第6話「ファラゼロの憂鬱(ゆううつ)」
翌朝、いつになく慌てて戻ってきたガクに、ファラゼロは驚いた。
「ファ…ファラゼロ様!!」
「ガク…どうした!」
倒れそうになったガクを、ファラゼロが支える。
騒ぎを聞き付け、カンナもやって来た。
「ガク!?どうしたのですか!?」
汗だくのガクの額を、カンナが懸命にタオルで拭く。
「親父にやられたのか!?」
「いいえ…違います…!」
ファラゼロの憶測を否定したガクは、口を開いた。
「男性は…シャンクス一族に保護されていました…」
「なに!?」
これには、ファラゼロも驚きを隠せない。
「本当なのです!!」
「バカな…!ガク、間違いないのか!?」
「俺は昨夜…その男性と会いました!!間違いありません!!」
必死なガクに、ファラゼロも彼は嘘をついていないと察する。
「わかった…そのときの事を詳しく話してくれ」
ファラゼロの言葉に、ガクは頷いて話始めた。
「俺は昨夜…結界があると思われる範囲を調べるため、森へ向かったのです。最初は結界を避けているつもりでしたが、実際は違ったんです!!……“導かれていた”んです!!」
「なに!?」
再び驚くファラゼロ。
「気が付いたら視界がひらけ…大きな住居区へ辿り着きました。困惑していたところに、村から逃げた男性が現れ…少し会話をしました」
「説得…出来たのか?」
ファラゼロが尋ねると、ガクは肩を落とす。
「それが出来ませんでした…。シャンクス一族の首長は、今の場所から離れる気はないとのことでした」
「見つかった上に離れない……ますますヤバい…!」
頭を抱えるファラゼロ。
「これでは…いつ親父たちに見つかるかわからない!!俺はもう…関係のない人たちが死んでいくのは見てられないんだ!!」
感情的になるファラゼロ。
「ファラゼロ様落ち着いてください…ファルド様の耳に入ってしまったら、もとも子もありません!!」
カンナがファラゼロを諭す。
「カンナ……」
少し落ち着くファラゼロ。
「離れないのではなく、“離れられない”のではありませんか?必ず理由があるはずです」
何気なく言ったカンナのこの発言に、ファラゼロは顎に手を当てる。
「ファラゼロ様…?」
ガクが不思議そうに尋ねる。
「そうだ…何事にも必ず理由はある…それを知る術もあるはずだ……!」
ファラゼロはそう言うと、ガクを見つめた。
「ガク、その場所へ案内してくれないか?」
「えっ…行かれるのですか!?」
ファラゼロの言葉に、ガクとカンナは驚きを隠せない。
「警戒されているのなら、ガクが親父の配下ではないことを信じてもらうしかない…お前が言っても、向こうは聞く耳がないだろ?」
どうやら、ファラゼロは本気のようだ。
「無理ですって!!男性と話しているとき、首長の娘も現れてしまい…これ以上の会話が出来なかったんですから!!」
「娘……?」
ガクの言葉に、ファラゼロが反応した。
「ガク、シャンクス一族の首長には…娘がいるのか?」
「ええ…キラウェルという名の女性ですよ」
ファラゼロは、ガクと男性の会話が途切れ、長く説得できなかったのには…キラウェルという名の女性が、一族の皆に知らせるのを恐れたからだと解釈した。
「兎に角俺は行く…ガク、地図を!」
ファラゼロはガクに命ずる。
「お持ちしました…」
命令通り、ガクは地図を持ってきた。
「ん?……この赤と青の範囲はなんだ?」
ファラゼロは、ガクに尋ねた。
「俺の予想ですが、赤はシャンクス一族がつくった結界の範囲で、青は住居区の予想範囲です」
丁寧にこたえるガク。
「なるほど………でも俺は……!…」
何かを言いかけて、口をつぐむファラゼロ。
その様子を察したガクは、素早く地図をしまった。
落ち葉を踏んでくる足音の先には、ファルドの姿があった。
「ファラゼロ…こんなところにいたのか」
威厳に満ちた声で言うファルド。
「親父…」
少し嫌そうな表情で言うファラゼロ。
「カンナ…ガク、お前たちもそんなところに居たのか」
ファルドは、カンナとガクにも声をかける。
カンナとガクは、ファルドにお辞儀する。
「何のようだよ…」
明らかに不機嫌なファラゼロ。
そんなファラゼロをよそに、ファルドは話を進める。
「襲撃した村の村長を捕らえた…今そいつは村にあった地下牢に閉じ込めておいた。レイウェアの事を聞き出しておけ」
ファルドはそれだけ言うと去っていく。
「待てよ親父…親父はどこに行くんだよ!?」
そんなファルドを呼び止めるファラゼロ。
「俺の親父…お前からしたら祖父に呼ばれて、一度本家へ戻らねばならない。俺が不在中は、一家の者たちを頼むな」
そう言って、再び歩き始めるファルド。
ファラゼロは、ファルドに言いたいことがたくさんあったが、物言わぬ背中に口すら開けなかった。
「何なんだよ…」
ファルドが去ったあと、髪をぐしゃぐしゃにするファラゼロ。
「大丈夫ですか…?」
そんな様子を見兼ねたカンナが、ファラゼロに声をかける。
「あぁ……何とかな」
そうこたえるファラゼロだが、顔が疲れきっている。
「ファラゼロ様…少しお休みになってください。無理は体に毒です」
ガクも主人を見兼ねてか、優しく声をかける。
「カンナ…ガク、ありがとう…」
そんな二人の優しさに、ファラゼロは微笑む。
カンナとガクは、そんなファラゼロを見て嬉しそうだ。
「言葉に甘えて…今日は休むよ。カンナとガクも休めよ」
ファラゼロはそう言うと、三人が使っている小屋に入っていった。
カンナとガクは、同時に溜め息をついた。
このままでは…ファラゼロは気疲れして倒れてしまう…そう思ったからだ。
いつの間にか辺りは暗くなり、川のせせらぎしか聞こえない。
「カンナ…休もうか」
「ええ…」
カンナとガクも、ファラゼロが向かった小屋の中に姿を消した。
人の気配が消えた川では、川の水面に月がうつって光輝いていた…。
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