第13話「絆と前夜」
ファルドが、シャンクス一族の住居区を突き止めたと知ったガクは、主のファラゼロのもとへやって来ていた。
「何だと!?」
驚くファラゼロ。
「間違いありません!!ファルド様は…レイウェアさんたちの居場所を、突き止めてしまいました!!」
かなり走ってきたのか、肩が激しく上下に動いているガク。
「親父は…どんな手段で?」
考えるため、顎に手をあてるファラゼロ。
「そう言えば…ファルド様は受信機を持っていました」
ガクのこの言葉で、ファラゼロの思考がとまる。
「受信機……発信器を仕掛けたのか!!」
「間違いないと思います!!」
ガクの言葉で、唇を噛み締めるファラゼロ。
「ガク!!急いでレイウェアさんの所へ行け!!」
「はっ!!」
ガクはそう言うと、足早に立ち去る。
ガクが立ち去ったあと、乱暴に椅子を蹴っ飛ばすファラゼロ。
「くそ親父…じいちゃんに呼ばれたのは…このためか…!!」
頭を抱えるファラゼロ。
そんなファラゼロを、心配そうに見つめるカンナ。
「ファラゼロ様…」
恐る恐る、ファラゼロに近づくカンナ。
「カンナ…」
「私は、ファルド様の監視に…」
「あ、あぁ…頼む」
ファラゼロがそう言うと、カンナは立ち去った。
「ガク…頼むぞ!!」
ファラゼロは、祈るように言った。
「きゃあああああ!!」
朝から聞こえたレイウェアの悲鳴に、キラウェルは慌てて飛び起きた。
「母さん!?」
部屋から出たキラウェルは、母のもとへと駆け寄る。
見ると、レイウェアは上着を持ったままその場に座り込んでしまっている。
「どうしたの!?」
キラウェルがそう言うと、レイウェアは上着を差し出す。
上着を受け取ったキラウェルは、ある異変に気づく。
「これは…発信器!?」
上着から発信器を取り、キラウェルは踏み潰す。
「母さん落ち着いて!!この発信器はどうしたの!?」
キラウェルはレイウェアに尋ねるが、レイウェアは顔を隠して泣くばかりだ。
「まさか…昨日の市場が…」
キラウェルがそう言うと同時に、門番がやって来た。
「キラウェル様…ガクさんがいらっしゃいましたが…」
「ガクさんが?」
「えぇ…レイウェア様にお話があるようでしたし、何より慌てておりました」
「わかったわ…すぐに行く!貴方は…母さんをお願い!」
「承知しました」
門番にレイウェアを任せたキラウェルは、ガクの待つ森を目指して駆け出した。
ガクの姿を見つけたキラウェルは、手招きで彼を呼ぶ。
「キラウェルさん!!」
「ガクさん!!」
忍らしく、足音を立てずにやって来たガク。
「母さんが発信器に気付いて取り乱して…今はとても話せる状態じゃありません…!」
「遅かったか…!」
キラウェルの言葉に、悔しそうな表情のガク。
「その発信器は…どうしました?」
ガクは、キラウェルに尋ねた。
「踏み潰しました」
淡々としているキラウェル。
「そ…そうですか…」
少し安心するガク。
「ガクさん…私は、どうしたらいいでしょうか?もう…わからなくなってきました…」
「キラウェルさん…」
俯いたキラウェルを慰めるように、彼女の頭に手を置くガク。
「とにかく、まずはレイウェアさんを落ち着かせてください。この事態はファラゼロ様も知っています。ですから慌てず、状況の整理をお願いします」
「わかりました…」
キラウェルがそう言うと、ガクは微笑んだ。
「ガクさん…ブラウン家の足止めって出来ますか?」
キラウェルは、ガクに尋ねた。
「長い時間は無理ですが…何故です?」
ガクは、不思議そうにキラウェルに尋ねた。
「場所を…変えるためです。変えられるかは、母さん次第ですが…」
「わかりました…。こちらでも全力を尽くします」
「ありがとうございます!!」
嬉しそうに、キラウェルは言った。
「どこまで足止め出来るかはわかりませんが、早速やってみます。だから…キラウェルさんも」
「わかっています!!お願いします!!」
こうして、キラウェルとガクは別れた。
家に戻ったキラウェルは、門番が慌てた様子で駆けてきたことに驚く。
「どうしたの!?」
「キラウェル様…レイウェア様が…!!」
キラウェルは、門番に連れられてリビングへと向かう。
すると、泣いていたレイウェアが、今度は狂ったように笑っていたのである。
「かあ…さん…?」
驚きを隠せないキラウェル。
「あははは!!……あははははは!!…もう…もう私は終わったんだ…!」
