第1話「不死鳥の一族」
エイジ550年。
~シャンクス一族・住居~
森林に囲まれた丘に、大きく拓けた場所があった。
そこに、シャンクス一族は住んでいる。
この一族は、ある生物を神として崇めていた。
その生物とは……
『レイウェア』
そう…不死鳥[フェニックス]である。
「不死鳥…何?」
レイウェアは、少しだけ不機嫌そうに言う。
『何かを思い出していた様子だったが…』
レイウェアの肩に下り立ち、羽根を休める不死鳥。
「…お前には、関係の無いことだ」
レイウェアは、そう言って歩き始める。
レイウェアは、不死鳥と共に住居へ戻ってきた。
その時、一族の民達が彼女に駆け寄る。
「「レイウェア様!!」」
「「首長様!!」」
レイウェアは、民達を見渡して微笑むと…
「皆さん…今日も平和です。これからも、我一族の民として…よろしくお願いします」
と言った。
レイウェアのこの言葉に、民達は一斉に歓喜の声を上げる。
そんな民達を見たレイウェアは、よりいっそう微笑む。
この民達には、レイウェアの右肩に居る不死鳥は視えない。
「レイウェア…そんな所に居たのか」
そんな彼女に、声をかけた人物がいた。
「あなた…」
レイウェアの夫・ロイであった。
魔法のある力により、老化を感じないレイウェア。
そのため、全く歳をとらない。
外部の人間からは、“化け物”呼ばわりされるほどだ。
だがロイは、そんな彼女を一人の人間として接した。
「バクが、先ほどからキラウェルを捜し回っているぞ。心当たりないか?」
ロイは、少しだけ呆れながら言った。
「あの子…またなの?」
レイウェアも、呆れながら言う。
「あぁ…リアも一緒になって捜している」
「わかったわ…。あの子は“あの場所”に居るはず…私が行くわ」
レイウェアはそう言うと、高台にある丘を見つめる。
「そうか…頼んだぞ」
ロイはそう言うと、自宅へと戻っていく。
レイウェアも、キラウェルを捜して丘を目指した。
~見晴らしの丘~
またまたうるさいバクさんから逃げて、今日も辺りを見渡せるこの丘に、キラウェルは今居る。
彼女の名前は、キラウェル・J・シャンクス。
シャンクス一族首長の娘。
つまり…一族の次期首長というわけだ。
いずれは、一族を継ぐ身だということはわかってはいるようだが…彼女は教育係のバクさんが苦手だ。
何故なら、かなりの熱血だからだ。
今もこの丘に逃げてきた理由も、バクさんから逃げるため。
暑苦しい…ただそれだけのこと。
回想に耽っていると、聞き覚えのある足音が聴こえてくる。
まずい…母さんだ!と言わんばかりに慌てるキラウェル。
身なりを急いで整え、母が来る方向を見る。
すると、姿を現した女性。この人が…キラウェルの母親。
「キラウェル…やっぱりここだった」
呆れ顔で言うレイウェア。
「か…母さん、何か用??」
「何かではないの、屋敷に戻るわよ」
「……勉強?」
嫌そうな顔でキラウェルがそう言うと、レイウェアの表情が変わった。
「何なの?その嫌そうな顔は!!」
声を荒げるレイウェア。
「だって…嫌なんだもん!!一族の歴史は兎も角、母さんの魔法の勉強は嫌だ!!」
どうやらキラウェルは、レイウェアがもつ魔法を継承するのを嫌っているようだ。
「キラウェル…お願いだから、わがままを言わないで」
これにはさすがのレイウェアも、困った表情を見せる。
「絶っっ対に嫌だからね!!」
キラウェルはそう叫ぶと、走り去ってしまう。
「キラウェル!!」
レイウェアは娘の名前を呼ぶが、キラウェルは振り返らなかった。
キラウェルが走り去ったあと、再び不死鳥がレイウェアに話し掛けてきた。
『……俺も、随分と嫌われているようだな』
「不死鳥…ごめんなさい。あの子はただ、混乱や動揺をしているだけなのよ」
申し訳ないと、レイウェアは続けた。
『何故…レイウェアが謝る?レイウェアは何も悪くないではないか』
不死鳥は、優しい口調でレイウェアを励ます。
「不死鳥…」
レイウェアは、不死鳥に微笑んだ。
見晴らしの丘から走り続けていたキラウェルは、いつの間にか住居区へ戻ってきていた。
このまま走り去ろうとしたが……
「捕まえた!!」
バクさんに捕まってしまった。
