第11話「二人の異変」
翌朝…目が覚めたキラウェルは、ファラゼロたちと話し合った広場に来ていた。
その後ろ姿は…悲しみに溢れていた。
「母さんが…不老……」
そう呟くキラウェル。
不老ということは、身体の老いが感じられないということ。
どんなに月日が流れようとも、魔法を継承した時点での年齢の体つきのままだということである。
「母さんが言ったんだから…間違いないよね」
また呟くキラウェル。
以前キラウェルは、バクとリアから不老について教わったことがあった。
超希少系魔法は、不老の力をあわせ持っていることも、彼女は教わったことで知った。
しかし、まさか自分の母親が…。
そう思っただけで、胸が張り裂けそうである。
「私は…母さんから…」
キラウェルは、そう言いかけて止める。
もしかしたら、キラウェルが当初勉学を嫌っていたのは…この事実を受け入れる自信が無かったからかもしれない。
キラウェルが物思いに耽っていたときだった。
ー俺を…信じろ…ー
「!?」
誰かの声が聴こえた気がして、キラウェルは辺りを見渡す。
ー俺は…お前を信じるぞ…ー
今度は、はっきりと聴こえた。
「誰なの!?……誰かいるの!?」
辺りを見渡しつつ、キラウェルは声をかける。
ーこっちだ…ー
声だけが辺りに響いており、キラウェルは場所の特定が出来ない。
「お願い…!こっちに来て!!」
声に向かって叫ぶキラウェル。
ーそれは出来ない…ー
「どうして!?」
「キラウェル様?」
キラウェルが叫ぶと同時に、誰かが声をかけた。
「リ…リアさん…!」
キラウェルに声をかけたのは…リアだった。
「どうなさったのですか…?大声を出したりして…」
「あの……えっと…」
キラウェルは困惑しているのか、リアに状況の説明が出来ないでいる。
「??……誰もいませんね…」
リアは不思議そうに、辺りを見渡している。
もしかしたらあの声は、私にしか聞こえないのか…?
それとも、本当に空耳なのか?
キラウェルの頭の中は、激しく混乱する。
「何か悩みがあるのでしたら、私に申し付けてくださいね」
「は…はい…」
今のキラウェルは、そう言うのが精一杯だ。
キラウェルの身を案じながら、リアはその場を立ち去る。
リアが来たからだろうか、あの声は聞こえなくなっていた。
「あの声は…一体誰の声だったんだろう?」
キラウェルは、空を見上げながら言った。
その頃、シャンクス一族の本家では、レイウェアが頭を抱えて廊下に座り込んでいた。
「どうしよう…どうしよう…どうしよう……!!!」
頭を抱えて、頭を振りまくるレイウェア。
異変は、突然やって来た。
今まで聞こえていた不死鳥の声が、聞こえづらくなってきたのだから。
「私は……どうなってしまうの!?」
不安がレイウェアの心を支配し、コントロール出来なくしようとする。
レイウェアは、自分を落ち着かせようと深呼吸を繰り返す。
…ある程度落ち着いたのか、レイウェアは冷静になっていく。
ふとレイウェアは、額縁に飾られた父の写真が目にとまった。
その瞬間、レイウェアの脳裏に父の言葉が蘇る。
『声が聞こえづらくなったらその時は…近いと思え』
「!!!」
父の言葉を思い出したレイウェアは、次は何かに怯えるように震えだした。
「いや…嫌よ……嫌ー!!」
叫ぶレイウェア。
レイウェアの叫びを聞いたロイが、部屋から飛び出す。
そして、怯えて震えるレイウェアのもとへ駆け寄る。
「レイウェア!!」
ロイの声を聞いたレイウェアは、ロイに泣きながらしがみつく。
「ロイ……ロイ……ロイ……!!」
何度も夫の名前を呼ぶレイウェア。
ロイはレイウェアの頭を優しく撫でる。
そして、強く抱き締めた。
「大丈夫だ…俺はここに居る。お前のそばに居る」
「ロイ…」
「だから…安心しろ」
このロイの言葉に、レイウェアはようやく落ち着いた。
その頃キラウェルは、見晴らしの丘へ来ていた。
空はオレンジ色に染まり、太陽が沈んでいる。
「そろそろ…家に戻らないと」
