第10話「明かされる理由」
娘を心配してか、連れ戻そうとしたのかはわからないが、レイウェアは確かに現れた。
やはり…ファラゼロを睨み付けるのは変わらない。
しばらくファラゼロを睨んでいたレイウェアだったが、睨むのを止めた。
「ファラゼロ・ブラウンさん…そんなに身構えなくても大丈夫です」
優しい口調で、レイウェアが言った。
レイウェアの言葉に、ファラゼロは安心する。
母の言葉に安堵したキラウェルもまた、立ち塞がりを止めた。
「貴女が…シャンクス一族の?」
ファラゼロは、レイウェアに尋ねた。
レイウェアは頷くと、微笑みながら口を開いた。
「シャンクス一族首長…レイウェア・J・シャンクスと申します」
キラウェルよりも丁寧な挨拶に、ファラゼロは開いた口が塞がらない。
「貴方のこと…影で見ていました」
「えっ…?」
「あいつとは…本当に大違いなんですね」
「は…はは…」
苦笑いするしかないファラゼロ。
キラウェルの母・レイウェアが加入したため、ファラゼロは再び、自分の考えなどを話し出した。
自分の父親に見つかる前に、別の場所へ移動してほしいこと…今現在のブラウン家の状況……様々なことをレイウェアに告げた。
「………」
レイウェアは、黙ってしまった。
「やはり…難しいでしょうか?」
不安そうに尋ねるファラゼロ。
「難しいというより…貴方に理由があるように、私たちにも理由があります」
真剣な眼差しのレイウェア。
「その理由を…お聞かせください」
ファラゼロがそう言うと、レイウェアはある一冊の本を取り出した。
緑の本の表紙には、古代文字で何かが書かれている。
「これは…?」
緑の本を受け取り、見つめるファラゼロ。
「“黄金の男と闇の大穴”…という神話をご存知ですか?」
「聞いたことあります!黄金の甲冑の男が、大穴に挑んだ話ですよね。それが…理由になるのですか?」
ファラゼロがレイウェアに尋ねた。
「我々シャンクス一族は…その大穴を封じる使命も持ち合わせています」
「!?」
レイウェアのこの言葉に、ファラゼロは驚きを隠せない。
「初めて知った…」
キラウェルも、驚きを隠せない。
「我々シャンクス一族は…“フェニックスの魔法”という魔法を、代々護り受け継いできました。大穴を封じる力も持ち合わせているため、その魔法の威力は絶大です」
驚く皆を見渡し、レイウェアは続ける。
「魔法の所持者がこの場から離れてしまうと、封印の力が弱まり…また闇が溢れてしまいます!!」
「他の者に継承は…?」
ファラゼロがレイウェアに尋ねるが、レイウェアは頭を振る。
「我々は長い間…大穴を探して各地を回っていました。そして、ようやくこの場所にその大穴があることを突き止めました。先程も言った通り…魔法の所持者は離れてはいけないのです。継承者であっても同じです…!」
「母さん…他に方法はないの!?」
堪らず、キラウェルが声をあげる。
「残念だけど…大穴を封じる方法は、魔法の所持者がその場にいることだけなの」
レイウェアは、申し訳なさそうに言った。
「そんな……!!」
肩を落とすキラウェル。
本を読んでいたファラゼロが、ふいに顔をあげて口を開いた。
「レイウェアさん、この古文書に“五つの超希少系”と書かれていましたが…フェニックスの魔法も、その一つなのですか?」
「そうですが…。ファラゼロさん、貴方…古代文字が読めるのですか?」
驚くレイウェア。
「はい…。じいちゃんから教わっていたので。読めないものもありますが、だいたいは読めます」
ファラゼロはそう言うと、再び本を開いて読み始めた。
「五つの超希少系で成り立つ封印は、絶対のものとなる。古より受けしこの魔法は、五つ揃った時が本来の力となる。しかし、ある時の暴走により、魔法は地方に飛ばされ…“天”が二つに分かれてしまった。“不死鳥”は人間に拾われ…“兄”と“弟”は、それぞれ別の人間へ…“月”は行方知れずとなる」
ファラゼロの言葉を聞いたキラウェルは、口を開いた。
「その“不死鳥”を…お祖父ちゃんたちが…」
「ということは…レイウェアさん、貴女が!?」
ファラゼロがそう言うと、レイウェアは頷いて口を開く。
「超希少系魔法の一つであり、不老の力をもつ…“フェニックスの魔法”……私は、その所持者です」
レイウェアのこの言葉に、ファラゼロたちは驚きのあまり立ち上がった。
レイウェアのまさかの発言に、ファラゼロとガクは驚きを隠せない。
キラウェルもまた、複雑な表情をしている。
男性は開いた口が塞がらない。
「我々がここから離れられない理由が…おわかりになりましたか?」
レイウェアは、ファラゼロに尋ねる。
「はい…」
ファラゼロは頷く。
「例え居場所を知られても…私はこの場から離れません。離れてしまうと…また災いが起きるからです」
レイウェアはそう言うと、ベンチから立ち上がる。
「今日はもう遅いです…。ファラゼロさん、話を聞いてくださって…ありがとうございました。」
そう言って、微笑むレイウェア。
物言わぬその微笑みに、ファラゼロは頷くしかなかった。
レイウェアたちと別れたファラゼロとガクは、カンナに迎え入れられた。
あまりにも大きすぎる話に、ファラゼロは頭の整理がつかない。
「親父は…あんな大きすぎるものに…手を出そうとしているのか!?」
いくらかは覚悟していたが、改めて思うと恐ろしい。
止めなければ…悲劇は繰り返されてしまう。
「どうしたらいい!?…どうしたら……!」
頭を抱えるファラゼロ。
そんなファラゼロを見守る事しか出来ない、ガクとカンナであった…。
第11話へ