第3話「傷だらけの他所(よそ)の者」
眩しい朝陽が昇り、シャンクス一族の住居区を照らしていく。
太陽が昇っていくと同時に、影が伸びていく。
一足先に起きて外に出ていたキラウェルは、慌てた様子の門番と出くわした。
「キラウェル様ーーー!!!」
右手を振りながら、駆け寄ってくる門番。
「何があったの!?」
キラウェルが声をかけると、門番はその場に倒れこんだ。
休まず走ったからだろうか、激しく肩が上下している。
「落ち着いてからで良いから…話してね」
キラウェルがそう言うと、大きく頷く門番。
深呼吸をすると、口を開いた。
「早く…レイウェア様に…この事をお伝えください!!」
焦っているのか、肝心な部分を抜いてしまっている門番。
「だから…何を??」
呆れ気味にキラウェルが言う。
我にかえった門番は、再び口を開いた。
「我が一族の周辺に住んでいた男性が…我々を頼り、ここまで来たのです!!しかも…襲撃されたのか傷も酷く…」
「何ですって!?」
キラウェルが声を上げる。
「早く…早くレイウェア様に!!」
「わかったわ!!貴方はその人を医務室へ!!」
「了解しました!!」
門番は再び住居区の入り口へと向かい、キラウェルは母のもとへと急いだ。
キラウェルの報せに、レイウェアは急いで医務室へと向かい、傷だらけの男性と対面する。
傍には、もちろんキラウェルとロイも居る。
「う……くっ……」
苦しそうに男性が呻く。
「私がわかりますか…?」
レイウェアは、優しく男性に声をかけた。
レイウェアの声を聞いた途端に、男性は物凄い勢いで飛び起き、そしてレイウェアの両手を握りしめた。
「レイウェア様……助けて……下さい……!」
泣きながら言う男性。
「何があったの…?話して…?」
レイウェアがそう言うと、男性は頷いて話始めた。
「本当に…突然でした……物凄い轟音が響いたと思ったら……家屋が次々と……燃えだしたのです…」
男性の話を、レイウェアは頷いて聞いている。
「俺は……村長から、この事をシャンクス一族に報せるように言われ…ここまで来たのです……」
「ひどい…!」
キラウェルが、堪らず握り拳をつくる。
「襲撃した犯人は…?」
レイウェアが男性に尋ねると、何故か男性の顔色が青ざめた。
「どうしたの…?」
キラウェルが言うが、男性は口を開こうとしない。
だがレイウェアだけは、男性の仕草で全てを理解した。
「言わなくてもわかります……犯人は……ブラウン家ですね?」
レイウェアがそう言うと、男性は一気に恐怖の表情へと変わる。
「あいつら…“シャンクス一族の居場所を言え!!”と…言わないと反論したら……“女や子ども関係なく虐殺するぞ”…と、ほぼ脅迫でした…」
「あいつらがしそうなことね…」
「まさか…ここを教えてはいないだろうな?」
ロイがそう言うと、男性は頭を振った。
「教えるわけないじゃないですか!!貴女方を護るため…我が村も一切口を割りませんでした…」
男性は一度話を区切ると、今度はレイウェアにしがみついた。
「レイウェア様…奴等は本気です!!……本気で潰しに来ます……だから…早く…逃げてください!!」
その後、男性は意識を失ったために、レイウェアは医者に後のことを任せ、医務室から出てきた。
「あいつら…!!」
レイウェアは怒りの余り、優しい口調ではなくなっている。
「許さん……決して……!!」
怒りの表情で言うレイウェアの脳裏に、300年前の光景が蘇った。
ー燃える家屋…人々の悲鳴と怒号……ブラウン家のものたちの笑い声……そして…父との別れ…ー
悔しさ…怒り…憎しみ…悲しみ…色々な感情が今のレイウェアを支配する。
そして…あまりにも感情が高ぶったのか、止めどなく涙が溢れる。
「レイウェア…」
そんな彼女を、後ろから抱き締めるロイ。
ロイの声を聞いたレイウェアは、遂に泣き崩れた。
「ロイ……私は……私は……!!」
泣きながら言うレイウェア。
ロイはレイウェアを正面に向かせると、再び抱き締めた。
「いいよレイウェア…何も言うな。お前が言いたいことは…俺が一番わかっている」
レイウェアの頭を撫でながら、ロイは優しく言った。
堪らなくなったのか、レイウェアはロイの胸に顔を埋めた。
その様子を、黙って見つめるキラウェル。
あんな母親を見たのは初めてだ…と、いうような顔をして。
この日を境に、キラウェルにはある覚悟がうまれた。
「なにがなんでも…母さんたちは私が護る!!」
それは…自分に言い聞かせているかのようだった…。
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