景色を眺めていたキラウェルだったが、我にかえって立ち上がった。
=血は争えないな…=
「!?」
再び聞こえた謎の声に、キラウェルは辺りを見渡している。
「誰!?どこに居るの!?」
キラウェルは、声の主を捜しまくる。
=ここだ…=
声は、意外に近かった。
赤とオレンジ色の鳥が、ずっとキラウェルを見据えていた。
「鳥……?」
目を見開くキラウェル。
『ただの鳥ではない…不死鳥だ』
不死鳥は、キラウェルの右肩にとまる。
「不死鳥が…なぜここに?」
不死鳥を見据えたまま、キラウェルは尋ねた。
『ここは…俺の特別な場所なのだ』
景色を見つめたまま、不死鳥は言った。
「特別な…場所?」
キラウェルが尋ねると、不死鳥は今度は近くの木の枝にとまる。
『ヴァンとの…思い出の場所になったかもしれない場所だ』
夕日を見つめる不死鳥。
「お祖父ちゃんとの…」
キラウェルも、不死鳥を真似して夕日を見つめる。
きれいな夕日が、徐々に沈んでいく。
夜が近付いてきたのか、空には一番星が輝いている。
「家に…戻らない?」
キラウェルは、不死鳥に尋ねた。
『……そうだな』
不死鳥はそう言うと、キラウェルの右肩にとまる。
キラウェルは、不死鳥と共に見晴らしの丘をあとにした。
見晴らしの丘から家へと戻ってきたキラウェルは、自室へ入ろうと廊下を歩く。
そんなキラウェルを、ロイが呼び止めた。
「キラウェル、ご飯を食べなさい」
「あ……」
どうやらキラウェルは、ロイに言われるまで、夕食が用意されているのに気が付かなかったようだ。
「では…いただきます」
椅子に座ったキラウェルは、並んだ夕食を食べ始めた。
その様子を、ロイは微笑んで見つめている。
状況からして、ロイは先に食べ終わっているようだ。
しばらく食べていたキラウェルだったが、あることに気がついて手を止めた。
「ねぇ…父さん、母さんはどうしたの?」
キラウェルの尋ねに、ロイは一瞬だけだが躊躇った。
「……気分が悪いからと、夕食を食べたら先に寝てしまった」
ロイは、そう言うだけで精一杯だった。
「具合でも悪いのかな…」
心配そうに、キラウェルは両親の寝室の扉を見つめる。
「キラウェルも、休んだらお風呂入って寝なさい」
「はーい」
夕食を食べ終わったキラウェルは、食器を片付け始めた。
ふと、右肩を見るキラウェル。
そんなキラウェルを不思議に思ったロイが、再び口を開いた。
「どうしたキラウェル…右肩ばかり見ていて」
今まさに、不死鳥と話をしようとしていたキラウェルは、驚きのあまり肩をはね上がらせる。
「え……う、ううん!何でもないから!」
そう言って、再び食器を洗い始める。
「??」
ロイはしばらくの間キラウェルを見ていたが、持っていた本に視線をもどした。
食器を洗い終えたキラウェルは、お風呂に入っていた。
不死鳥は、大人しく洗面所で待っている。
お湯に浸かったキラウェルは、ロイの発言から、彼には不死鳥が見えていないことに気づく。
「私だけにしか…見えないの…かな??」
お風呂場の天井を見上げる。
考えていたらのぼせそうだったので、キラウェルはお風呂から出て洗面所へと戻る。
不死鳥は、場の空気を読んでかどこかへと飛び去った。
髪を乾かし終わったキラウェルは、部屋着に着替えてリビングに戻ると、ロイに寝ることを告げて自室へと向かった。
「あれ…?」
ベッドを見たキラウェルは、不死鳥が既に寝ていることに気づく。
「何だ…部屋にいたんだ」
キラウェルはそう言うと、ベッドに腰かける。
「そういえば…どうやって入ったんだろ?」
自室の扉を見たキラウェルは、少しだけ空いていたことに気がついた。
思わずキラウェルは、クスッと笑う。
不死鳥を起こさないよう、静かに布団の中に入る。
そして、何分もしないうちに眠りについた。
運命の日まで…あと3日と迫っていることに、このとき誰も思っていなかった。
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