表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/17

第14話「悲劇~前編~」

エイジ550年4月4日…



シャンクス一族の住居区では、引っ越しを始めていた。

レイウェアの指示で、森の中を目指す民たち。


「急いで!!奴らが襲ってくる前に、ここを離れるんです!!」


レイウェアも、必死になって民たちの誘導をしている。

しかし、あまりにも急だったためか、なかなか思うようには進まない。

次第に焦りを感じ始めるレイウェア。


「このままでは…最小限の犠牲では済まされない…!!」



焦るレイウェアを見てからか、ロイが口を開く。


「必要最低限の物だけ持っていけ!後からでも買えるものは手放せ!!」


ロイの指示で、必要なもの以外を全て袋から出す民たち。

すると、女の子と母親がやって来た。


「あの、この子のぬいぐるみ…もですか?」


母親は、不安そうに言った。


女の子も、大事そうにぬいぐるみを抱いている。


「その子にとって必要なものであれば、構いません」


ロイは、優しくそう言った。


女の子は嬉しそうな顔をし、母親もお礼を言いながら森へ進む。


「急げ!!急ぐんだ!!」


ロイは、再び誘導を始めた。




その頃キラウェルは、見晴らしの丘でブラウン家が来ていないか見張っていた。



一番高い木に登り、辺りを見渡す。

今のところ、ブラウン家は来ていない。


「母さんが言うには…赤い旗がブラウン家だっていうよね」


見落としをしないよう、よく辺りを見渡す。

すると…


「ん…?」


キラウェルは、誰かが手を振っているような気がして、持ってきていた双眼鏡で、その場所を覗く。


「えっ…カンナさん!?」


双眼鏡を覗いていたキラウェルは、驚きの声をあげる。


何と、カンナがキラウェルを見つけて手を振っていたのだった。

キラウェルと同じように、カンナは木に登っていたようで、それで気づいたようだ。


「何だろう…?」


不思議に思ったキラウェルは、すぐに木から降りた。







見晴らしの丘から離れたキラウェルは、カンナがいる木を目指して走り出す。

しかし、すぐに走るのをやめてしまう。

なぜなら…カンナが既にやって来ていたからだ。


「キラウェルさん!!」


手を振りながら、走ってくるカンナ。


「カンナさん…どうしたんですか!?」


キラウェルが近づくと、カンナは彼女の両肩を掴んだ。


「キラウェルさん…今すぐ森への移動をやめさせてください!!」


カンナの突然の言葉に、キラウェルは戸惑いを隠せない。


「な…何故ですか!?」


「森は危険です!!森には…ファルド様の…」


カンナが何か言いかけた時、何やら爆発音が聞こえた。


「なに!?」


キラウェルは、爆発音がした方を向く。

遠くの森で、黒煙が立ち上っている。


「ファルド様の部下たちの、襲撃が始まったみたいですね…」


黒煙を見つめるカンナ。


「あの方角には…母さんたちがいるのに!!」


歯を食い縛るキラウェル。


「とにかく、急いでください!!今なら間に合います!!」


「わかりました!」


カンナに諭され、キラウェルは走り出す。

走り出すうちに、キラウェルの目に涙が込み上げてくる。


「母さん…父さん…みんな…!無事でいて!!」


キラウェルは、そう言わざるをえなかった。



キラウェルを見送ったカンナは、再び森を見つめる。


「あとは…例の“あの場所”へ行かないと…」


カンナはそう言うと、素早く立ち去った。








引っ越しを続けていたレイウェアたちは、突然の爆発音に驚いていた。

民たちは大パニックを起こし、辺りは騒然となる。


「レイウェア!みんなの無事は確認できたか!?」


「無理よ!!このパニック状態じゃ、確認すらできない!!」


レイウェアの言葉に、歯を食い縛るロイ。


「ちくしょう…!」


ロイは悔しそうに言うと、辺りを見渡しながら口を開く。


「みんな落ち着け!!入口近くの森へ移動するんだ!!」


ロイの声が届いたのか、民たちは一斉に入口を目指して走り出す。


しかし、次の瞬間ー


「きゃああああ!!」


「うわああああ!!」


民たちの悲鳴が、次々と聞こえてきた。


ロイの目の前で、民たちが爆風に吹き飛ばされたのだ。


「こ…これは一体!?」


ロイは驚く。


よく見ると住居区にも火の手が回り、消火活動をしている者たちもいる。

しかしあまりにも火のペースが早いため、なかなか鎮火できない。


「消火活動はいいですから…早く逃げてー!」


そう言いながら、レイウェアは走る。


しかし、そんなレイウェアの顔が青ざめ、走るのをやめた。

心なしか、怯えているようにも見える。

よく見ると、レイウェアはある一点を見据えて視線を離さない。

視線の先にいたのは…ファルドだった。


「レイウェア…やっと見つけたぞ…」


ファルドは、レイウェアを睨みながら言った。


「ファ……ファルド!!」


怯えるレイウェア。


「何故そんなに怯える?…感動の再会だというのに…」


ファルドはそう言いながら、レイウェアに近づく。


「……!!」


レイウェアは無言の叫びをあげて、後ずさりする。


「さあレイウェア!!大人しくフェニックスの魔法をよこせ!!」


「嫌よ!!誰が…あんたなんかに渡すもんですか!!」


レイウェアのこの言葉を聞いたファルドは、深いため息をついた。


「そうか…ならば仕方がないな…」


ファルドはそう言うと、指を鳴らした。


すると…次々と家屋が火にのまれていく。

辺りは、一瞬にして火の海と化した。