泣きながら笑うレイウェア。
「いや…」
キラウェルの声が震える。
「いやあああああああ!!」
あらんかぎりの声で叫ぶキラウェル。
すると、キラウェルの体が突然光だした。
「!?」
驚くキラウェルをよそに、光から不死鳥が現れた。
『レイウェア…落ち着け』
厳しい声の不死鳥。
「……」
不死鳥の声に、反応するレイウェア。
『お前が取り乱してどうする』
不死鳥はそう言うと、羽ばたいてレイウェアの所へ行く。
『まだ終わりではない…可能性はある!!』
「不死鳥……?」
落ち着いたのか、不死鳥を見るレイウェア。
『そうだ…おれだ』
「不死鳥…!どこにいたのよ!?」
レイウェアは、激しく不死鳥に詰め寄る。
レイウェアとキラウェル以外、不死鳥が見えていないため、周りにいるロイたちは困惑している。
「ずっと……捜していたんだから!!」
泣きながら叫ぶレイウェア。
『……申し訳ない』
不死鳥はそう言うと、キラウェルの右肩にとまる。
その光景を見たレイウェアは、目を見開いた。
「母さん…不死鳥の言う通りだよ…取り乱さないで」
諭すように、キラウェルは言った。
「キラウェル…貴女いつから…」
「……この前から」
「そう…。では、姿も完全に見えるのね?」
「うん…」
キラウェルが頷くと、レイウェアは立ち上がった。
「わかった…。では、場所を移しましょう…明日にはここを離れます!!」
突然の宣言に、ロイたちは驚く。
「レイウェア…いくらなんでも急すぎるぞ!?」
驚くロイ。
「キラウェルが覚醒している以上、ここに長居できません!!しかも私の責任で、場所が突き止められてしまっているかもしれません!!」
レイウェアは続ける。
「だからこそ、明日にはここを引き払います!!各々(おのおの)引っ越しの準備をしてください!!」
レイウェアの指示で、民たちが一斉に動き出す。
慌ただしく動く民たちを見ていたレイウェアに、ロイが近づく。
「これで…よかったのか?」
ロイは、レイウェアに尋ねた。
ふと不死鳥が、レイウェアの右肩にとまる。
微笑んだレイウェアは、不死鳥の頭を撫でる。
不死鳥は安心しているのか、暴れようともしない。
その光景を見たキラウェルは、母と不死鳥の間にある、深い絆を垣間見たような気がした。
「いいんです…これで…」
しばらく沈黙したあと、レイウェアはそうこたえた。
その日の夜、ブラウン家の者達を集めたファルドは、襲撃に向けての会議を行っていた。
「みんなよいか!遂にシャンクス一族を見つけた!!」
ファルドの声が、静かな場所に響き渡る。
兵士たちは、黙ってファルドの言葉に耳を傾ける。
「我らブラウン家の…長い野望が叶おうとしている!!これは…奇跡だ!!」
そう言って、辺りを見渡すファルド。
そして、再び口を開いた。
「明日の早朝に…総攻撃を仕掛けろ!!ただし…レイウェアを見つけたら生け捕りにして俺の所へ連れてこい!!それ以外は全て凪ぎ払え!!」
ファルドの言葉に、兵士たちが一斉に敬意を込めた敬礼をする。
その場に居たファラゼロとカンナ、そしてガクは、渋々敬礼する。
「召喚の魔法の名に……不可能はない!!」
「「「「「「「「「「不可能はない!!!」」」」」」」」」」
兵士たちも、ファルドに続いて叫ぶ。
士気が高まった集合場から離れたガクは、小声でファラゼロとカンナを呼び出していた。
「ガク…どうした?」
不思議そうにするファラゼロ。
「キラウェルさんからの伝言で…ファルド様達を、足止めしてほしいとのことでした」
ファルドに聞こえないように、ファラゼロとカンナに耳打ちするガク。
「そういうことは…男がやった方がいいな」
腕組しながら、ファラゼロは言った。
「よし!!足止めは俺とガクがやるから…カンナは、今すぐに例の“あの場所”で待機していてくれ」
「承知しました」
カンナはそう言うと、どこかへと立ち去った。
「ガク…これは時間との勝負だ。覚悟は出来ているか?」
「何を言いますか…覚悟は出来ています」
「お前なら…そう言ってくれると思ったぜ」
ファラゼロは、そう言って笑った。
ガクも、誇らしげに微笑んだ。
遂に、あの運命の日を知らせる朝陽が…山の間から昇ってきた。
朝陽を合図に、ファルドたちは馬を走らせるのであった…。
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