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第5話「キラウェルが抱いた疑惑」

ブラウン家が動いたという報せもないまま、一週間が過ぎた。

あれだけ不安がっていた民たちは、まるで嘘のように何事もなく過ごしていた。


しかし、ある人物だけは不安を取り除けなかった。

その人物とは………


「おかしい…何かがおかしい」


キラウェルだ。


「何でみんな…笑顔でいられるの?外部との情報を経由してくれていた、村が襲われたっていうのに!!」


どうやらキラウェルは、自分のことしか考えていない民たちに憤慨しているようだ。


そばに居たリアが口を開く。


「お気持ちはわかりますが…キラウェル様…その……」


何故か口ごもるリア。


「リアさん…?」


不思議そうにするキラウェル。


(すそ)(めく)れてますよ」


顔を赤くし、キラウェルの服の裾を指すリア。


「!!!!」


キラウェルが自分の服を見ると、確かに裾が捲れて太ももが(あらわ)になっている。


「…………」


無言で服の乱れを整えるキラウェル。


「大丈夫です」


リアは微笑む。





キラウェルとリアは、シャンクス一族の本家へ戻ってきた。

どうやら二人は、買い物へ行っていたようだ。


「母さんただいまー」


「お帰りなさいー」


レイウェアが二人を出迎える。


「はいっ!頼まれてたもの買ってきたよ」


キラウェルが母に紙袋を渡す。


中には、野菜や果物などがたくさんあった。


「ありがとうー」


嬉しそうに、レイウェアは紙袋を受け取る。


「おつり!!」


キラウェルは、握っていたおつりを母に渡そうと手を伸ばす。


「そこに置いといて」


レイウェアは、テーブルに視線をうつす。


「わかったー」


キラウェルはそう言うと、おつりをテーブルの上に置く。


チャリン…と音がして、キラウェルの手から小銭がはなれた。


「市場までは…誰にも会わなかった?」


片付けをしながら、レイウェアがキラウェルに尋ねる。


「うん、誰にも会わなかったよ」


「そう…ならよかった」


安心した様子のレイウェア。


「レイウェア様…ちゃんと護衛がついておりますから」


リアが微笑んで言った。


「そうだったわね…リア、お疲れさま。部屋へ戻って良いわよ」


レイウェアの言葉に、リアは無言で頷いて立ち去る。

リビングには、レイウェアとキラウェルが二人きり…


キラウェルは、今しかない…と思ったのか、軽く深呼吸をする。

そして話しかけようとしたとき、先にレイウェアから口を開いた。


「キラウェル…何か訊きたそうね?」


「えっ…」


思わず驚いてしまったキラウェル。


「だって…顔にそうかいてあるわよ?」


クスクスと笑うレイウェア。


「…………」


観念しましたと言わんばかりのキラウェル。

そして、意を決して口を開いた。





「母さん…ブラウン家に何されたの?」


あまりにも直球な質問に、片付けをしていたレイウェアの手が止まる。


「何…って?」


動揺しているのか、レイウェアの声が少し震えている。


「父さんにすがり付いていた姿見たの…初めてだったし。それに慰霊碑の前で話したときだって…ブラウン家の名前を言った母さんの手が震えていたし…あのあと聞いても…何もこたえてくれないから!!」