「わーーーーー!!」
キラウェルが暴れる。
「さぁキラウェル様、勉学の時間ですよ~」
バクさんが微笑みながら言うときは、一番怖いときだと知っているキラウェルは、暴れるのをやめた。
そしてそのまま、自宅の中へと連れていかれた。
その頃見晴らしの丘では、レイウェアと不死鳥の会話が続いていた。
「不死鳥…あなたはよくこの丘に居ることが多いわよね?何故かしら?」
レイウェアのこの問いに不死鳥は…
『何故だろう…この丘に居ると、とても落ち着くのだ』
…と、こたえた。
それは…どこか懐かしさを思わせる。
前の主との、思い出の場所だったから。
レイウェアも、亡き父を思い出す。
「父上が生きていたら…この場所、気に入っただろうな」
そう言って、空を見上げるレイウェア。
『そうだろうな…きっと』
不死鳥もまた、空を見上げる。
いつの間にか空は、オレンジ色に染まっている。
レイウェアは我にかえった。
「屋敷に戻らないと…」
踵をかえして歩き始めるレイウェアに、不死鳥が声をかける。
『俺はここにいるぞ』
不死鳥のこの言葉に、レイウェアは思わず振り返る。
「屋敷には戻らないの?」
レイウェアは不思議そうに問う。
『…お前の娘とは、今は会いたくないからな』
なるほど…と、レイウェアは思った。
確かに、あそこまで毛嫌いされてしまってはもとも子もない。
「わかったわ。でも…戻りたくなったら、いつでも来なさい」
レイウェアはそう言うと、自分の背中を指す。
『あぁ…わかっている』
不死鳥のこの言葉を聞いたレイウェアは微笑み、住居区へと戻っていった。
見晴らしの丘には、不死鳥のみとなった。
『ヴァンよ…お前の一人娘は、立派に逞しくなったぞ』
空を再び見上げ、不死鳥が言う。
不死鳥は更に続ける。
『お前の“あの時の選択”は…どうやら、間違ってはいなかったようだぞ』
~シャンクス一族・本家~
「疲れたー」
勉学の間から、ようやくキラウェルが出てきた。
ロイが口を開く。
「今日は随分と長かったな。お前が逃げ出したのが原因か?」
父親の言葉に、不機嫌になるキラウェル。
「父さんまで何よ!そんな言い方しなくても良いじゃない!!」
「むきになるな…」
父娘の会話を聞いていたレイウェアが、台所から顔を出す。
「キラウェル?あまりバクやリアを困らせないでよ?」
「母さんまで…」
さすがのキラウェルも、半分なげやりになっている。
そんな娘を見てからか…ロイが話題を変える。
「そういえばレイウェア、明日はお義父さんの月命日ではないか?」
カレンダーを見ているロイ。
19日に印がつけられている。
「そうだった…すっかり忘れてた…」
レイウェアは、カレンダーを確認している。
「19日が…おじいちゃんの月命日なの?」
キラウェルが、両親に問う。
「そうだよ」
そうこたえたのは…レイウェアだ。
「レイウェア…そろそろキラウェルも墓に連れていこう」
一族を継ぐ身だからと、ロイは続けた。
「それもそうね…わかったわ」
頷くレイウェア。
「何がなんだかわからないけど…おじいちゃんに会える!」
キラウェルは嬉しそうに言った。
「「……」」
キラウェルのこの言葉に、レイウェアとロイは黙る。
何故なら、首長の娘が一族の墓へ行くことには、ある重大な意味があるからだ。
勿論…その事はまだ本人には話していない。
「そうだね…キラウェル」
レイウェアは、微笑みながらそう言った。
「うん!」
キラウェルは、嬉しそうに頷いた。
~その日の夜~
キラウェルが自室で寝静まった頃、レイウェアはバルコニーに出ていた。
満点の星が輝いている。
「父上…」
レイウェアは、空を見上げながら呟く。
300年前のあの出来事以来、レイウェアは涙を封印した。
しかし時には、涙を流したくなる事がある。
「父上…また“奴ら”が襲ってきたらそのときは…キラウェルを護ってください…」
祈るように呟いたレイウェアの目には涙が…
溢れんばかりに流れる。
明日が父の月命日だからかそれとも…
この一部始終を、ロイは寝たふりをして聞いていたのは…言うまでもない。
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