
地下牢を後にしたファラゼロは、自室がある小屋に戻って報告書を書いていた。
その様子を見ていたガクが、口を開いた。
「ファラゼロ様…レイウェアさんの話は教えないのですか?」
「あぁ…村長との約束だ。親父には嘘の報告をしておくよ」
そう言いながら、ペンをはしらせるファラゼロ。
ふと辺りを見渡していたガクが、あることに気がついた。
「そう言えば…カンナの姿がありませんが」
不思議そうにしているガクを見兼ねてか、ファラゼロが口を開く。
「カンナはお前の代わりに、シャンクス一族の住居区へ行っている。男性から呼び出しを受けたのでな」
ファラゼロはそう言うと、書き終えたのか数枚の書類をまとめ始めた。
「向こうから呼び出し…珍しいですね」
「あぁ…」
ファラゼロは、天井を見上げる。
「良い結果だと…俺は信じている」
ファラゼロがそう言ったとき、カンナが戻ってきた。
「ファラゼロ様!!只今戻りました!!」
敬礼するカンナ。
「ご苦労だったな…で、呼び出しの件はなんだ?」
ファラゼロが尋ねると、カンナは嬉しそうな表情になった。
「聞いてください!シャンクス一族首長の娘さんが、ファラゼロ様に会いたいそうです」
「俺に!?」
驚くファラゼロ。
「嬉しくないのですか?」
きょとんとするカンナ。
「いや…嬉しいのだが、何故なんだい?」
ファラゼロは、カンナに尋ねる。
「男性が言うには…首長の娘さんが、ファラゼロ様と会って、互いのことをもっと知った方がいい…と」
「なるほど…」
ファラゼロはそう言うと、椅子から立ち上がった。
「やっぱり行くべきだな…よし!住居区へ行こう!!」
ファラゼロのこの言葉に、カンナとガクは頷いた。
しかしこの時…誰も気づいていなかった。
このファラゼロとキラウェルの行動が後に、運命を大きく変えていくことに……。
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