「あっ…!」


辺りを見渡すレイウェア。


「あーはっはっはっはっ!!お前が駄々をこねるから、部下のグラディスが待ちきれなかったようだな!!」


火の海と化した住居区を見て、笑い続けるファルド。


「全てはお前のせいだ…レイウェア!お前がブラウン家から逃げ続け、しかも駄々をこねたからこうなったのだ…全てはお前のせいだ!!」


「ファルド……貴様……!」


怒りに震えるレイウェアの両腕が、青い炎に包まれる。


「許さん!!」


レイウェアはそう言うと、両腕の炎をファルドに向けて放った。


「無力だ……出でよ!!我が(しもべ)…ナイトよ!!」


ファルドがそう言うと、地面から甲冑に身を(まと)った騎士が現れた。


騎士は、持っていた槍を一振りする。

ものすごい風と共に、レイウェアが放った青い炎が消えてしまう。








その頃ファラゼロは、牢屋に投獄されていた。

ファルドを足止めしようとしたが敵わず、頭を冷やせと怒鳴られ、問答無用で入れられてしまったからだ。


「あのくそ親父……頭を冷やすべきなのは…どっちだよ!!」


両腕と両足首を、(じょう)で繋がれたファラゼロ。


しかもこの牢屋は、村長がいる牢屋だった。


「ファラゼロや…お前…何故じゃ?」


村長が、ファラゼロに尋ねる。


「キラウェルさんに…頼まれたんです。俺の親父を…足止めしてほしいと」


ファラゼロはそう言うと、上を見上げる。


「なんと…!」


驚く村長。


そんなファラゼロを見てからか、一人の男が口を開いた。


「ファラゼロ!!お前の錠の鍵だ!!」


男性はそう言うと、一つの鍵を思いっきり投げた。


鍵は運よくファラゼロのいる牢屋に入ったのだが…。


「いてぇ!!」


なんと…ファラゼロの頭に当たった。


「何するんですか!!痛いじゃないですか!!」


痛そうに叫ぶファラゼロ。


「わ…わざとじゃないんだ!!」


慌てる男性。


ファラゼロは両腕を錠で繋がれているため鍵を拾えない。

見かねた村長が鍵を拾い、錠を外そうと鍵穴に差し込む。

しばらくして、ファラゼロの錠は外れた。


「よし…これで出られるぞ!」


立ち上がったファラゼロは、牢屋の(かせ)を外す。

その時、村長が声をかけた。


「よいかファラゼロよ…あやつを止められるのは、お前しかいないのじゃ。頼むぞ…レイウェアは無理でも、キラウェルだけでも…」


「大丈夫ですよ、村長…俺が必ず止めてみせます!」


ファラゼロはそう言うと、牢屋をあとにした。



外に出たファラゼロは、ガクを捜すために辺りを見渡す。

すると、待っていたのかガクが現れた。


「ファラゼロ様…大丈夫ですか?」


「ああ…村長たちのお陰で、牢から出られたよ」


ファラゼロのこの言葉を聞いたガクは、安堵(あんど)のため息を

ついた。


「ところでガク…誰かに鍵を渡したか?」


「ファラゼロ様の錠の鍵ですか?……確かに、一人の男性に渡してありましたが」


なるほど…と、ファラゼロは思った。


「ありがとうな…お前のお陰だ」


ファラゼロは、ガクにお礼を言った。


「よ…よしてください!照れるではありませんか…!」


恥ずかしそうにするガク。


「急ぐぞ……住居区へ行くぞ!!」


ファラゼロはそう言うと、ガクと共に思いっきり駆け出した。








その同時刻…キラウェルは住居区に近づいてきていた。


「あっ……火の海と化してる!!」


あまりの光景に、キラウェルは思わず立ち止まる。


自分が暮らしてきた場所は、全て火が包んでしまっている。

かなり近くにいるため、人々の悲鳴と怒号が聞こえてくる…


「急がなきゃ!!」


我にかえったキラウェルは、再び走り出した。


近づくにつれて、火の熱さが(じか)に伝わってくる。

飛んでくる火の粉を避けつつ、辺りを見渡すキラウェル。


「母さんー!父さんー!…みんなー!どこー!?」


叫びながら走るキラウェル。


しかし、誰も返事をしない。

さっきまで聞こえていた、悲鳴と怒号がしなくなっている。

不安になったキラウェルの目には、涙が溢れていた。


走っているうちに、広場と思われる場所についたキラウェル。

辺りを見渡していると、場所の中央に…誰かが倒れている。


「父さん!!」


キラウェルは駆け出した。


倒れていたのは、父親であるロイだった。

しかし、既に冷たくなっていた。


「そんな………父さん…父さん!!」


泣きながら叫ぶキラウェル。


よく見ると、ロイは鋭い何かで体を貫かれていた。

この傷が…致命傷のようだ。


「母さん…無事でいて!!」


父親の亡骸(なきがら)を一度抱き締めたキラウェルは、火の海と化した住居区を再び走り出した。


その時……


「キラウェル……様……」


体を引きずりなから、リアが現れた。


「リアさん!!」


キラウェルはリアに駆け寄り、彼女を抱き止める。


「地下の……継承の間へ……急い……で……」


リアはそう告げると、崩れるように倒れてしまった。


「うそ……そんな…リアさん?……リアさん!!」


キラウェルはリアの名を呼ぶが、彼女は動かなかった。


「何で……どうして!?」


訳がわからなくなり、キラウェルは大粒の涙を流す。


しかしキラウェルには、行かなければならない場所があった。


「地下にある…継承の間…」


思い当たる場所があるのか、自身の家に向かって駆け出した。



更なる悲劇が、キラウェルに牙を向けようとしていた……。







最終話へ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