「キラウェル…」


動揺を隠しきれないレイウェア。


「お願い……教えて」


真剣な眼差しを、キラウェルはレイウェアに向ける。


だが、レイウェアは頭を振った。


「どうして…!?」


堪らず声を上げるキラウェル。


「“知らない方がいい”こともあるのよ」


誤魔化すためか、再び片付けを始めるレイウェア。


「それはこたえになってない…」


キラウェルの声が震える。


「お願いキラウェル…わかっ…」


「母さんは逃げてるだけだよ!!」


キラウェルは、レイウェアの話を(さえぎ)る。


「何でいつも一人で抱え込むの!?何で父さんには話せるの!?」


感情的になるキラウェル。


「それは……」


何かを言いかけて、すぐやめるレイウェア。


そんなレイウェアの態度に(ごう)を煮やしたキラウェルは、遂に声をあげた。


「私だって家族だよ!?家族は…支え合って生きていく大切な宝物じゃないの!?」


「………!!」


キラウェルの一言に、レイウェアはハッとする。


キラウェルの目には、涙が溢れていた。






「キラウェル…」


泣きそうになっているキラウェルを、レイウェアは優しく抱き締める。


「私じゃ……頼りない……?」


声を震わせながら言うキラウェル。


「そんなことないよ…絶対にないから…」


優しく、キラウェルの頭を撫でながら言うレイウェア。


「私だって…力になりたい……母さんの力になりたいんだよ……!」


耐えきれなくなったのか、泣きながら言うキラウェル。


「ありがとう……キラウェル…」


そう言うレイウェアの目にも、涙が溢れていた。

レイウェアは、より強く娘を抱き締める。


母の温もりを感じてか、キラウェルは声をあげて泣き出した。


キラウェルが泣き止むまで、レイウェアはずっと…キラウェルの頭を撫でていた。



~その日の夜~


寝室で(くつろ)いでいたレイウェアは、ロイに昼間あった出来事を話した。


「あいつが…そんなことを?」


ロイが驚く。


「うん……感動しちゃった」


そう言うレイウェアの表情は、いつになく穏やかだ。


「で…話したのか?」


ロイが尋ねると、レイウェアは頷いた。


「話したよ…全部…」


レイウェアはそう言うと、昼間を思い出す。



=回想=


『えっ…それじゃあ…!!』


『うん…あいつらは、私を生け捕りにして、魔法を操ろうとしているの』


レイウェアはそう言うと、紙とペンを使って説明を始めた。


『ブラウン家は…不老の力があるこの“フェニックスの魔法”を我が物にし…恐怖制裁する気なのよ…しかし欠点がある』


『欠点…?』


キラウェルは、レイウェアに尋ねる。


『まず“フェニックスの魔法”を持つなら、基本系の魔法でないといけない…暗黙の了解があるの…。希少系と超希少系の組み合わせは…最悪ね』


紙に絵や文字を書きながら、的確に説明するレイウェア。


『それは…ブラウン家の場合でしょ?基本系の魔法も持たない人はどうなるの…?』


『良い質問ね』


レイウェアは、そう言って笑った。


『魔法を持たない人が超希少系を持つ場合…それなりの体力が必要よ。魔法を発動すればするほど、体力の消耗も激しいわ』


『魔力=体力…ってことか』


頷くキラウェル。


『簡単に言うとそうね…。あと、気をつけてほしいことがある』


レイウェアはそう言うと、ペンと紙を片付けた。

そして…再び口を開いた。


『いくら不老の力があるとはいえ、人間には代わりないからね…魔法の頼りすぎは…厳禁』


『まさか…身体が…壊れる…とか言わないよね?』


恐る恐る尋ねるキラウェル。


『“善の心”を持たないと…そのまさかの結果になるわよ』


レイウェアの一言に、キラウェルは青ざめてしまった。





~現在~


「あの子には…一通りの事を話しておいたわ」


思い返すレイウェア。


「そうか…」


ロイは微笑んだ。


そして二人は、静かに眠りについた。



その頃キラウェルは、寝付けなくて外へ出ていた。


「何だか眠れないな~………ん?」


キラウェルは、男性二人の話し声を耳にする。


―急いでください……が…来る…前に…―


―そんなことを…言われましても……様は…―


遠くから聞いているため、あまりよく聞こえない。

キラウェルは、声がする方向へと足を進める。


ある程度進んだところで、声がはっきりしてきた。


「急がなければ…貴方はまた……!」


「俺だって、出来るもんならそうしてたよ…!」



キラウェルは、言い争う男たちを発見する。

一人は、保護した男性だが…もう一人は誰だ?


更に近付いたとき、キラウェルはもう一人の男の服装で、ブラウン家の従者だと感ずいた。


「そこで何をしている!!!」


怒りを露にするキラウェル。


男性二人は、一斉にキラウェルを見る。


「貴方は…?」


「キ…キラウェル様…」


保護した男性が慌てて戻ってくる。

忍のような男性は、キラウェルに驚いたのか何処(いずこ)へ去ってしまった。


「何を話していたの?」


キラウェルが男性に尋ねる。


「な…何も…」


男性は慌ただしく走り去る。


「待って!!」


キラウェルは呼び止めようとしたが、男性はそのまま行ってしまった。


一人外に残されたキラウェルは、忍のような男性がいた方角を見つめている。


「あの服……ブラウン家の者…だよね…」


保護した男性と何を話していたのか気になるが、それよりも…保護した男性がブラウン家と繋がっているのではと疑うキラウェル。


「嫌な予感しかしない……」


今のキラウェルを…疑いや疑惑の念が支配していた。



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